「九条いつき」とは何者か?或いはハイデガー的存在論への反駁 其ノ七

「存在と時間」?どこかで聞いたことがあるような気がする回でした。

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というわけで、ビッグデータを記憶・学習させたことで応用範囲の広い認知が可能になって直感的にかなり知的になってきたAIが存在する現代ですが、それは現象学が提唱する意識構造モデルが実験・検証された結果だと言えるかも知れません。

それに対して初期の人工知能研究者が「何の成果も!!得られませんでした!!」と絶叫したのは、行動主義心理学と同様の方法で意識を再現しようとしていたからだと『現象学入門』では指摘しています。

『其ノ三』で行動主義心理学とは「思想」ではなく「科学」にブレた心理学といいましたが、"信念や思考などのように観察不可能な心的原因という見地から行動を説明することに反対" *1 します。人工知能の開祖アラン・チューリングが考えた有名なチューリングテストも、対話している人間が相手を人工知能ではなく人間だと勘違いさせれば、その奥で実行されているのは知性であるということにしますよね。

個人的にはこのチューリングテストも納得いっていなくて、おっさんが美少女VTuberをしているからといってその美少女VTuberに一瞬勘違いさせられることはあってもそんなの"充実"度3%ですよ(人によっては97%になることを否定はしませんが)だから中の人を知りたがるんでしょと言いたいです。問題解決にまるで役立たないチャットボットは、企業にとってだけ都合のいい厄介客払いでしかないですよ。これからも「お前を消す方法」を検索したいと思います。

そんな憤慨はともかく、チューリングコンピュータの発展はそのまま新しい心理学を生むことになりそれが認知主義心理学になったそうです。つまり脳はハードウェアであり、心はその生得的なハードウェアを使って外部刺激を計算するソフトウェアとする。これっていわゆる「精神」で、これでみんな大好きな精神病* 2 PTSDやアダルトチルドレンがでてくる。認知主義心理学が現代は主流だとか。

ところが、では検証しようということででてくるソフトウェアの人工知能って少なくとも今の段階では知性とは言い難いものが多い。やれチェスのグランドマスターを倒しただの、やれ将棋電王戦でプロ棋士が負けただの宣伝はするけれども、それって要は大規模データベースの高速検索ですよね?

もしそこで対戦中にプログラムバグを突いてくるプロ棋士への対抗策を自分で編み出して差し手を変える、ということであれば凄い知性だし、なんなら勝利後にインタビューに応えてマイクパフォーマンスしてくれるというなら完全に知性だと言えると思うのですが、今のところ横のマネージャーらしき人(笑)が代わりに答えることになっています。

つまり意識の最低限には、外部環境への応答が備わっていなければならない。『現象学入門』ではそれがハイデガー的人工知能なのだ、と論じられています。

つづく


*1  同じく『現象学入門』(勁草書房,2018)より引用
*2  精神病が市民権を得たのはTV版『エヴァンゲリオン』の負の遺産だと思っていて、素人が安易に精神病名を振りかざすのは本当にやめておいた方がいいと思います。鬱とか。

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