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(シンポジウム記録)メタ観光シンポジウム vol. 5「メタ観光とまちづくり 〜まちを観光化する〜」

■ 日   時 2022年 8月 4日(木)19:00 – 21:00
■ 場   所 オンライン(有料zoomウェビナー)
■ プログラム
1. 挨  拶  牧野 友衛(代表理事)
2. 解  題  真鍋 陸太郎(理事)
3. 事例紹介
  西村 幸夫(國學院大學教授)
  大谷 典之(三菱地所株式会社)
  島原 万丈(LIFULL HOME’S 総研所長)
4. パネルディスカッション
  パネリスト:事例紹介の3氏、齋藤 貴弘(理事)
  コーディネータ:  伏谷 博之(理事)
5. まとめ・告知     玉置 泰紀(理事)

オンラインシンポジウム第5回は『メタ観光とまちづくり〜まちを観光化する〜』というテーマのもと開催された。発表は國學院大學観光まちづくり学部長・教授の西村幸夫氏、三菱地所エリアマネジメント企画部/特定非営利活動法人大丸有エリアマネジメント協会事務局長の大谷典之氏、LIFULL HOME'S総研所長の島原万丈氏の3名によって行われ、それを受けてパネルディスカッションがなされた。

まず西村氏より、甲府の1900年代の地図を見ながら現在の街並みと比較し、まちづくりという活動がもつ物語性について発表があった。地図を通してまちの歴史を見てみると、そこには様々な変化の痕跡がある。例えば甲府の地図では、中世に建てられた城館、近世の城下町、そして近代に敷かれた鉄道によってまちが構成されており、様々な時代の建造物が重なり合っていることがわかる。まちの変化を見ることで、そこに一つの物語が本のように立ち現れるのである。このような変化はまちの歴史であると同時に、まちづくりを行ってきた住民の物語でもあると西村氏は述べる。まちの物語は、住民にとっては自分たちが書き手としてその続きを紡いでゆくものであり、観光客にとってはそれが観光資源になりうる。自分たちのまちの過去を見ることから未来を構想する、というまちづくりの本質が西村氏の発表によって明らかとなった。

資料を提示しながら話題提供をする西村幸夫氏

次に大谷氏からは、大手町、丸の内、有楽町の3つからなる「大丸有」エリアの再開発について、丸の内仲通りの変遷を中心に発表がなされた。20年前の丸の内仲通りは無機質的で、土日は閑散としていたという。ここから地権者、行政が連携して今の姿に変化していった。まちづくりは自治体、鉄道会社、地権者などの共同によって行われ、官民一体の全員参加型まちづくりが特徴であるという。計画立案にあたっては人中心、多様な人々が集まり、新しい発見、出会いがあるまちを目指していくという大きなコンセプトが作られた。人中心の空間であることと同時に、大丸有エリアの歴史を継承してゆくため、歴史的建造物との調和が目指された。整備された通りは写真スポットやイベント会場にもなり、また多くの商業施設も立ち並んでいる。これらが歴史的建築と隣接しながら国内のみならず海外からの観光客も集めている。場当たり的ではなく、エリアの古き良き歴史を踏襲し、地権者や行政の思いに基づいて変化をしていったまちづくりの事例として大丸有エリアの再開発は位置づけられる。
最後に島原氏からは都市の評価基準に関する発表が行われた。ここでのキーワードは「官能都市」である。島原氏によればここでいう官能は感覚や五感を表しており、五感で都市を評価する試みに取り組んだ調査研究レポートを基に発表がなされた。調査の問題意識としては、国内の各都市で狭い飲み屋街や横丁がリスク管理のもとどんどん取り壊され再開発されているという現状認識がある。こういった再開発はどこも似たようなありきたりな空間設計となっており、経済中心の都市計画が生む均一性が見られるという。その結果、都市の評価において感覚的な価値をどうやって測るかという問題が置き去りにされているという問題がある。ここから、島原氏の調査では都市をハコモノなどの名詞ではなく、動詞で評価するという設計がなされた。地域のボランティアやイベント、祭りに参加したかなど、具体的なアクティビティの経験に関する頻度を質問することで、生活者を主語とした客観的な測定が可能になった。島原氏は各都市の特徴を挙げながら、都市にはさらに官能が必要であるという提案を行い、発表を締めくくった。

