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続・佐野氏問題の終了

 佐野氏のメッセージは、ご家庭にイタズラなどがあり不安なのでエンブレムは撤回するということでした。そのことをもって、多くの人が同情し、問題追求はやめようという気分になっているようです。大人げない連中によるイタズラはけしからんことだと思いますが、あのメッセージは、一番、大事な問題への自覚が抜けているような気がする。「図らずもご迷惑をかけた」人々ではなくて、「意図的にご迷惑をかけた人」に対する謝罪がない。感情的な反応をするのではなく、論理的に解決していかなければならないのに。

 佐野氏に同情的なデザイナーの人たちは、素人がプロの仕事に文句をつけるな、と言う。しかし、その素人の素材を、プロである佐野氏が無断借用して、作品として納品してしまったことを、どう理由付けるのか。プロの自覚があるなら、なぜ、そのことを指摘しないのか。少なくとも、佐野氏は、納品して得た対価の中から、無断借用したコンテンツ制作者への支払いはすべきだと思う。サントリーのトートバッグの剽窃については認めたが、他の疑問案件についても、支払いが発生するものと、発生しないものを明確にすべきだ。「自分の作品でないものまでパクリと言われている」のなら、何が本当で、何が剽窃なのかを佐野氏側は、第三者委員会でも作ってあきらかにすべきだ。個別に素人じみた言い訳だけを発表する限り、問題は完全に沈静化しない。

 若いデザイナーは知らないだろうが、昔、今の佐野氏と同じように時代の売れっ子デザイナーがいて、あることが発覚してほされたことがあった。通常、広告の制作は、デザイン事務所が一括して見積もりを出し、請求書を発行する。その中には、カメラマンの撮影費やイラスト作成費など、もろもろの外注費、諸経費が含まれる。

 そのデザイナーは、カメラマンの実際のギャラの倍以上を請求していたのだ。進行管理費として15から20%を乗せることはあるとしても、倍はやりすぎである。そのことが発覚したのは、あるメーカーの広告部長が、他のデザイナーを使った時に、同じカメラマンへのギャラがまるで違っていることに気付き、激怒したことで、代理店がそのデザイナーを避けるようになったということだ。

 メーカーは、下請けに対して、1銭単位のコストダウンを要求しているのだ。広告の世界は、一見フランクな雰囲気がするが、アバウトにやると、とても恐ろしい世界なのだと思う。佐野氏の才能が、トラブルの後始末の悪さから、クライアントから離れてしまうことが危惧される。その時、今、同情的な周辺のデザイナーや代理店関係者がどういう対応をするか、想像してみた方が良い。インターネットが登場した意味をいまいちど考えてもらい、インターネットを活用しながら、新しいクリエティブの世界を切り開いていって欲しいと願う。


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