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アルマーニ制服の根底にあるもの。

(1)制服のデザイナーブランド化

 銀座の泰明小学校のアルマーニ制服問題が話題になっている。

銀座の公立小、制服にアルマーニ 一式揃えて9万円

 ちょっと時代を巻き戻してみよう。

 80年代バブルの頃に、制服のデザイナーブランド化がはじまった。特に女子高校は、制服で偏差値が変わる、とも言われ、「可愛い制服着たくてあの高校に入りたい」というムーブメントになった。その中で、一番、頑張って制服をデザインしたのは、森英恵だろう。アパレル産業がユニホーム・マーケットに関心を持った頃だ。90年になると、ブルセラ(ブルマとセーラー服)のブームがあり、女子高生が卒業すると、古い制服を引き取る業者があらわれ、だんだん過激になって下着も直接販売するということも起きた。

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(2)学生服市場

 ところで、学生服の市場って、どのくらいあるか知っていますか。昔、文科省の仕事をしている時に気になって調べたことがある。今回、あらためて調べてみた。

 経済産業省の「平成16年工業統計表」を見ると、学校服製造業の生産高は459億7900万円。それなりに凄い市場だ。アルマーニみたいな単発のケースもあるが、普通の学生服を作っているのは、だいたい岡山県に集中している。日本の近代産業化と貿易は、繊維産業からはじまり、紡績企業は岡山あたりの瀬戸内海沿岸に集中していた。愛知の豊田佐吉が発明した自動織機は、大ヒットし、岡山で製造し、大阪で販売した。

 菅公学生服株式会社という会社が岡山にあり、「カンコー」の宣伝をアイドルグループなどを使って宣伝しているが、ここは江戸時代の創業で、老舗である。

菅公学生服株式会社
348億1,800万円(2016年度グループ連結)
*学生服以外のカバンや体操着なども販売しているので、学生服だけではない。

 明治になって繊維産業の近代化が起こり、布地の大量生産が可能になり、西洋からやってきた洋服の時代がはじまり、岡山の繊維産業は発展した。その中で大きな売上を上げたのが、軍隊の兵隊服だろう。政府がまとめて買ってくれるので、流通経費も手間もいらない。

 そして、ここからは、推測だが、敗戦を迎えて、軍隊という得意先を失った繊維産業が向かったのが戦後の民主主義教育を推進した、公立学校だろう。陸軍の軍服は男子の制服になり、海軍の軍服は女子のセーラー服になった、と思っている。

 戦後の民主主義は、平等を何より大事にしたので、私服にすると、豊かな者と貧しい者が可視化されてしまうので、制服というのは、標準化という観点からは、重宝だったのだろう。

 岡山の繊維産業は、戦後社会の中で、学校制服と、もうひとつ、ジーパンという市場を開発して、地域の人たちを豊かにした。

(3)戦後民主主義教育

 戦前の封建主義的な上意下達の社会ルールの否定から、戦後社会の意識変革がはじまった。主導したのはアメリカで、アメリカにとっては、上官の命令であれば命を捨てて特攻する戦前の日本人の体質に恐怖し、個人主義と民主主義を新しい価値観として普及させようとした。教育現場では、民主主義が金科玉条のテーマであった。

 戦後の子どもの生活や意識をずっと追いかけてきた子ども調査研究所の高山英男所長から、若い時に、学校給食の話を聞いたことがある。この話は、すでに何回か、書籍で書いたことがあると思うが、あらためて書く。

 戦後に登場した学校給食の制度は、敗戦で飢えた子どもたちの栄養補給という側面と、アメリカの小麦や牛乳の食生活を日本人に刷り込む思惑があっただろう。そして、給食もまた、民主主義教育の一貫であった。給食の調理をするおばちゃんたちは、少ない素材で、子どもたちに美味しい食べ物を提供しようとして、工夫を重ねた。しかし、肉や魚をそのまま調理して提供すると、大きな肉塊や魚のサイズがバラバラになり、「平等」にならない。そこで考えたのが、肉でも魚でも一度、ミンチにしてしまい、それを同じ分量ずつに分けて提供するというものだ。ミートボールや魚のすり身のフライなどがよく出た。戦後、若い世代が、ハンバーガー文化に馴染んだのも、給食の文化に影響されているのではないか。厨房でミンチにしてしまえば、肉を噛んだり、魚の骨を取るということもなく、食べやすい。機械が噛み砕いてくれるわけだから。

 高山さんは、こうした戦後給食文化を「戦後ミンチ主義」と呼んだ(笑)

(4)学生服とアクティブラーニング

 さて、アルマーニ制服が高いとか安いとかいう問題はどうでもよい。問題は、学生服の意味が、すでに無意味になってきているのではないかということだ。

 学校教育の中身が、単に外形的な知識を覚えるだけの教育から、アクティブ・ラーニングという、個人の自発性による能動的な学習方法が重要だと言われてきているのに、アルマーニだろうがカンコーであろうが、制服で生徒たちを外形的に統一するというのは、時代遅れになっているのではないか。アルマーニを着たければ着ればよいし、モンペと麦わら帽子が好きなら、そうすればよい。そうした個人権力の育成が、21世紀型スキルを体得するための、これからの学校の方法なのではないか。

 そして問題は、459億7900万円の学生服市場を、特定の学生服メーカーの利権構造の中で収めるのではなく、広く、新しいファッション・デザイナーたちの商品として市場開放すべきだと思う。

 これは、実は、学生服だけではなく、教科書の問題でもある。教科書も無償化の波で、文科省の検定が通れば、独占的に学校市場で販売出来る。

 例えば、直近のデータによると、文部科学省検定済教科書(小学校・中学校)の冊数は、1億冊を越えている。(10615万冊)。これを扱う教科書会社は、55社である。政府による買上げという、不況の出版界からすれば、飛びつきたいほどの魅力的な市場ではないのか。

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