詩 狂気の進軍
詩 狂気の進軍
死穢の色が見え始めた
それが始まりの号砲
身を翻さずに突っ切れ
破ける肺を 霞む視界を 震える指を
振り切って進軍せよ
ようやく今
尋常では辿り着けない
夜見の朝焼けが
薄く差したのだ
そのために支払った総てを
塵芥にするなよ
進め それ以外の
選択肢を削り取った
棄郷の兵士よ
進む それ以外の
未来を捨て去った
願望のひとよ
何度、何度、何度、何度でも
向精神薬の如く
プロパガンダをみずからに打ち込んで
神経を麻痺させて
二本の足を立たせる
もう
以前の日常には
健常の肉体と精神には
戻れない かもしれない
けど
願いのために支払いすぎた
願望の兵士は
これまでの帳尻合わせのため
あるいは
もはや捨てるものなど数えずに
死穢へと
忌み嫌われる死穢へと
進むのだ
すべてを棄てたあの日に
何もかも喪ったあの日に
報いるためだけに
この星にへばりついて
帰る場所を喪失した
躰
『東方永夜抄』に登場する兎『鈴仙・優曇華院・イナバ』を基にした詩