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(十三)夢の中にはもう一つの幻想がある

高崎の実家に、主人と、主人の子どもたちと一緒に住んでいる。三人兄弟の末の女の子はまだ小さくて、小学生だ。長男は成人していて、私が呑みに行くのにいつも付き合ってくれる。十歳くらい年下の、血の繋がっていない青年を連れて歩くのは、なかなかいいものだ。

その日はすごい大雨が降っていた。目の前の碓氷川が氾濫して、西濃運輸の駐車場がそのまま川になっていた。私は風邪気味で留守番をしている。夕方、長男が大学から帰ってきて、「今日は呑みに行かないよ」と言う。私の体調をおもんぱかってくれているのだ。

水かさが増し、ついに床上浸水する。私は本棚の一番下の段に入った本を慌てて取り出して2階に持って行く。あっというまに水量は増して、目の前の川は急流になっている。どこかの中学校の玄関が流されたのか、制服を着たマネキンやトロフィーが次から次に流れてくる。

いよいよ人間も流されたみたいだ。手を握って離れまいとする親子は、胸のあたりまでどっぷりと水に浸かっていた。よくよく見れば、普通に泳いでいる人もいる。けれどドブ水と合わさった川の水は変に臭って、私はとても泳ぐ気にはなれない。

ついに水かさは二階の天井に届くまでになった。1階にいる主人と子どもたちが心配になって階段を駆け下りる。主人は、面白がってうっかり窓を開けたみたいだ。1階は水浸しになって、主人と子どもたちはずぶ濡れになって笑っていた。1階に水が流れ込んだおかげで、水かさは一気に減ったらしい。


※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体、地名などとは関係ありません。

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