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ノベルマガジンロクジゲン

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むつぎはじめの書いた小説が読めるマガジン。 メインはSFというかファンタジー。
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2018年10月の記事一覧

週末ヒロイン”スターバスター” 〜ヘレナはクンフーが足りない〜

冬も迫る、肌寒い夜のことだった。 帝都。路地裏で一人の酔漢を三人のギャングが囲み、そのはるか上方。 ビルの端に腰掛けた少女の顔を、ごく細かい粒子が這いずり、結びつき、覆面<マスク>を形作る。 赤ら顔の酔漢は……どうやらギャングの一人の足を踏んだらしく、それをタネに路地裏に引きずり込まれ、有り金を強請られているようだ。 (初舞台に好機) 端的に少女が心中呟き、羽織っていたパーカーを翻し、今や全身を覆ったナノ戦闘スーツを露わにすると、ギャングらの数メートル後ろ目掛けて飛び降

獣機装着ズーティックギア【ティアラーの目覚め】

シュウジが開けた目の前には床。隣席だった青年が倒れている。 上京のため装甲列車で海沿いを往く午後、シュウジは微睡みながら春からの生活を想っていた。 ――きっと、他の乗客も。 この惨劇の主……地球上全存在と相いれぬ者……”エネミー”が列車を蹂躙するまでは。 (ここは巣<コロニー>からは遠いはずだぞ) だからこそ、列車が運行されていた。 (ニンゲン! 目を覚ませ!) そんな曖昧なシュウジの思考に、突如、荒々しい声が響く。 (立て! 死にたくなければ!) 死。その言葉で彼の頭は一

ウェルカム・ブラックゲート #1

ダイヴ、スタート。おれの視界を覆っていた緋色の砂嵐が明け、目の前にカウンターが見える。 「ウェルカム。冒険者<エクスプローラ>。本日はどちらへ?」 「火星マスドライバー第69層。ライディングドレイクをレンタル」 「了解しました。解析対象は指定しますか?」 「MWコインのマイニングを」 「了解しました。ゲート、開きます」 虚空に石のアーチが出現し、その暗黒へ、おれは無造作に足を踏み出した。 2009年、世界各地にて深黒の不明物体(大型バスほどだ)が出現した。 測定不能の度外れ

夕闇魔法同好会

夕方、茜色の世界。夜の闇で編んだ様な漆黒の”けもの”が爆散する。 少女が、けものと共に砕けたアスファルトから赤色の大剣を引き抜き、振り向きざまに別のそれを水平に二分する。 巨大な狼のようなけものは、空気に解けるように消え失せた。 ――すごく綺麗だ。 遠巻きに彼女へ対し、動きあぐねていたけものの頭に穴が不意に生じ、思い出したかのように身体が散華する。蒼い槍を持った違う少女が、重力を無視したようなステップを空中で踏んで、地面へと降り立った。 周りに彼女ら二人のほかには、黒

ギガンティッツ・ドール

「少年、怪我はないか」 目の前で結晶質の皮膚を持つ巨獣を弾き飛ばし、間髪入れず一刀両断した巨大な甲冑から、無機質な声が響く。それは一切聞き覚えのない言語だと認識しながらも、何故か意味が直接少年の脳内に流れ込んでいた。 「はい、いや……無い、です」 へたり込んだまま少年……高原カズトが見上げるそれは、およそ10メートル程か。 白銀の、一般にイメージする西洋鎧のような手足と兜。それに応じて巨大な剣と、菱形の盾。 と言っても、それらはカズトの目にはあまり入っていなかったが……

ニーナ・ザ・ミストガン #1

陽で背中が灼ける感覚と共に、ニーナの意識が戻ってくる。ザラつく砂を口から吐き出し、ふらつきながら立ち上がると、ボケた視界がようやく定まった。 見回し、荒野――。 ――わたしのホルト! 誰もいない――。 ――見開かれた完璧な造形の瞳。 殴られた頭が痛む――。 ――連れ去られ遠ざかる姿と暗転する視界。 混濁する意識をよそに、彼女は左眼をウインク! すぐさま拡張視界〈オーグ〉が起動して、各種情報を視界に描き出す。日付時刻と彼女の身体状況。そして、範囲外へ追いやられ、相対マップの