90年代におけるBRUTAL DEATH METALの発生と歴史(後編)
前編では90-95年にかけて15枚のプチレビュー付でまだOSDMと共有する部分を持っていたBRUTAL DEATHMETALがいかにして多様性を獲得していったかを紹介した。
後編では96-00年にかけて10枚のプチレビュー付でジャンルとして完成していくのを追っていきたい。
DEHUMANIZED/TERMINAL PUNISHMENT(DEMO96)
NY出身DEHUMANIZEDの最初のDEMO音源。この2年後にリリースされる1stアルバムにはさらりとこのDEMOと同じテイクが収録されている。
"HERE COME THE PAIN!!"でお馴染みのSEはアルパチーノ主演のカリートの道からの引用だ。
IRATE等といったNYHCバンドとも交遊が深く、曲も一言で言えばよりモッシーになったINTERNAL BLEEDINGと表せる。
サウンド面や交遊の面からもHARDCOREヘッズにも愛されており、HARDCOREバンドとライブを共にすることもあった。
BRUTAL DEATHMETALとHARDCOREを繋ぐ象徴的なバンドの1つと言えるだろう。
REPUDILIATION/PURGING OF IMPURITY(DEMO96)
NY出身の登場があまりに早すぎたREPUDILATIONのDEMO音源。このDEMOの他に翌年に同郷DISFIGUREDとのスプリット、それにこの二枚をまとめたコンピレーションのみのリリースでいつ解散したかもはっきりしない幻のバンドだ。
一説によるとDEVOURMENTの元ネタとなったバンドらしく、それを裏付けるかのようにコンピレーションのジャケはMIKE MAJAWSKIが担当している。
96年当時には革新的かつダンサブルなグルーヴリフでそれまでのDEATHMETALには類を見ないサウンドが特徴的だ。
ギタースクラッチ等も活用し遊び心もあるのがまたいい。
メンバーの多くが被っている420、サウンド面で近しいものがあるENTORTUREMENTの3バンド合わせて当ZINEは勝手に裏NYDM三羽烏と呼んでいる。
SOILS OF FATE/PAIN HAS FACE(DEMO97)
DEATHMETAL大国とは言えどグルーヴ推しは珍しいスウェーデンのSOILS OF FATEの初めのDEMO。
トラックリスト自体は後のアルバムに収録されているものである。
90年代のDYING FETUSのグルーヴパートを抽出して煮詰めたようなサウンドで
1曲目のFACES ON THE DECEASEDはVOMIT REMNANTSもカバーしている。
本作品に限った話ではないが、オマージュの小ネタやギタープレイの技法など聴いていて感心する点が多いのとセンスと個性溢れる楽曲郡がとても魅力的なバンドだ。
GORGASM/STABWOUND INTERCOURSE(98)
インディアナ出身GORGASMの初となったEP。
ニューヨークやテキサスのようにOSDMの手から離れっていったBRUTAL DEATHMETALというよりは、OSDMがEXTREMEさを増していき行き着いた先のBRUTAL DEATHMETALという印象を受ける作品だ。
しっかりグルーヴパートもあるが特段ブレイクしてグルーヴパートを強調するわけでもなく、あくまでDEATHMETALが元来持つものとして主張しているように感じる。
DEATHMETAL元来のグルーヴに関してはCANNIBAL CORPSEの初期作品も同様であるように思う。
SINTURY/DISGORGING THE DEAD(98)
テキサス出身SINTURYの初めのリリース作品。DEVOURMENTの初期メンバーが在籍しており、TXDMの代表的なバンドの1つとして語られる。DEVOURMENTのように複雑な曲展開やEXTREMEな突拍子しの無さは見られず、ひたすらミドルテンポのデスグルーヴで巨大ミミズのようにズルズルと突き進むようなサウンドだ。
時折ブラスト等の速いパートも入るがむしろこちらの方がブレイクパートみたいなもので、これまでのBRUTAL DEATHMETALとは比率が真反対だと言えるだろう。
SLAMMING BRUTAL DEATHMETALが完成しきった今ではめずらしいスタイルでもないが、当時は革新的だったに違いない。
SKINLESS/PROGRESSION TOWARDS EVIL(98)
NY出身のSKINLESSの初めての単独音源。
94年頃にはDEMO音源をリリースしていたがスプリットのリリース等を経て少し時間を起き1stアルバムがリリースされた。トロイ市周辺のバンドを一括りにTROYCOREと称しSKINLESSも度々含まれてHARDCOREの出自のように語られるがサウンド面ではリフやボーカルスタイルの面からDEICIDEの影響が色濃く見られる。ただサウンドプロダクションに関しては90年代の極悪HARDCOREのそれであり、DEHUMANIZEDやINTERNAL BLEEDING以上にHARDCOREシーンにどっぷり浸かっていたことが伺える。
