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【小説】疎の時代〜楢節茜の章〜

楢節茜の章
楢節茜は、電車に揺られてN県に向かっている。
産みの母親に会ってみたいと思った。ルール違反だけど、好奇心には勝てなかった。

役所で戸籍を閲覧し、自分を産んでくれた両親の名前を知った。あとは、SNSでそれらしい人を探した。どこに住んでいるのかも、年齢も、何をしているのかも何も知らない。今住んでいる場所には、生みの親を知っている人はいない。いないどころか、つながりのある人もいない。そういうシステムなのだ、ということはよくわかっている。

育ての親や家族に不満があるわけではない。ただの好奇心だ。知らないほうがいいのかもしれない、とも思う。
社会に出て、他の県に行ったときに、生みの親を知らないことの方が少数派だということを知った。自分のコミュニティが実験的だということは、学校で教わったけど、他の場所も同じようなものだと思っていたのだ。

経済的に子育てができないとか、晩婚化とか、虐待とかいろいろ問題があって、少子化が進み、取り返しがつかないところまで進んでしまったらしい。自分の周りは、こんなに子供がいっぱいいるのに。実感が湧かない。
家族はとても居心地がいいし、自分も将来5人くらい産んでみたいと思う。

自分には、生みの親がいないけど、兄弟の中には生みの親に育てられてる弟や妹がいる。羨ましいのかなというと、そんなことはないかな。
でも、親の顔くらい一度は見てみたい思う。なんて言えばいいかわからないから、遠くから見るだけで帰ってこようと思う。ちょっとドキドキしてる。

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