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1杯目


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     「いらっしゃいませ」


そのホテルの硝子の大きなドアを開けると、受付けホールまでの通路が見える。
その通路はオレンジ色のライトで演出されていて、ヨーロピアン風の家具によく似合う。



大理石のフロアは、いつも足音を透明な響きに演出する。

正面の広いホール右側には、短い階段が設置され、その階段を上がった先にには、広々としたコーヒーラウンジが有る。

中2階のラウンジからは、全ての場所をぐるり見渡せる作りになっている。

下を見下ろした先には、受付のロビー

上を見上げると宿泊ルームへの踊場通路

びっしり敷き詰められた濃紺の絨毯の上には、ルネッサンス時代のソファー

天井に飛ぶように描き巡らせられた天使の絵は
ホテル全体を神々しく彩っている。

何より目につくのはラウンジの大きな窓一面から覗く木漏れ日に光る川。

木々の緑色の光が室内を輝かせ、演奏するピアノの一音一音が、ロビーにこぼれ落ちるように流れ出す。

俺がバイトでピアノを演奏するのは土曜と日曜の週2回。PM13時開始16時終了。

このホテルのラウンジでピアノを弾くようになって1年が過ぎた。

名門の音大生っていう事なのか、それはとてもいい金になった。

本日は晴天の土曜日

多分、
今日も窓際奥の、あの席に彼女は座るだろう。そして向こうの階段から降りて帰って行く。

まるでそうするのが当たり前のように。



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