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デフスペースデザインリサーチ in 長野

めとてラボは、「め」と「て」で生まれる自然な文化を耕していくための創造拠点づくりを目指し、さまざまな人と協働し、模索しながらリサーチや実験をするラボラトリーです。
視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親を持つ聴者)が主体となり、自らの感覚や言語を起点とする創発の場(ホーム)をつくることや、異なる身体性や感覚世界を持つ人々とともに、新たなコミュニケーションの在り方を研究・開発することに取り組んでいます。

「め」と「て」で耕されていく文化に触れる。
今回は、ギャロデット大学と筑波技術大学大学院にてデフスペースデザインの研究をされ、国内外のリサーチに取り組まれている福島愛未さんと進めた、手話で会話することと、視覚や触覚を起点とする身体的な感覚から生まれてきた居住空間のリサーチについて、めとてラボメンバー・和田夏実がお届けします。

福島愛未 (Frontrunners在学中)は、筑波技術大学で建築を学ぶ。在学時の米国研修でGallaudet Universityを訪れ、ろう者の行動様式にあったDeafSpace Designを知ったことをきっかけに渡米を決意。日本財団聴覚障害者海外奨学金事業の助成を受け、Gallaudet UniversityでDeafSpace Designを学びながら、DeafSpace Designを取り入れたキャンパス計画を実施するオフィスでインターンシップを行う。帰国後、筑波技術大学大学院で日本におけるDeafSpace Designを研究。現在は、デンマークのFrontrunnersでDeafSpace Designを広めるための映像制作技術を学ぶと共に、欧米諸国のDeafSpace Designを視察中。

和田 夏実は、長野出身、手話で話す両親のもとで、手話で育ったコーダ。ホームステイを受け入れることが多かったことから様々な国の文化や手話表現、その人のからだの記憶に興味を持ち、技術やデザインなどの手法をもちいて、視覚と身体の言語とメディア表現について研究を行う。「めとてラボ」では全体のプロジェクト進行などを担当。ゲームや遊びをつくるのが好き。

みなさんは、「デフスペース」という言葉をご存知ですか?

例えば、お互いの目を見て会話をするために、1階から3階までが吹き抜けになっていて、どこにいてもお互いの顔を見合わせることができるようになっていたり。

部屋の照明を活用して、電気をチカチカ点灯させることで人を呼んだり。

デフスペース自体は、アメリカで生まれた概念ですが、実のところ日本にも人々の暮らしののなかにさまざまなデフスペースの工夫がみられます。
そこで、福島愛未さんと、日本におけるデフスペースを探しにいこう!と、今回は、長野のとある家を訪問し、家主にインタビューを行いました。

現地参加メンバー:福島愛未、牧原依里、和田夏実
オンライン参加メンバー:岩泉穂、根本和德

ここは長野で約20年前につくられた、ろう者の両親とコーダの3人家族が住む家です。3人は主に手話で会話をします。
例えば、「ごはんですよ〜!」と家族を呼びたいときは、一体どのようにするのでしょうか?

写真の白枠のところを見てみると、全室の照明スイッチが並んでいる。

1階には全部の部屋のスイッチを管理するボタンが並んでいて、そこから呼びたい人がいる部屋のスイッチをチカチカさせます。呼ばれた人は自分の部屋から1階に向かって顔を出すと、そこで会話ができる(情報を伝えられる)という空間になっています。

照明は、その他にもさまざまな情報を伝える役割があります。

例えばトイレに入っていることを伝えたり。
視覚的な心地よさを感じるデザインとしても照明を活用していたり。
この家を建てる時には、建築家の方とたくさん相談しながら作っていったそうです。
こどもの様子をリビングルームから見えるようにしたこども部屋。

住まいを作っていくためには、家族の好みや既存のものとの関わりも重要で、料理をしたり、掃除をしたり、そうした生活のなかでの工夫もまた組み込まれていきます。

デフスペースデザインってなんだろう?

インタビューは、現地参加メンバーと遠隔参加メンバーをZoomでつないで、手話で語らいながら、「デフスペースデザイン」と呼ばれている空間を作っていくための方法や今後の展望について話し合いました。

<コミュニケーションツールについて>
・よりよいデフスペースデザインのためにコミュニケーションツールとしてのスケッチブックをつくり設計者とともに丁寧に作っていく必要があること
・窓の広さや設計指針をこれまでの慣習から手話話者の体にあうように、設計プロセスに並走して議論し続けることが大切なこと

<日本の中にあるデフスペースデザイン>
・靴を脱いで床に座る文化の中でのデフスペースというものがあるはず。家の中に隠れているものを集めていくことで日本のデフスペースデザインが見つかっていくのでは。

<制度の今後>
・チャイムの代わりに電気の照明をつけるなどは、アメリカや韓国では補助の対象だけど日本ではまだ。発見を重ねていき、法律や制度にも関わっていくことが必要。

<個人の暮らしとデフスペース>
・暮らしの中に、生活の工夫がたくさん見えてくる。ゴミの出し方、収納の場所、暮らしやすさと言語と身体、細かなその人らしい工夫がより良い空間につながっている。

現地リサーチとインタビューを通して、あらためて、家を作るということは、ひとりひとりの存在や言語、その人らしさを肯定していくことなのだと実感しました。

まだまだいろんなところに隠れているかもしれない、デフスペースデザイン。
自分の家にもこうした工夫があるよ!という方がいらっしゃったら、ぜひ一緒にまだまだ眠るデフスペースのデザインについて探っていけたら嬉しいです。

【「めとてラボ」noteについて】
このnoteでは、「めとてラボ」の活動について、実際に訪れたリサーチ先での経験やそこでの気づきなどを絵や動画、写真なども織り交ぜながらレポートしていきます。執筆は、「めとてラボ」のメンバーが行います。このnoteは、手話と日本語、異なる言語話者のメンバー同士が、ともに考え、「伝え方」の方法も実験しながら綴っていくレポートです。各回、レポートの書き方や表現もさまざまになるはず。次回もお楽しみに!

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