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「ひとりでいるとき淋しいやつが、ふたり寄ったらなおさみしい」

恋人から詩が送られてきた。

最近はもっぱら文学にふけっている彼が、どこからひっぱりだしてきたのだろうか。

茨木のり子 さんの詩が「私みたいだから読んでほしい」と言っておススメしてくれた。なかでも彼がスクリーンショットで送ってくれた「一人は賑やか」という詩はとても気に入っている。

恋人が実家に帰ると言って東京を去ってから、もう2週間以上が経った。

当初は今ごろ東京に帰ってきている予定だったのに、そのまま福岡まで旅をしているらしい。こういう自由さをお互いに許しあえていることは、自分でもすごくいいことだと思う。


2週間まえ、新宿バスタでお見送りをした帰り道。

駅前のスーパーで、彼の嫌いなしらたきと椎茸を大量買いして鍋を作った。彼がいないからといってできないことなんてほどんどなく、彼がいなくなって出来ることは、彼の嫌いな食べ物をなんの悪気もなく食べれることくらいだ。


変わらないと思っていた。彼がいなくなったとしても、なにも。いつもの時間に起きて、いつもの友達と遊んで、いつものお店に飲みに行く。変わらない生活を送っている。

だけど。ただ、とてもさみしい。

ひとりという違和感。たださみしい。

思い出が多すぎる部屋のどこをさがしても彼はいなくて、なのに面影だけはたくさん残っている。わたしはその夜、ふたりでよく聞いたミスチルのinnocent worldをエンドレスで流し続けた。2人用の布団に1人で寝ると広すぎて余計にさみしさを感じて、何度も目が覚めた。

「誰かの特別になりたくて、特別になれないことをさみしいと呼ぶ」

そう書いてあった小説のフレーズを思い出して、いま全否定したい。

さみしいとは「あたりまえ」が手の届かないところにあるとき、どうやってもそれが「あたりまえ」じゃないときに感じるものだ。

と、玄関の扉を開けていちばん最初に目に入った壁時計を見て思った。これも彼がクリスマスにプレゼントしてくれたお気に入りの時計だ。

いつも言い合っていたはずの「おやすみなさい」が直接伝えられないことも、いつも作っていたはずのふたりぶんのご飯も。彼に任せっきりだったゴミ出しを今日も忘れてしまった。

一緒にいることが「あたりまえ」だった生活が「あたりまえ」じゃなくなったいま、ものすごくさみしさを感じている。


そんなときにちょうど彼から茨木のり子さんの詩が送られてきた。

ひとりは賑やか
ひとりでいるのは 賑やかだ
賑やかな賑やかな森だよ
夢がぱちぱち はぜてくる
よからぬ思いも 湧いてくる
エーデルワイスも 毒の茸も

ひとりでいるのは 賑やかだ
賑やかな賑やかな海だよ
水平線もかたむいて
荒れに荒れっちまう夜もある
なぎの日生まれる馬鹿貝もある

ひとりでいるのは賑やかだ
誓って負け惜しみなんかじゃない
ひとりでいるとき 淋しいやつが
ふたり寄ったら なお淋しい

おおぜい寄ったなら
だ  だ だ だ だっと 堕落だな

恋人よ
まだどこにいるのかもわからない 君
ひとりでいるとき 一番賑やかなヤツで
あってくれ

”ひとりでいるとき 淋しいやつが ふたり寄ったら なお淋しい”

ほんとうにその通りだと思った。さみしいさみしい言ってるやつが2人そろったところで余計にさみしい。

ひとりでいるときに楽しかったら、ふたりでいるときはなお楽しいはずだ。たまに電話をしたりラインのやりとりでわたしの楽しかったことを報告するだけで、きっと彼も楽しくなってくれる。

「あたりまえ」が手の届かないところにあるいま、突然押し寄せてきたこのさみしさと、どう向き合えばいいかわからなくて困っていたとき、茨木のり子さんの詩がその答えを教えてくれた。

たぶん、あのとき鍋の中で煮えていたしらたきと椎茸も、とても賑やかだった。

ひとりでいるとき、いちばん賑やかでいよう。

ひとりでいるとき 淋しいやつが ふたり寄ったら なお淋しいのだ。



恋人よ
どこを旅しているのかもわからない 君
ひとりでいるとき 一番賑やかなヤツで
あってくれ

#日記 #エッセイ #恋人 #恋愛 #遠距離恋愛 #さみしい #深夜に誰かが読む日記 #平日の備忘録

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