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マラウイのコミュニティで「中絶」についてディスカッションしてみた


マラウイには地域コミュニティの中にいくつかの扶助グループが存在している。

お母さん達が集まって、子ども達の学校中退や児童婚を防ぐ為に様々な活動をしている「マザーグループ」
子ども達の人権を擁護し、児童婚や若年妊娠から守る「チャイルドプロテクション委員会」
だいたい15-25歳ぐらいの若者が集まって、演劇や歌、ディスカッション等をする「ユースクラブ」
などなど。

私がインターンをしているNGOはこれら扶助グループに積極的に介入しているのが強みで、今日もプロジェクトの活動として、「ガールズクラブ」でMother-Daughter Dialogueを行なった。

ガールズクラブとは?

「ガールズクラブ」とは学校を拠点に、女子生徒だけが集まり、彼女達の身の回りの出来事をテーマにディスカッションなどをするクラブのこと。
私が以前参加した日はSexually Transmitted Infections (通称STI、日本語で性感染症)をテーマに「性感染症とは?」「どうしたら防げる?」「HIV/AIDsとは?」「発症したらどうするか?」などを話し合っていた。
他にも「理想的な交際関係とは?」「どうしたら望まない妊娠を避けれる?」「どうやってSEXにNOと言う?」などのテーマを取り扱ってるみたい。
ディスカッションだけでなく、演劇や歌、踊りなど様々な手法を取り入れ、楽しく参加できるように工夫されている。


私のNGOはこのガールズクラブの立ち上げや活動内容のコンサルティング、パトロン/マトロンと呼ばれるいわゆる「顧問の先生」のトレーニングを行っている。

ガールズクラブは女の子にとって必要な知識を蓄える場所であるだけでなく、
普段はタブーとされる性に関する事を自由に安心して話す事によって彼女達自身の発言力や意思決定能力の向上の場にもなっている。

Mother-Daughter Dialogueから見えてきた性に対する認識

Mother Daughter Dialogueも、ガールズクラブの活動の一環で、女の子とそのお母さん達が一緒に「性」に関する事柄を一緒に対話をする事で、家庭内でも性に関して気軽に話が出来るようになる事を目的としている。

それで今日のテーマは「中絶」だったのだけど、中々色んな事情が見えてきて興味深かった。

① 中絶に対して反対意識の強さ

今日の対話はマラウイで実際にあった女の子の話をケーススタディーとして紹介する事から始まった。
話はこんな感じ。

成績優秀、大学も合格し、順風満帆な人生を送るAさん。ある日ボーイフレンドにプロポーズされ、それを受けると、彼からセックスを求められる。嫌だと伝えたが、「プロポーズを受けたという事はセックスにも同意したという事だ」と脅され、半ばレイプのように避妊なしのセックスを強要される。後に妊娠が発覚。中絶を希望し、病院に行くものの「若いからだめ」と突き返される。悩んでいた所、友人から中絶薬と呼ばれる薬を貰い、飲んだところ亡くなった。

この話をした後、まずは「もしあなたがAさんだったら中絶を選ぶか」を尋ねると、ほぼ全員が「中絶を選ばない」と答えた。


大学に受かってて、この先の未来が確証されてても、本当に選ばないのかと念を押してもら
「絶対に選ばない」と。

なぜか尋ねると、
「中絶は身体への負担が重いし、そもそも人の命を殺すって事と一緒だから」

とのこと。

その後に安全な中絶法について紹介し、一人一人には選択の権利があることも説明したが、結局最後に一人のお母さんが
「中絶は天国に行けなくなる罪(sin)だ」と言って拍手が起こってたので、最後まで中絶反対の意識は変わらないままだった。

もしかしたら違う考えを持ってた人もいたかもしれないし、大勢を前にして(特に親を前にして)反対意見は言えなかったかもしれない。でも中絶に反対が多数派なのは確かだった。

