なぜ98%の民泊物件が姿を消したのか

2018年6月15日(つまり今日)から民泊新法が施行されます。民泊新法ができたことで、今までグレーと言われていた民泊物件が、「この物件は民泊として合法的に運営してますよ」というお墨付きを政府からもらえることになります。

しかし、今まで民泊で運営されていた98%※1 の物件が届出をできずに姿を消し、民泊新法は実態として民泊撲滅法となってしまいました。なぜ、本来なら空き家対策や、オリンピックの宿泊施設不足を解決する手段として期待されていた民泊がこのように事になったのでしょうか。

幸か不幸か民泊業界で4年ほど事業を展開してきた筆者が、本件の背景について考察したいと思います。

いつもは民泊総合研究所で投資家向けにコラムを書くのですが、今回は民泊業界とは関係がない事業家の方にも、法律が業界にどんな影響を与えるかという貴重なケースとして参考になるよう書いてみました。

98%の物件が姿を消した4つの理由

①そもそも民泊をわざわざ増やす必要がない
近年の急激な訪日外国人数の伸びにより、都心部を中心に宿泊施設が足りなくなるのではないかと言われてきました。

しかし最近ではむしろ、2020年のオリンピックが終わった後、宿泊施設が供給過多になるのではないかという試算がされています。

東京や大阪に住んでいる人は、あちこちでホテルが建設されている事に気づいているのではないでしょうか?
地主を抑えているハウスメーカー、不動産デベロッパーからすると、ホテルは住宅より利回りが高く見せられる優良な商材になっています。

当社にも不動産REITやファンドなどからホテルのオペレーティング(運営)に関する打診が多く寄せられます。様々な業者が競うようにホテルを建てている事で、宿泊施設不足を補う民泊は必要ではなくなってきているのでしょう。

②民泊は歓迎されていない
民泊新法の届出を行う上で様々な障壁がありますが、一番の障壁は民泊が歓迎されていない事かと思います。

分譲マンションで民泊を行う為には、マンションの管理組合の許可が必要なのですが、実際に許可が取れた例はほとんど聞いた事がありません。

また保健所に寄せられる民泊の苦情件数は年々増えていますし、世論としても民泊が歓迎されているとは言えない状況です。

この辺りが実態として民泊が規制対象となってしまった原因かと思います。

③関連法に抵触する可能性が高い

民泊新法の障壁の中には、民泊新法とは別に消防法や建築基準法の一部をクリアしなければいけないという事も挙げられます。

マンション(共同住宅)の空いた部屋を民泊にしたい、という要望は多いのですが、上記の法令をクリアするために数百万円、数千万円の投資が必要になるケースが多いです。

もちろん空いている1室だけ転用する為に多額の投資は困難であるため、ここで諦める人も多いです。

④業界団体の力関係に差がありすぎる

民泊新法の制定に大きく関わっていたとされる業界団体は、不動産業界、ホテル業界、民泊業界の3つです。

不動産業界、ホテル業界の2つに比べ、民泊業界はロビー活動において圧倒的に力不足でした。これは、民泊業界がロビー活動を得意としない個人ホストが多い事、民泊が法律的にグレーだった事などが理由です。

不動産業界は自民党政権に対して圧倒的な交渉力を持っていると噂されています。

それを裏付けるのが、民泊物件の管理を行う管理事業者は、民泊とは関係がない不動産の宅建業免許※2 が必要になります。

また、民泊新法の特徴として年間180日しか運営ができません。これもホテル業界との兼ね合いから必要だったと言われています。

余談ですが、民泊新法の施行の裏側には、ホテル・旅館に関わる旅館業法の緩和があります。(こちらも6月15日に施行) 旅館業法の改正によって、規模の小さい施設は民泊と同様の運営が可能になります。※3

上記によって、年間180日しか運営ができない民泊新法をわざわざ届出しなくても、旅館業法で運営する法が有利になります。

民泊はブルーオーシャンなのか

上記の原因などによって、民泊物件は2%しか残らない結果となりました。

つまり、届出が受理された物件は売上が50倍になる可能性もあるという事になります。
実際に、当社が運営する合法民泊物件は6月から圧倒的に売上が向上しました。

しかし、施設を掲載するOTA(Airbnbなどの予約サイト)は、民泊物件のみを掲載しているわけではなくホテルやゲストハウスも掲載が可能です。

という事は、OTA内でも多人数向けでキッチンがあり中長期滞在に適している「民泊」のように、特定の宿泊ニーズを満たす1カテゴリーに集客される可能性が高くなります。

長期的にみると障壁の高い法律をせっかくクリアしても、ブルーオーシャンとはなりえないと考えられます。

まとめ

新法施行に至る背景の考察を通じて、以下に事業家として業界の未来を読む上で重要だと感じた点をまとめました。

・●●は社会のどんな課題を解決するものなのか
・●●は既存の法律(関連法も含め)に抵触する可能性があるか
・●●に対する世論の反応が良いのか(歓迎されているのか)
・敵対しうる業界団体はあるのか、協力できる業界団体はあるのか

以上、ざっくりとした考察でした!
当社では、不動産・ホテル業界に新しい風を吹かせる事業をやってますので、興味ある方は以下までメッセージくださーい!

https://www.facebook.com/ShunTomeda

※1  1,134件(民泊新法の届出受理された物件数) /57,000件(2018年4月時点Airbnbに掲載されていた物件数)

※2「住宅宿泊管理業を的確に遂行するための必要な体制が整備されていることを証する書類」

※3 玄関帳場・フロントを設置しないことを許可

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