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詩歌集『イノセンス・ロスト』発行にあたり、セルフライナーノーツ【告知】


 2024年5月3日 博麗神社例大祭第二十一回にて、初の詩集および歌集となる本『イノセンス・ロスト』を頒布します。


 初の詩集・歌集でありながら、『東方Project』という既存の作品シリーズの世界観・キャラクターを基にした二次創作の詩歌集となります。
 約500P、A6文庫本サイズ、140篇超の詩歌を収録。分厚い……。
 一般流通はなく、即売会での直接購入のみとなります。通販は……希望があれば。

 ぼちぼち長い記事になりますが、本記事の末尾に収録詩歌からいくつかサンプルを出してますので、そちらだけでもぜひご覧ください。



 表紙イラストはねるぞう先生にお願いしました。5年ほど前から新作本を出されるたびにほぼ毎回購入しています。今回の表紙にあたっては、詩歌集のコンセプトを文面でお伝えし、強烈に素晴らしいイラストに仕上げていただきました。絶えなく感謝です。

 ねるぞう先生のプロフィールはこちら

 かわいさと底の無さが同居していてとても良い絵を描く方なのです。今回イラスト制作をご快諾いただいたときは舞い上がりました。イラストのラフと完成が上がってきたときはさらに職場の休憩時間にひとり机に突っ伏しました。あまりに感動したもので。



 描いていただいたイラストの話をしたいと思います。俺視点での制作背景について解説するので、さながら詩歌集のセルフライナーノーツ的な内容になるのですが。

 イラストに大きく描かれているのは『宇佐見うさみ菫子すみれこ』というキャラクター。東方Projectの舞台は近代的で妖怪の跋扈する異世界であるところの『幻想郷』ですが、宇佐見菫子は現代日本からの使者であり女子高生です。なんやかんやあって、夢を見てる間だけ幻想郷に来ることができる、という変わった立場の人。一度は幻想郷への危機をもたらしましたが今では人妖たちと仲良くやってます。
 といった風が東方Projectのいわゆる原作における彼女の像です。が、この本やら拙著の小説などでは、ifとして歪な解釈を加えています。

・東方Projectの原作で語られる宇佐見菫子の物語は、すべて宇佐見菫子自身が見ている夢や妄想に過ぎず、現実には起きていない可能性がある
・年月が経つとどんどん夢を見なくなってしまう、しかし幻想郷に対する強烈な羨望はいつまでも残り続ける
・残ってしまった羨望は、宇佐見菫子自身が創作活動をすることで消化しようとするが、うまくいったりいかなかったりする

 『イノセンス・ロスト』収録詩歌にて展開される東方Projectキャラクターたちの姿は、宇佐見菫子視点の解釈やイメージにすぎない。実際に彼女が会ったかどうかは定かではないし証明のしようがない。夢や妄想の存在に過ぎない、血の通わない、創作のキャラクターに過ぎないのかもしれない。
 けれど、確かに青春において垣間見た幻想郷の一部始終は、大人になったいまでも、鮮烈に感情を湧き起こしてくる。そのやり場がなくなって、とうとう詩歌が生まれてくる……

 という感じの詩歌集です。背景なんてなくても読める作りですが、詩歌集にするにあたって何かテーマを作るならこれしかありませんでした。
 ここ1年くらい、俺の東方Projectの二次創作は、この宇佐見菫子像に身重ねするように作り出したものばかりだったからです。自身の生き写しのように、菫子のことを考えていました。


 みかづき星雅は2020年から同人サークルを始め、これまで創作活動を行ってきました。イラスト本3冊→長編小説1冊(未完)という製作の遍歴を辿りました。そのもっと前には音楽CDを2つくらい出したり……そして今度は詩歌集に行き着きました。
 完全な個人サークルで、手を変え品を変え、色んなイベントに行き様々なジャンルを一次創作二次創作問わずに体験してきました。一方で、今まで頒布してきた作品は、イラスト・小説・音楽CDに至るまで、すべて東方Projectの二次創作です。色々見聞きしてきたけれど、作品をつくるならここだ、という、半ば偏執的なこだわりがあるのだと思います。

 熱心な東方ファンの一部は『自分も幻想郷という世界に行きたい』という妄想的な欲求を発露することがあって、現代からその世界に実際に行くことをコミュニティの中では俗に『幻想入り』と呼ばれています。そんな未来があってもいいじゃないか、という思想を持ちながら、半ば興奮気味に東方Projectの世界を堪能していく人たちがいます。俺はその一人だったのだと思います。学生時代、イマジナリーフレンドのように、東方Projectのキャラクターたちと会話をしていたように思います。それは俺の頭の中にある想像に過ぎなくて、原作者の意図も、他のファンの意向も、へったくれもない独善。そんな妄想をどうしようもなく愛好して、盲目なまでに信じ切って、学生時代を過ごしてきました。
 けれど、幻想入りなどという方法がついぞ見つからないまま、現実社会のあらゆる課題が生活に降り注いで、次第に東方Projectに対する関心も、幻想郷に行きたいという欲求も、意識する間もなく失われていく。
 たぶん東方Projectに限らず、何らかの趣味を持つ人の多くは、そうやって関心を失っていくと思うのです。
 だって趣味です。やるべきことがあれば、後回しになってしまうものですから。