次に「それならAさんは、どうしたら死なずにすんだのか?解決策は何か?」を話し合った。

一番出てきた答えは、「家族、特に母親に相談する」こと。母親は妊娠・出産経験者なので、精神的なサポートも出来るからとのこと。

次に出てきた答えは、「Aさんは将来を考えて、プロポーズを受けるべきではない」だった。

私個人の考えとしては、中絶は個人の権利であるべきだし、選択は尊重されるべきだと思っている。私もAさんの立場なら、私も「中絶」を選ぶ気がする。

ただ、参加者の意見も否定は出来ない。おそらく、この地域がクリスチャンであるってのも大きな要因で、宗教的な事なので下手に否定も出来ない。

どうすれば良いのか悩みつつ、「それでもMy Body My Choiceだから、中絶の選択も私は尊重します。」と伝えて終わった。

それからディスカッションを聞いてて出てきて衝撃的だったのが、中絶方法として「木の枝を女性器に刺す」ことがあるってこと。
実はこの話を聞いたのは2回目だったのだけど、全く違う地域だったのでその地域だけかと思っていたら、全国的に行われているっぽい。

② 避妊具に対してのネガティブな意識

避妊具の使用は望まない妊娠を避けるだけでなく、性感染症やHIV/AIDsの蔓延を防ぐ重要な役割がある。
避妊具の普及は、マラウイの人達が健康に暮らし、教育を十分に受けるために必要不可欠なテーマだ。

そもそも今日のテーマである「中絶」も、望んだ通りの妊娠であったならば悩まなくていいはずなのだ。

望まない妊娠をしてしまったから、中絶するかどうか悩む。中絶をしても、しなくても、何かを犠牲にしなくてはならない。

一番は良いのは望まない妊娠を避ける事。

だからこそ、私たち職員は最後に避妊の大切さについて説明したのだけど、それに対してあるお母さんが


「避妊具はいけないもの。もし避妊具が広まったら、若者がもっともっとセックスするようになるじゃない。一番大事なのは、禁欲。
避妊具を子ども達に進めないで!」


と言った。周りのお母さんも拍手して同意した。
このコメントから分かるように、まだまだ避妊具の使用に関してはネガティブなイメージが強い。
以前同じ地域で行なったアンケート調査では

「コンドームを使う女は娼婦」
「ピルは身体に害」


などの意見も見られた。

避妊具を普及させる事で、望まない妊娠を防ぎたい支援者達と、
若者にとってはセックスは不純で、避妊具ははセックスを促す道具だから、勧めるのに抵抗するコミュニティの人たちの対立。
たぶんアフリカ諸国ではよく見られるシチュエーションで、沢山の人が頭を抱えていると思う。

よく途上国で避妊具が普及しない理由は「貧しくて買えないから」「避妊具の使い方を知らないから」と考える人がいる。
間違ってはいないのだけど、避妊具の普及は援助が活発に行われてる分野なので、割りかしコンドームは無料で配布されていたりするし、避妊法を教育現場で教える活動も多いので、認知度は低くない。
実際にマラウイではコンドームはヘルスセンターに行けば無料で貰えるし、今日の参加者達もコンドームが何かを分かっている人が多かった。

今日の話を踏まえると、避妊具普及の一番の障壁は避妊具に対して消極的な文化なのかもしれない。

まとめ

今日のMother-Daughter Dialogueの目的はお母さんと子どもが一緒に性について話す場所を作る事。
その対話の中で、コミュニティの内情もまた浮き彫りになってきた。


① 避妊具に対して消極的な文化がある。おそらく避妊具使用率は低い。
⇨この地域の若年妊娠率は高いと推測できる
② 中絶に対する反対意識が強いので、中絶率は低い。
⇨ 妊娠を理由に学校を中退を選ぶ人が多いと推測出来る。

こうしてコミュニティに入る事で人々の文化に触れられる事は面白いし、沢山の発見がある。

現場は本当に複雑で、単純に「教育すればいい!」は考えが浅い結論なのだと日々感じる。

(写真は必ず撮影して良いか、メディアに載せて良いか確認しています。)

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