染、色──なあ、そうだろう。


 主演正門良規、脚本加藤シゲアキ  舞台「染、色」がJohnnys netオンラインで配信されていたので観劇しました。 当noteは観劇後に書き、原作を読んだ後、加筆・修正しています。

 舞台 染、色公式サイト https://www.sen-shoku.com

 私自身、 HiHiJetsのファンなので野郎組メンバー(主に猪狩くん)からは度々お名前を聞いていましたが「MUSIC STATION×ジャニーズJr.」や「関ジュ夢の関西アイランド2020 in京セラドーム大阪 〜遊びにおいでや!満足100%〜」の円盤、Aえ-Tube見てかなり正門くん気になっていてグローブ座のチケット申し込んでいました(なお玉砕)









 それはただの夢を追いかける青年の話でも、ラブストーリーでもない、人間の純粋で綺麗な心から欲に染まった汚い心までを「色」に重ねて描かれた作品だった。


 まずは登場人物から。主人公である深馬には同じ大学に通う仲間がいる。自分と同じように首席で入学した北見、学食で声をかけられて友達になった原田。芸術のジャンルは違ってもみんなそれを好きでいる。

 大学生らしく一緒に遊んで過ごしていた時期、仲間と飲む酒、可愛い彼女に愛される日々、誰かに必要とされた喜び、充実しているように見えた登場人物たちは皆が見えない孤独と戦っているようだった。


 中でも恋人の杏奈は最初から最後まで深馬を好きでいた。過去に自分にアタックしてきた男の前で涙が溢れてもそれは深馬のための涙であったし、深馬の気持ちが自分から離れていると感じていても「好きだよ、私は」 そう言って関係を断ち切らなかった。

 杏奈とって深馬は悩みの種であり、大学や専攻も違う彼女にとって連絡を取らなければ、簡単に他人に戻れる関係であったはずである。芸術家になるであろう深馬とは交際を続けて一緒に暮らしていくのは非現実的かもしれない。それでも深馬をずっと愛してくれていた。  器用で充実しているように見える彼女もまた孤独で、深馬しかいなかったのだ。





 そんな深馬には影響を受けた人がいた。真未である。


 深馬がヤケになって落書きした線を一瞬で恐竜に仕上げ、楕円に小さな生命を授け、花に色を、山羊に生命を宿したのは真未だった。施設育ちで芸術の勉強をしてこなかった真未が深馬に眠っていた芸術センスを呼び起こさせる。

 2人が共に作品を仕上げていく姿はしなやかで美しく、その世界に吸い込まれていくような魅力──簡単に言ってしまえば男女が交わるシーンよりも色気があった。セットも衣装も髪型も舞台映えする、とは言い難いような自然体な2人だからこそよりそこで生まれる作品が映える、単純かつ不思議な空間といえよう。


 真未に出会って深馬は随分変わった。素人でも分かるほどに作風に変化が現れ、彼自身よく笑うようになった。好転のように思えたがそこに彼の転機が重なった。父親の病状は良くならず、芸術をやめて跡を継ぐという選択が濃くなっていったのである。


 認められた才能、それを買われた上で押し付けられた難題。就職という現実。そして完成する前に捨ててしまう自分の性格。深馬が悩んでいたことは真未が解決してくれた。

 ギクシャクした友人関係も、うまくいかない油絵も、スプレーで染め上げて修復させた。頼んでない、と深馬は激昂しても真未にとってはして欲しい、と聞こえていたのだ。





 深馬には全てわかっていたのだろう。

中途半端な性格も、納められないほどのトラブルも、どうにかしなきゃいけないことがどうにもできない自分も。 わかっていた。だからこそ真未という人格は真反対の人間だった。経歴も才能も価値観も全部が違う、自由な彼女を深馬は好きになった。親も安定した仕事もない真未は言うまでもなく孤独だった。

 

 











 自分達の作品を信頼していた先生に上書きされ、そこに仲間の原田が加担していた。何があっても守ってきた作品を真未に壊され、それぞれの欲に染まった鬱陶しい世界の中で彼は休息を得る。


 目が覚めたとき、隣にいたのは杏奈だった。


 自分の作品に引き込まれ、何人いるかわからない仲間のためのお酒まで買って、女の影を見せながら急にやってきた深馬を受け入れ、不安定な時は自分以上に気にかけた。大切な面接で深馬のことを話して受かったのだと言っていた。目がさめるまで1週間会いにきてくれた。


   ここで私は「恵まれて」いるのは深馬だけだと気が付いた。



 

 

 もう1人の自分であった真未を切り離し、汚い先生が消え、仲間は就職。孤独な生活が始まる中であえてもう一度芸術に向き合う選択をした深馬に、夢を叶えさせてほしい。そして、隣で寄り添ってくれる杏奈にも。 あなたたちはもう、ひとりではないから。


 






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