 流石に俺もいつまでも、いわゆる異世界転生を夢見ていたわけじゃないのですが、その欲求は徐々に形を変えつつもあくまで夢見がちなままでした。
 幻想入りが無理だとしても、現実社会においても、自分の大好きなものなのだから、それを作ったり読んだりしている人たちは、自分と気の合う素晴らしい人たちに違いない、という妄想が、ずっと俺にはあったのです。それはやがて完膚なきまでに打ち砕かれて、しばらく創作から離れて塞ぎ込みます。

 俺が今日も東方Projectの二次創作を続けているのは、単なる諦めの悪さと、先送りです。生活においてやるべき課題を、なるべく早く粗く片付けるか、放置して腐らせている……つまりは、普通は生活に追われて後回しにする趣味を、逆に生活を後回しにしてやっている。そういう破綻を選んだ結果、本ができあがっています。詩歌ができています。
 俺もかつて、生活のために創作を忘れようとしたことがあった。それがうまくいかなくて、どうしても虚しさが離れなくて、周囲においていかれていることを実感しながらも、しぶとく創作を続けているのです。

 俺はあくまで独善として、宇佐見菫子もそういうやつであってほしかった。かつて夢を見て、やがて現実に押し潰されて、それでも現実の課題を捌きながらでも創作をしたくてしょうがないやつでいてほしかった。
 夢見る幻想郷は現実から遠く浮遊していて、現実に苦しむ俺がその世界となんの接点もないままだという結論は、俺には耐えられなかったから。


 説明がクソ長くなってすみません。表紙イラストの話をしたかったのです。
 上述のような歪んだ宇佐見菫子像を3割くらいに希釈し(たつもり)、ねるぞう先生にお伝えしたところ、このイラストが上がってきました。
 大量の紙片と本に囲まれ、スマートフォンとペンを持ち座り込む宇佐見菫子。その足元には駒のように配置された、神社と鳥居、そして幻想郷の人妖たち。しかし彼らには表情がなく、よく見るとその姿は背景に透けているのです。そして宇佐見菫子の目線は鋭く、衣服はどこかボロを纏っている。
 長い時間、幻想郷ではない現代社会で、幻想郷を夢見ながら、表情を失いながら、しかしあくまで光を失わずに制作してきたことが、この一枚から語られているのです。
 この絵が上がってきたとき、言いようのない、喜びとも畏敬ともつかない感情がありました。あれだけの文面でよくここまでのものを形にいただいたなとか、大好きな先生に自身のアイデアを丁寧に形にしてもらったとか、色々と思うことは巡ったのですが、やはり、この宇佐見菫子は、自分自身を見ているような気持ちだったのです。それは喜びとも悲しさともつきません。
 ただ、そうなってしまった存在が、一枚の絵の中にいました。そうなってしまっているのだな、ということが、甚く共感を喚んでしまったのです。


 そんな感じの考えなり欲求なりを日々抱きつつ書いた詩歌が詰まった本となっています。
 2024年1月くらいからnoteで詩歌をほとんど毎日投稿していますが、今回の詩歌に収録されているものは、noteで投稿したものは一篇も含まれていません(解説記事を除く)。他のSNS(X、Pixiv、Instagram)で投稿したものばかりで構成されています。
 noteに出している詩歌もいずれ詩集を作りたいと思っていますがそれはまた後の機会となるでしょう。noteでしかみかづき星雅の詩歌を見ていない人にとっては未知の作品がほとんどになりますが、それはそれで楽しめるかと思います。


 東方Projectの二次創作を謳っていますが、前述のクソ長部分に現れているとおり、内容の半分くらいは俺自身のことや俺が身近に見たことで構成されています。東方Projectを知らなくても読めると思います。
 いずれ夏や冬のコミックマーケットでも頒布するので、例大祭というイベントに行くのが難しい方も、よければそちらで是非。なんか他のイベントとかも出れるなら出たいな。



 長い記事になりましたが、収録詩歌からいくつか掲載して終わりにしようと思います。ご覧いただきありがとうございました。


八雲やくもゆかり - 精彩が灯るとき


稗田ひえだの阿求あきゅう - うまれかわり


古明地こめいじこいし - 失踪


エタニティラルバ - 滑落した全身


レティ・ホワイトロック - きざし


レイラ・プリズムリバー -二度目の風葬


九十九つくも弁々べんべん - 水晶体


豫母都よもつ日狭美ひさみ - 木漏れ陽



 収録詩歌の一覧↓

多すぎる。縮小しまくって1枚にまとめた。
『東方紅魔郷』以降のキャラはほぼ全員いる……はず。



 博麗神社例大祭の入場券は下記より購入いただけます。午後入場の当日券もありますので都内近郊の方は思いつきで軽率に来てください。
 まあ思いつきで軽率に知らないジャンルのイベントに来るなんて希少中の希少な方ですので、本当に来ていただいたら、腰を抜かしつつ喜びます……。




2024/04/09 みかづき星雅