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東の果てに眠る想いを - Squall Of Scream【和訳】

 "君は、自分が何者なのか見つめなくちゃいけない
 何が君の色を決めているのかを
"

 東方アレンジサークルSquall Of Screamの2nd Album Fragile Memoryから、東の果てに眠る想いを(原曲:東の国の眠らない夜)です。

 曲名の意味をなぞりながら歌詞を読むのがミソです。ご照覧あれ。
あ、原曲や原作が分からなくても十分理解できる歌詞だと思います。


※動画はクロスフェード視聴版です。5:25からこの楽曲が始まります。

Just a whisper. I hear it in my hearts.
 小さな声でもいい、伝えてほしいんだ
 心でその言葉を受け取るよ

You cannot alter your fate.
However, you can rise to meet it.

 変えられない運命だとしても
 立ち向かうことならできる

Nothing that happens is ever forgotten,
even if you can’t remember it.

 たとえ思い出せなくても
 一度あったことは忘れないものさ

It's not always easy.
But tonight's the day I choose to walk away.
I hope you find your peace.

 踏み出すのは簡単なことじゃない
 だけど今夜、僕は別れを告げると決めたよ
 君が君の安息を掴み取れますように

曇りなき瞳
星に染まる空
張り裂ける想い
遠く
この声を聴いて

Humankind cannot gain anything without first giving something in return...
To obtain, something of equal value must be lost.

 何も与えずに何かを得ることはできない
 何かを得ることは、同じ価値の何かを失うのと同じだ

Waking up within your arms.
Someone loses someone they love everyday.

 君の腕の中で目を覚ます度
 毎日のように、誰かが愛する人を失っている

You've found your reason to fight.
You've decided not to run away.

 君はもう、戦う理由を見つけたんだ
 君はもう、決して逃げないと誓ったんだ

曇りなき瞳
星に止まる空
壊れていく願い
響く
この声を聴いて

Forever is such a very long time .
I can't even sleep at night.
I hate to hurt you but I got to be honest.

 あまりにも長い長い時の中で
 一睡もできない夜が続いている
 君を傷つけたくなんかない、だけど正直に言う

Sometimes you need to see the black and white in you to realize what actually colors up your life.
 君は、自分が何者なのか見つめなくちゃいけない
 何が君の色を決めているのかを

曇りなき瞳
星に霞む空
張り裂ける想い
遠く
枯れ果てて

曇りなき瞳
色褪せぬ景色
消えていく想い
遠く
この声を聴いて

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 以下、独自解釈です。みんなも独自解釈をぶつけるのじゃ。

Just a whisper. I hear it in my hearts.
 小さな声でもいい、伝えてほしいんだ
 心でその言葉を受け取るよ
You cannot alter your fate.
However, you can rise to meet it.

 変えられない運命だとしても
 立ち向かうことならできる
Nothing that happens is ever forgotten,
even if you can’t remember it.

 たとえ思い出せなくても
 一度あったことは忘れないものさ

 ここまで、次の歌詞「歩むことを決めた」に至るまでの志の羅列のように見えます。東の果てに眠っているような小さな思いでも届けてほしい。小さくて大きなものを変えられるだけの力がなくとも立ち向かうことならできる。

 Nothing that happens is ever forgotten, even if you can't remember it.
 この文は、高名なジブリ映画「千と千尋の神隠し」において代表的な台詞の英訳となっています。画像検索すると引用がたくさん出てくるあたり、おそらく英語版の本編でもこの訳が使用されているものと思われます。

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「訳するときに原文そのままググってみる」のも重要なんだなあと。

 この楽曲で用いられる流れとしては、「一度あったことは、一度抱いてしまった想いは、たとえ一度忘れたとしたって忘れられないものだ」という、願いを封殺しないで、の意味で用いられているのでは、と思う次第です。

It's not always easy.
But tonight's the day I choose to walk away.
I hope you find your peace.

 踏み出すのは簡単なことじゃない
 だけど今夜、僕は別れを告げると決めたよ
 君が君の安息を掴み取れますように

 歩み出すということは今いる場所(東の果て)から離れるということでもある。

曇りなき瞳
星に染まる空
張り裂ける想い
遠く
この声を聴いて
Humankind cannot gain anything without first giving something in return...
To obtain, something of equal value must be lost.

 何も与えずに何かを得ることはできない
 何かを得ることは、同じ価値の何かを失うのと同じだ

 この文もそのまま有名な作品の引用で、鋼の錬金術師に登場する台詞です。「痛みを伴わない教訓には意義がない 人は何かの犠牲なしに何も得ることなどできないのだから」。こちらの英文も画像検索で引っかかりまくるので、英語版の原作に使用されている訳と推測されます。
 残念ながら原作を視聴したことがない僕ですが、軽く調べたあたり「錬金術」により何かを生み出すということと「錬成するものには等価交換の法則がつきまとう」ということが源流にある作品のようです。主人公が得たかったもののために失ったものをまた取り戻す物語でもあり……
 この楽曲でこのフレーズを丸々引用することで、「道を選び歩み、何かを成し遂げようとすることは、それと同じだけの対価を差し出すことでもある」という、甘くはない現実を示しているようにも思います。

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「千と千尋」同様、作品の世界観を表す言葉のようにも感じます。
Waking up within your arms.
Someone loses someone they love everyday.