以降は理事の伏谷博之がコーディネータを務め、3名の発表者に同じく理事の齋藤貴弘が参加してパネルディスカッションが行われた。

パネルディスカッションの様子

まず伏谷よりまちづくりと観光の関係というトピックがなされた。西村氏によると20年ほど前は地域社会に悪影響を及ぼす存在として観光客は認識されていたという。しかし、人口減少とともに関係人口を増やすことも視野に入ってくるようになると、観光客の存在が地域社会からも肯定的に捉えられるようになった。大谷氏はデベロッパーの視点から、やはり20年前には都市開発において観光はあまり意識されていなかったと補足した。丸の内エリアに関していえば歴史的な景観が観光資源になりインバウンドをもたらしていることがデータ活用によりわかると、都市観光という視点が重要になったという。島原氏の官能都市という評価基準についても、発表後に観光業界から問い合わせがあったようで、改めて都市観光というジャンルが意識されていることを島原氏は指摘した。現在はそのまちの生活文化を見に行くという観光様式が主となっていることもあり、まちづくりと観光という線引きが溶け合っている状況があると島原氏は述べる。
さらにまちづくりと観光の関係というトピックに関連して、齋藤からは文化と観光とまちづくりの関係性を相互作用によって捉える必要性が述べられた。地域の価値を経済指標で測ることは、文化的な価値を後退させることにも繋がる。そうではなく、まちづくりないし観光のステークホルダー間のコミュニケーションによって、文化と観光の関係がバランスよく作られていくことが望ましいと齋藤はコメントした。
次に伏谷からは観光資源を資産としてみなし活用していく視点についてトピックが提起された。島原氏の発表で挙げられた横丁も、戦後に建てられたもので歴史的には浅いとはいえ、外国人をはじめとする観光客からは注目を浴びるスポットとなっている。そういったまちに眠っているものを異なる視点や価値観で眺め直すと、観光資源として活用できるのではないかと島原氏から提案があった。
これに関連し、歴史的景観とまちづくりについて取り組んできた西村氏から、かつての観光資源の利用について整理がなされた。観光ブームで観光客が増えた時期は、地域の価値を見直す時間的余裕がなかったこともあり、バブル的に安直な利用がなされる傾向が強かったという。コロナ以降の観光の復活を見据えると、今改めて地域の物語を見直す必要性があり、それができる地域とできない地域で今後差が出てくる可能性を西村氏は指摘した。
最後のトピックとして、メタ観光との接続について改めて伏谷から問題提起がなされた。伏谷は、メタ観光は観光客のほうから地域の見どころを見つけて遊びに行く形態であり、同じ場所に集まっているがそれぞれに目的が異なるという点がメタ観光の特徴であると説明した。この特徴をこれまでの観光資源の利用という話と接続するとどのようになるかという点について、齋藤は大谷氏による大丸有エリア再開発の話を例に挙げ、商業施設の中に横丁的な雰囲気が再現されるなど夜の文化が局所的に埋め込まれている点を指摘した。こうした過去の空間の再現も、場所の物語化という側面でメタ観光に通ずるものがあり、時間経過を意識した観光資源の再物語化の必要性が改めて確認された。
パネルディスカッションの最後になされた質疑応答では、古民家などの建築物について、経済活動に左右されないまちのための資源活用がなされるとしたらどのようなものか、という質問がまずなされた。これに対し西村氏からは、多層的な物語の読み込みという論点から応答があった。メタ観光とは、繰り返せば、同じ場所に異なる物語を見る行為であり、つまり一つの場所にまつわる物語を多層化して見せる方法とも言える。その対象に古民家を選ぶとしたらそこに多層的な物語を読み込めるようにすることが重要であると西村氏は述べた。さらに付け加えて、メタ観光は本来、地域の物理的空間との関係性や身体性と関係が薄いと西村氏は指摘し、メタ観光が具体的な場にいかに寄与していくのかという点を今後の課題として挙げた。
西村氏が挙げた論点に続いて、島原氏は古民家などを住む人のための施設として活用することを提案した。活用法としてはサテライトオフィスやシェアハウスなど、観光と移住の中間的な形態も含めていくことで関係人口を取り込むことがイメージされた。こうした日常使いの場所にしていくという方向性も、経済活動に左右されない資源活用としてありうることが島原氏によって示された。
最後の質問として、島原氏の発表に関連して、都市の色気はどのように作っていけばよいかという問いが投げかけられた。齋藤からは、多少の逸脱も包摂する余地のある自由がまちにあるか、という視点が挙げられた。大谷氏もまた、雑多で様々な楽しみ方を選べるまちが色気のあるまちではないかと述べた。西村氏は少し異なる方向からまちの色気について述べ、歴史の手あかが蓄積されていることを挙げた。歴史の手あかとは昔の汚れや落書きの跡などで、こういった歴史の蓄積を見た時に人間は空間に趣を感じ色気として表現するという考えが提示された。
官能という評価軸を設定して調査を行った島原氏は、最も重要な観点として歩行を挙げた。例えば色気をあえて排した空間としてショッピングモールなどが挙げられるが、こういった商業空間は最も効率的に消費をさせる空間として機能している。その反対として、いかに歩ける空間があるかという点が、まちの色気につながると述べた。この点に関して大谷氏も同意し、丸の内仲通りも歩けるという点、さらに歩くことで会話が弾みコミュニケーションが促進されていく点が重要ではないかと指摘した。これに対し西村氏からは、歴史的な空間は歩くことを前提としてきた中で、20世紀以降には自動車のための道になってきた、これをもう一度人間がいかに取り戻すかということが都市にとって重要な課題であると補足がなされた。

ディスカッションの最後にここまでの議論を受けて、齋藤が改めてメタ観光との関連を指摘した。メタ観光とは観光産業にとって良いものというよりは、地域住民が大切にしている価値や歴史の文脈を外部に開いていくアプローチとして再定義できる。その上で、これまで取りこぼされてきた観光資源を拾い上げていくという意味でまちづくりに大きな貢献ができる取り組みである。齋藤のコメントを通じて、今回のシンポジウムではメタ観光の地域貢献への役割と意義に関する知見が得られたことが、改めて確認された。


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