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SNS専用の原稿用紙というものがあるらしい。

原稿用紙は、その名の通り「原稿を書くための紙」であって、本来主役ではない。夏目漱石は、連載していた朝日新聞の版組に合わせて、1行19字詰の原稿用紙を特別につくらせた(参考:漱石山房原稿用箋 - 神奈川近代文学館)。ワープロなんてなかった時代。文字数をカウントできる原稿用紙は、作家にはなくてはならないツールだった。それは読者の目に触れるものではなく、あくまで書き手が使う道具だ。けれどその質感には何故だか惹かれてしまう。途方もない枚数の原稿用紙を埋めたであろう、文豪たちに対する憧れ。原稿用紙は、作家のいちばん近くにあったものだ。創作の場、その瞬間にあるもの。文字をほとんど手で書かなくなった今、原稿用紙への郷愁はいっそう強まる。文士を気取ってさらりとペンを走らせ、気軽にSNSに投稿してみたい。

○製品化したのは原稿用紙を扱う老舗の紙屋

本来は表舞台には出ず、文学館の展示や作文の授業でしか触れることがなくなりつつある原稿用紙。しかし、SNS原稿用紙はそれ自体が作品なのだ。製品化したのは老舗の紙屋、満寿屋だ。

満寿屋は明治15年創業の紙屋である。もともとは贈答用の砂糖の箱をつくっていた。しかし戦時中、丹羽文雄の「君のところは紙屋だろう。 何とかしてくれないか」という一言から、原稿用紙の生産に踏み切る。紙不足の折、原稿用紙の不足は作家たちにとって死活問題だったのだ。満寿屋の原稿用紙は好評を博し、川端康成、井上靖をはじめ、吉川英治、司馬遼太郎、吉行淳之介など、蒼々たる文豪らが愛用するようになる(参考:満寿屋について - 満寿屋)。

○ところで、どこが「SNS専用」なのか?

さて、原稿用紙の写真を撮ってSNSに投稿するのなら、別に専用の用紙でなくても、それっぽいメモ帳でもいいのでは。はたして何が「SNS専用」なのか?

原稿用紙をSNSに投稿するということは、写真を撮るということ。SNS原稿用紙は、上から写真を撮ったとき、ばっちりきれいに手書きの文字が収まるに調整されているのだ。用紙サイズはB5。しかし罫線の外側には「4:3」となるように太線が引かれている。「4:3」はiPhoneのカメラでよく使われる比率だ。この太枠より少し広めに写真を撮り、ガイド線にそってトリミングをすれば、各SNSに適した写真サイズに簡単に調節できる。たとえば、正方形のInstagramなら、こんな具合に。

太枠の外側に記されている印は「トンボ」と呼ばれる。これは本来、印刷所に裁断箇所を指示するマークだ。トリミングを誘うための遊び心なのだろう。

 原稿用紙だけでなく、他のものをそえてもいい感じだ。

○SNSの時代だからこそ、あえて手書き。

万年筆との相性が抜群の満寿屋の原稿用紙。私は半ペラ(200文字詰)を便箋としても愛用している。でもSNSの時代、手書きの手紙を友達に送る機会は減ってきた。手書きの味わいを原稿用紙の雰囲気と共にSNSに載せられるのは嬉しい。購入できる店舗はまだわずかのようだ。流行ることを期待する。


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