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AA! アイドル 悪魔狩アイドル☆リボルビング・マヤンの日常

これの書き直し読み切りです。

『緊急警報発令。緊急警報発令。 E粒子反応増大。悪魔の出現が予想されます。誘致開始。住民は直ちに建物に避難し、観覧の準備を開始してください』

 街頭スピーカーが短いサイレンと共に大音声を発し、住民達は至近のビルへと急ぐ。避難を確認された街路は沈降しカバーシャッターを閉鎖。指定された駐車場所に停めていなかったマナー違反車両はバランスを崩し傾ぎ、挟まれ前後に両断された。

システム・イージス絶対客席保護機構発動。これ以降ステージ内外の行き来は原則不可能になります』
 そして、漆黒の粒子が虚空の一点に凝集すると、体長約5mの赤黒い皮膚、ねじくれた角、妙に長い腕を持つ悪魔が出現した。

『出現を確認。サイズ・ミディアム。タイプ・ガーゴイル。知能・C+。総合脅威度・B-』
 出現を終えた悪魔……タイプ・ガーゴイルは一瞬の落下の後意識を取り戻し、背中に折り畳まれていた翼を広げ空中へと飛び上がる。
A Aアーマー・アラウンド出演開始。第一演者、リボルビング・マヤン』

 そして、”彼”の目の前に大都市が現れる。

 第七新造対魔迎撃都市……通称”K”。彼を今から打ち砕くステージだ。

『ショウ・マスト・ゴー・オン。拍手でお出迎えください』
 ガーゴイルが、咆哮を上げた。

☆ ☆ ☆

 数分前。
「お疲れ様です! お疲れ様です! 今日はオレンジパッケージでいきます!」
 緊急警報発令下、折良くレッスン中だった新人演者・マヤンはボディラインも露わな白のアンダースーツでビル内を疾走。大慌てで大判のタオルを手に追いかけるマネージャーを他所に、格納庫へと滑り込んだ。

「っふう、追いついた。近くにいたのはたまたまだけど第一演者で幸先がイイね」
 件のマネージャー・水ム田が汗をふきつつネクタイを緩める。

「あと、せめてタオルくらいは羽織ってね」
「うわ! すみません!」
 自分の姿に思い至ったマヤンは、一瞬でその色白の頰を染める。と言っても、もはやこの格納庫・舞台袖では見咎める者もいないが。

「オーケィ、マヤンちゃん。舞台のドレスは完璧よ。あとは魔法を掛けられるアナタ待ち」
 視線の先に、整備士ドレッサーたちを引き連れバチッとレディススーツを来こなしたモデルの如き美女が現れる。アーマーデザイナーにしてプロデューサー、大泉寺だいせんじ藍鳳らんほうである。

「私もオッケーです! らんほーさん!」
「ノゥ!! イズミと呼んで!!」
「はい! ごめんなさい!」

 マヤンがヘッドセット・アーマーコアを装着し、スターティングポイントに立つと、すぐさまマジックアームがせり出しアーマーコンテナから今日のステージ衣装を彼女へ装着させてゆく。

 まずロングブーツ状のアーマーが装着され、マイクロミサイル射出機を収めた前面装甲がパタパタパタパタと可愛らしく閉じてゆき、電磁ナイフのヒールがセクシーさを醸し出す。

 次にパニエスカート状のアーマーが装着され、腰部メインスラスターがマヤンの思考リンクで上下左右に首振り確認。大振りの光波リボン・バーニヤが展開され、わずかにオゾン臭が漂う。

 控えめな胸を覆う変形セーラー服モチーフのアーマーを纏うと、背中にマルチプルバインダーを背負い今日のパッケージの特徴である自律機動砲撃ユニットを四基接続する。

 そして最後に、名前の由来でもある回転輪胴式万物撃砕砲リボルビング・ドラゴンの各ユニットを把持したアーム・アーマーに袖を通し、装着が完了した。

「悪魔、出現! 歓声、最大!」
「じゃあ、やってらっしゃい」
「頑張ってね。今日倒せば、順位が上がるよ!」
 イズミが柔らかい声で送り出し、水ム田がさほど太くもない腕でマッスルポーズをして鼓舞する。
 マヤンが、リボルビング・マヤンとなって射出された。

☆ ☆ ☆

「「「ワァァァァァァァァァァァァァ!!!」」」

 各防衛ビル屋上に設営された観覧席で、住民達が熱狂の歓声を上げる。
 その目の前に流星のごとく現れたマヤンは射出形態の外装をパージした。

「みなさーーん! こーんにーちわー!」
 ヘッドセットに向けて、マヤンがそう第一声を放つ。
 こんにちは。と返す者。愛してる。と叫ぶ者。第二演者以降目的なので地蔵になる者。

 最後の者は親衛隊にエンヤコラと客席最後列に押し出された。言語化不能の歓声に収束する。

「今日は発生確率77%とビミョーな数字でしたけど、マヤンに会う可能性は、いつも捨てちゃダメだよ?」
 ガーゴイルが彼女に気付き、超自然の肉体操作で左腕を伸張させ、一息に彼女の息の根を止めんとがら空きの首元をまっすぐ狙う。

「じゃあ、早速だけど第一曲め。【恋する銃弾】、ミュージックスタート!」
 しかし、その凶爪が彼女に触れる直前、マヤンは超高速でターン回転し易々と避けた。

 そのまま、腕がビル表面客席に突き立つ。かと思われたが、今度はその客席上空で不可視の壁に阻まれ、ガーゴイルの手は反作用として激しい衝撃を味わうことになる。

「うーん、システムも知らないおバカさんなのかな……?」
 マヤンが、マイクを押し上げながら小声で呟く。PAはすでに彼女のシングル曲の放送に切り替わっているが、そうした方が集中できる。

