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『日々憶測』ノート

ヨシタケシンスケ 絵・文
光村図書

 ヨシタケシンスケの本を取り上げたのはこれで2冊目だ。1冊目は、又吉直樹、ヨシタケシンスケ共著の『その本は』(ポプラ社刊)だった。ヨシタケシンスケの本を書店で見かけると、イラストが好きなので、つい手に取ってしまう。

 今回の本は、帯に「みだれとべ!憶測!」「さえわたれ!憶測!」――「ヨシタケシンスケはその日、何を見て、何を思ったのか。その記録。」とある。もちろんヨシタケシンスケはそのコンセプトで連載(児童文学総合誌「飛ぶ教室」人気連載の単行本化)してきたのであろうが、読んで見て、この帯のキャッチはなかなか意味深で秀逸だ。

 まず冒頭にいきなり「憶測リサイクル」が出てくる。あるものを〈見る〉ことからはじまり、それを見て〈憶測〉が働き、最初に頭に浮かんできた印象に〈そんなわけないか〉と疑問を呈し、さらに最初の答えを否定しつつも、〈て、いうかアレはなんだろう〉ともう一度考えて、〈見る〉に戻る、という無限連関に陥るという憶測のサイクルだ。
 これのサイクルは確信ある回答――あるいは正解といってもいい――に辿り着くまで続く。そしてこの憶測サイクルは、脳内のエネルギーをムダに消費し、人生の残り時間を消費してしまうのだ。さらにこの憶測リサイクルは、〈生産性〉には無関係、〈利他性〉にも無関係、〈向上心〉にも無関係なのだ、と描く。

 文章にするとちょっとややこしく思えるが、ヨシタケシンスケの絵にかかると、これが一目で理解できる。

「はじめに」では、次のように書く。
「『憶測でものを言うな。』とおとなの世界では、よく言われる言葉です。まったくその通りだと思います。」
「しかし、そんなことがよく言われる必要があるくらい、世の中は憶測にみたされているのかもしれません。」
「かくいう私も、日々、憶測ばかりしています。」
 などと提示しつつ、この本のことを私(ヨシタケシンスケ)の憶測と、あちこちで描いた小さいお話をよせあつめて一冊にまとめたものと自著を紹介する。そして、ポジティブな言い方をするならば、バラエティにとんだ内容になっているという。
 さらに、「あなたが日々の暮らしの中でつい、憶測でものを言ってしまった時、そしてそのことを責められてしまった時、「わたしだけではないのだ」と、「わたしはまだマシなほうなのだ」と、自らをなぐさめ、勇気づけるために、この本が役立ってくれれば、こんなにうれしいことはありません。」と書くのだ。

 この本は、ヨシタケシンスケの力の抜けた文章と絵の相乗効果で、難しいことを考えすぎたり、人生の問題に直面して疲れてしまったり、日常生活に飽きたりした人のための処方箋となり、それを好きなところからパラパラとめくっているだけで、薬のように効いてくること間違いなしだ。
 どうぞあとは買って読んでください(笑)

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