 君の腕の中で目を覚ます度
 毎日のように、誰かが愛する人を失っている

 これは作詞者の死生観を表すような歌詞だと思います。誰かが平穏に過ごしている間に、どこかで誰かは悲しい出来事に直面している。逆もまたしかり。それを黙って見過ごすことは自分にはできない……という。「放っておけよ」「そうなってる全員に対処するなんて不可能だろ」と言ったとしても、それくらいの現実では歌い手は止まらないのでしょう。
 それに「君の腕の中で目を覚ます」のはおそらく歌い手にとって心地のいいことで、そこから離れるのは苦痛も伴うと推測できます。だからこそ先ほどの歌詞It's not always easy. But tonight's the day I choose to walk away.という、自分を奮い立たせ別れを告げる歌詞となるのでしょう。

You've found your reason to fight.
You've decided not to run away.

 君はもう、戦う理由を見つけたんだ
 君はもう、決して逃げないと誓ったんだ
曇りなき瞳
星に止まる空
壊れていく願い
響く
この声を聴いて
Forever is such a very long time.
I can't even sleep at night.
I hate to hurt you but I got to be honest.

 あまりにも長い長い時の中で
 一睡もできない夜が続いている
 君を傷つけたくなんかない、だけど正直に言う
Sometimes you need to see the black and white in you to realize what actually colors up your life.
 君は、自分が何者なのか、時々は見つめて、気付かなくちゃいけない
 何が君の生き方を染め上げているのかを

  引用っぽい表現でしたが元は見当たりませんでした。black and whiteで「善悪」などと訳することもできますが、ようは自分が何者であるか、自分はどっちのカラーなのか、という旨の表現だと思います。そして、その色とは何によって定められているのか、何が自分をそうさせているのかをしっかり見据える必要があるんだ、ということ。つまり、時々でいいから、自分がこうなっている原因から自分を見つめなおす必要があるということです。それは痛みを伴うし自分で自分に傷をつけることもあるので、I hate to hurt you but...となるのでしょう。

曇りなき瞳
星に霞む空
張り裂ける想い
遠く
枯れ果てて
曇りなき瞳
色褪せぬ景色
消えていく想い
遠く
この声を聴いて

 東の果てで抱いた小さな思い、それが消えていき、枯れ果てて行き、なのに曇りなき瞳で見つめていたあの日々、その先で見据えていた色褪せぬ景色はとてもとても忘れられそうもない、だから枯れ果てる小さな思いを遠く遠くへ届ける。この声を聴いて。この忘れられないまま枯れていく声を届けて。どうか枯れさせないように。そのために今の安寧から離れ行くべき道を選ぶ。対価を差し出し消えていく運命に立ち向かう。問いかける。何が今の自分を決めているのか、問いかけながら進んでいく。
 ということなのかな。と思います。

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 「東の果てに眠る想い」に関することを歌った歌詞ですが、同時にその想いを抱き続けることの難しさも認識させるような歌詞です。一度抱いた想いは忘れられないから、だったらやってやろうぜ。というだけではなく、願いを成就させるにはそれと同等の価値のものを差し出す必要がある(だから一睡もできない = 原曲の「東の国の眠らない夜」の踏襲)。そんな道すがら自分を見失わないため、いつか「君の腕の中」に戻りたいと惰性に埋没してしまわないため、自分が何者なのか、何が自分の色を決めているのかに自覚的にならなければならない。

 想いを抱き続け願いを成就させるため、すり減りながらも長い時間をかけて行動していくための志、とも捉えられます。アルバムタイトルFragile Memoryに絡めるのであれば、記憶とは脆いものだけど、決して忘れられないものでもある、だからこそ叶えることでしか昇華できないし、叶えようとしなければ大事な時まで忘れてしまうものでもある。だから自分を鼓舞しながら、想いを抱えながら立ち向かうことが必要なんだよ。という。辛い現実だな。

 また、「こうしろああしろ」ではなく「自分はこう思うからこうやって生きていく」というあたりは東方Projectのキャラクターらしい思想だと思います。一方で張り詰めた長い時間で願いを成就させようとする脆さは人間らしく、まさに「東方Projectの世界を観測する人間が作った歌」だと思います。

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 原曲のキャラクター射命丸文天狗の縦社会の中奔放に行動する妖怪で、頭が回り、職業として記者をしています。世渡り上手、自分に忠実?
(この曲を射命丸の曲とするか否かもまた個人によって意見が違うかも…)

 ……とまあ、妄想から拡大させて色々と書かせていただきました。是非音楽を添えてもう一度鑑賞してみてください。この解釈と違う情景が思い浮かんだとしても、歌詞は聴く人一人一人の情景を生み出すもので、これが正解ではありませんので、是非思い思いに憧憬し妄想に浸ってください……って何様なんだ。でもいい曲ですよね。


 ご興味あれば是非。良い。