「1セットでやれるかな……ううん、安全策では2セットだけど、逆にそれまで……生きてないかも」
 横、振り上げ、逆薙ぎ、とガーゴイルが手を振るうごとにバックスラストで距離を開け、マヤンはそう思考する。

「イズミさん、少し暴れていいですか」
「うーん、新曲キャンペーンってことで許してもらおうかしら」
「ありがとうございます!」
 マヤンは迅撃の左甲テイル・レフトのポーチから撃魔弾を振り出し、直接憤撃の右甲ブラスト・ライトに装填する。
 再度襲いかかるガーゴイルから今度は逃げず、【テイル・レフト】の小盾、バックラーで正面からその爪を受け止めた。
「「「ワァアア!」」」
 それはタイミングよく、1サビと同時だった。

 慣性キャンセルがフル稼働し、爪とバックラーの間で黄金色の光波が瞬く。同時に機体の残エネルギーが小刻みに、しかし目に見える速度で減っていく。少しだけキャパオーバーだ。

 だが、だからこそ”映える”。

 間奏が終わり再びAメロ。長く思えた膠着の時間を取り戻すかのように【ブラスト・ライト】のハンマー状に強化された砲口で猛烈に殴りつけ、距離を開けると同時に背部バインダーから自律機動砲撃ユニットミニオンが螺旋を描いて花咲くように飛び立つ。

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(あんまりこのシークエンスは得意じゃないんだよね)

 メイントリガー下に設けられたターゲティングレーザーをガーゴイルに照射。それを基点に【ミニオン】が悪魔を取り囲み、四方向から時間差で光弾を叩き込む。

 ガーゴイルの肌が爆発し、苦鳴と共に漆黒の液体の如きものが飛び散る。しかし、一瞬の後逆再生をするように傷は塞がってしまった。

「「「ウワォーーー! ウオーーー!」」」
 歓声が上がり、その声がマヤンを”現実に”力づける。

 客席の興奮がアンテナを介してヘッドセット・アーマーコアに内蔵された公衆興波発動機構ジョイ・エンジンに流れ込み、爆発的にエネルギーが増大する。

「ドレスアップ! 【あのコは可愛い太陽の龍キューティー・サンライトハート】!」
 そして、アーマーが追加展開し、綺羅びやかにしてマヤンの可愛さを引き立たせる太陽の山吹色をしたステージ衣装が顕現する。

 それは硬質な装甲の輝きを湛えながらも服飾の柔らかさを忘れない、エネルギーで編まれた衣装である。全方面に絶大なる防御力を有し、触れなば悪魔の身体を砕く。

『「ラヴ! ラヴ! ラーヴ! ワタシの想いよ、貴方のハートにクリティカルして!」』

 スピーカーからの楽曲とマヤンの歌唱がシンクロし、溶け合い、右手の巨大な四連砲が輝きを放って砲弾を射出する。

 頭! 腹! 太もも! そして胸!

 ガーゴイルの各所が砲撃を受け、開放された恋の熱量が全身を吹き飛ばした。

☆ ☆ ☆

 舞台袖。イズミは大きく頷いて自分のアイドルの勇姿を称える。
「今日も無事、倒せたわね」
「第1セットで仕留めたのは後ろから文句も出そうですけど、総合脅威度の割に弱い今日のを逃すのは勿体ないですからね」
「ええ。運が良かったわ。運が……」
 プロデューサーとマネージャーはそう話すが、ふと、イズミは涙を流していた。

「……」
 水ム田は、固く口を引き結ぶ。

「こんな命がけの戦い、なんであんな可愛い子に。かつての……本当のアイドルにだってなれる! それくらい可愛いのに。他の子達だって」
「しようがありません。”あの機構ジョイ・エンジン”の力を引き出すには、皆に応援される”偶像アイドル”じゃなきゃいけないんです。人類が悪魔に対抗するには……あのシステムしか……」
「水ム田……博士……貴方を……私は……!!」
 イズミは溢れる水滴の奥、燃え立つような瞳で男を見た。

☆ ☆ ☆

「本日はご視聴と応援、ありがとうございました〜!」
 地に堕ち崩壊を始めたガーゴイルの死体の前で、リボルビング・マヤンがペコリと頭を下げる。すると、背後に浮いていた【ミニオン】も追随し、ペコリと頭を下げるように砲門を傾かせた。

「マヤンさん、これで今期四体目。団子状態の順位から抜け出して一気に二位に上がったわけですが、不動の一位、”妖精”ことSHI-E-RIさんには追いつけそうですか?」
 フライングプラットフォームで彼女に並んで浮かぶインタビュアーがマイクを突き出しそう問う。

「断言はできませんが、その覚悟はあります! 偉大な先輩には、追い越すことが最高の恩返しだと思うので!」
 その言葉で、周りから地鳴りのような歓声が上がった。

「はい、ありがとうございます!」
 そして声が止むのを待ち、再び少女はそれに応えて頭を下げる。

「それでは、最後に一言どうぞ!」
「これも全部全部……、みんなの、応援のちからのおかげだよ〜〜!」
 マイクに向けてそう彼女はシャウトし、ヒロインインタビューは終わった。

【おわり】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。