NY METALを自認するほどMETALすぎるTROYCOREバンドSECTION8のメンバーとSKINLESSのメンバーから成るDISCIPLES OF BERKOWITZもオススメだ。
ENTORTUREMENT/DESCEND INTO DEPRIVATION(98)
NYはロングアイランド(重要!)出身で1年のみの活動期間であった幻のバンドENTORTUREMENTの唯一のリリース音源。他にもDEMOも出しており、この二枚を合わせたコンピレーションもリリースされている。
同郷のINTERNAL BLEEDINGをベースにREPUDILATIONのようなダンサブルなグルーヴを用いて詰め込みタイプのボーカルスタイルを載せているのが特徴的だ。
一番最後に収録されているREALITY CHECKに至ってはラッピンでHARDCOREなボーカルとグロウルの掛け合いに裏を強調しすぎているグルーヴリフがBRUTAL DEATHMETALという枠組みにおいて非常に挑戦的な作風だ。ある種唯一無二のバンドと言えるだろう。
CADAVERMENT/BRING THE SUFFERING(DEMO99)
NJ出身のDRIPPINGの前身バンドとなるCADAVERMENTの初めてのDEMO。
時を同じくしてテキサスやニューヨークでは各々のバンドが自らのスタイルを打ち出している中、90年代前半のBRUTAL DEATHMETALを継承しているようなブラストありブレイクありグルーヴありのサウンドだ。
ボーカルスタイルにしても初期3枚の頃のCANNIBAL CORPSE在籍時のCHRIS BURNSの要素を感じ取れる。
後のDRIPPINGになるとサウンドはより極端な方向性に向かっていくがことになる。
VOMIT REMNANTS/SUPREME ENTITY(99)
日本は東京の元祖JPDMバンドでありレジェンドであるVOMIT REMNANTSの初となったフルレングスの作品であり、前述のSOILS OF FATEのカバーも収録されている。
HYPER GROOVE BRUTALITYの名の通り無慈悲なグルーヴパートで攻め立てる圧巻の楽曲揃い。
90年代に既に日本のBRUTAL DEATHMETALバンドが当時の現行シーンとして最先端の位置にいたことがわかる一枚だ。
DEVOURMENT/MOLESTING THE DECAPITATED(99)
TXDMを、またSLAMMING BRUTAL DEATHMETALを世界に知らしめたDEVOURMENTの一枚目のアルバム。このアルバムがリリースされた当日にメンバーが獄投、追い討ちをかけるように短命にバンドは解散してしまう。
その後もパートチェンジやメンバーチェンジをしなが死に体で活動を続けるが契約したレーベルの倒産、メンバーの死など苦難の連続を経験しながらも王座に座り続けたバンドだ。
今でこそポストCANNIBAL CORPSEのようなビッグネームだが、アンダーグラウンドシーンから生まれ当時ではニッチであったスタイルをアップデートし星の数ほどのフォロワーを産み出してきた功績は計り知れない。また苦難の中活動を続けてきたのはDEATH METALへの愛に他ならないだろう。SLAMMING BRUTAL DEATHMETALというジャンルはこのアルバムにて完成したと言っても過言ではない。
個人の見解だが90年代におけるBRUTAL DEATHMETALはSUFFOCATIONに始まりDEVOURMENTにて幕を閉じたように感じる。
90年代にも兆候は見られたが、00年代に入ると世界各国にBRUTAL DEATHMETALが飛び火していきバンド数も爆発的に増えていくことになる。日本でもJPDMの標語の名のもとハイクオリティで海外レーベルとの契約や海外ツアーを行うバンドが出現してくる。
バンド数の増加やインターネットの発達により今やBRUTAL DEATHMETALというジャンルは昔ほどニッチなものではなくなっているかもしれない。
しかし30年近い歴史を持つにも関わらず他ジャンルのように発生や成り立ちについてまとめられることが少ない。
今回思い立って前編/後編で"90年代におけるBRUTAL DEATH METALの発生と歴史"をまとめたが、当ZINEの個人的な趣向が強いものであり一部に焦点が当てられているものではある。
本記事を元に新たな情報やジャンル的解釈の助けとなれば幸いだ。
~完~
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