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書きたいという気持ちは性欲に似ている。
夢の中で、私は絵を描く人だった。
それは禅画のように何か意味が込められたもので、でも漫画に近いもの。美少女のシルエット。儚い色。
私は夢の中で青年だった。僧のように頭を丸め、袈裟のようなものを着ていた。そして、固いベッドの上にいる。もしかすると、何かの病気をして入院していたのかもしれない。
スケッチブックを広げる。母親は「そんなくだらない絵ばかり描いて」と私を叱っている。それでも私は、食事を
(十二)夢の中にはもうひとつの幻想がある
夢のなかで、裸だった。
裸のまま、変な別れ方をしてしまった人たちと会った。
たぶんもう、現実では会わないのかもしれない。
会っても笑顔で会話することなんてないのかもしれない。
それでも夢のなかのその人は、屈託のない顔で笑っていた。
私は昨今の彼の仕事のことを「盛況だったみたいだね」と言って讃える。
彼がその仕事に挑む前には、失敗してしまえばいいのに、という後ろ暗い気持ちもあった。
それでも
(十一)夢の中にはもうひとつの幻想がある
過去に大量虐殺事件があった小中一貫校に取材に来ている。
その学校は私立で、偏差値から見ればかなり優秀な生徒ばかりが集まって来ているが、夜学の男子校である。
なんらかの事情で昼間は通学できない生徒たちが通っているのだ。
事件が起きたのはちょうど五年前の今頃だった。
この学校の卒業生だという、十八になったばかりの青年が刃物を持って乱入した。
無差別に、手当たり次第に刺しまくったという。死傷者は二十一
夢の中にはもうひとつの幻想がある(十)
本棚を作ろうと思ったが、材が無い。
前の下宿からこっそりもらってこようと思う。前の下宿は材木屋である。
木切れを拾って金槌で打ち付ける。
本棚の最上段ができたところで、大家のおばさんに見つかってしまう。
あらあら、言ってくれればいいのに、とおばさんは言う。作業場からは大将が出てきた。
タケさんが見習いに来ている。結局、手ほどきを受けながら、一緒に本棚をつくることになった。
昔勤めていた図書館で
夢の中にはもうひとつの幻想がある(九)
高校のキャンパスは山の中にある。とても広い。
土曜日の昼、部活が終わり、副部長のハルカが部室の鍵を守衛さんのところへ受け取りに行く。
普段なら鍵は部長の私が管理しているけれど、昨日は夜遅くまで残りって守衛さんの見回り時刻に迫っていたので、鍵を預けて帰ったのだ。
夢の中にはもうひとつの幻想がある(八)
座長が、棟梁と私と含めて打合せをする必要があるのだ、と言う。
棟梁は、江ノ電の藤沢市側にある駅に家を借りている。
江ノ電は海に面した断崖絶壁を走る路面電車だ(本当は違う)。
夢の中にはもうひとつの幻想がある(六)
その施設には滝がある。方丈になったその作業場は、暑くはない熱帯植物園のハウスのような趣である。私は幾ばくかの生活費を稼ぐために、そこへときどき通っている。
もっとみる夢の中にはもうひとつの幻想がある(五)
その図書館は小学校の校舎を改築してつくられている。
1階には貸出の多い小説が並び、2階から4階までの教室には、それ以外の一般書が並べられている。日が沈むと2階から上は消灯する。夜の図書館にやってくるのは、新しい物語を手にしたい老人ばかりになる。
夢の中にはもうひとつの幻想がある(四)
赤いオープンカーに乗って夜の街を走っている。街のはずれには関門がある。ビルの狭間に、高速道路の料金所のように。警備員の顔をのぞき込むと、小学校を卒業して以来会っていない同級生の顔である。再会を喜び合い、彼の掌に小銭をのせて別れる。
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