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[英詩]詩形の基礎知識(4)——Two

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

「英詩のマガジン」の主配信2月の1回目です(英詩の基礎知識の回)。

前回は One を扱いました。おさらいすると、1行詩がすべての詩形の基礎の一つであること、英詩の最小の単位としての1行詩にはいろいろなアプローチがあること、完結した文か句跨りのどちらかであること、などを見ました。haikuやwakaも見ました。

今回は引続き、Twoを扱います。2行詩です。前回に続き、主として、Robert Hassの詩形についての考察に依拠して考えてゆきます。

ふつうは定型詩の議論は2行詩から始まるので、アプローチは豊富にあります。今回、珍しいものとしてアフリカのバントゥー族の詩を見ます。謎を含んだおもしろい詩です。お楽しみに。

目次
定義
Catullus
Bantu Combinations
Chiasmus
英詩のカプレット
Ghazal

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(201802)」へどうぞ。

このマガジンは月額課金(定期購読)のマガジンです。月に本配信を3回お届けします。

英詩の実践的な読みのコツを考えるマガジンです。
【発行周期】月3回配信予定(他に1〜2回、サブ・テーマの記事を配信することがあります)
【内容】〈英詩の基礎知識〉〈英語で書かれた詩〉〈歌われる英詩〉の三つで構成します。
【取上げる詩】2016年11月から主にボブ・ディランとシェーマス・ヒーニでやっています。英語で書く詩人として最新のノーベル文学賞詩人たちです。
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

これまでに扱った基礎知識のトピックについては「英詩の基礎知識 バックナンバー」(「英詩の基礎知識(6)」に収録)をご覧ください。

伝統歌の基礎知識(1)——ポール・ブレーディの場合」「伝統歌の基礎知識(2)——ボブ・ディランの場合」「伝統歌の基礎知識(3)——'Nottamun Town'」もあります。

Bob Dylanの基礎知識(1)」「Bob Dylanの基礎知識(2)」「Bob Dylanの基礎知識(3)」「Bob Dylanの基礎知識(4)」もあります。

バラッドの基礎知識(1)」「バラッドの基礎知識(2)」もあります。

ブルーズの基礎知識(1)」「ブルーズの基礎知識(2)」「ブルーズの基礎知識(3) 'dust my broom'」もあります。

[英詩]詩形の基礎知識(1)——tail rhyme」「[英詩]詩形の基礎知識(2)——sonnet」「[英詩]詩形の基礎知識(3)——One」もあります。

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定義

2行詩は関係のエネルギーとしての詩形の概念を導入する。

2行詩に2行詩の性格を与える方法は英詩では2つある。1つは聴覚によるもので、rhymeを用いる。もう1つは視覚によるもので、スタンザの型を用いる。

何らかの装置で結びつけられた一組の行を表す術語はcoupletであり、ギリシア語ではdistichという。

1行詩の場合は、どんなジェスチャでも形になった。つまり、うわべだけとしても、どんな振舞いであっても、1行で表されれば1行詩の形になった。

2行詩の場合は、2行の間に関係性があり、そこからエネルギーが発生する。2行という関係から力が生まれるのである。

英詩で2行続けて同じ押韻をすれば聴覚上カプレットと分る。

英詩で2行で1連をなす形であれば視覚上2行詩に見える。

カプレット(couplet,「二行連句、対句」) の用語は英詩ではおなじみだ。

ギリシア語のdistich「ディスティク、二行連句、対連、対句」はややテクニカルな議論、特に並行法 (parallelism) を構成する2つの要素に言及するときに使われる。

英詩には聴覚や視覚を用いる以外の、より精妙な2行詩の方法もある。

ともあれ、2行は同じ韻律や同じ文法的構造を共有したり、あるいは1つの論理的または文法的ユニットを構成したり、何か他の要素——例えば最初の語や最後の語など——を共有したりする。


Catullus

ヨーロッパの伝統で最もよく知られた、おそらくは最高の例はCatullusである。

カトゥルスはローマの抒情詩人(84?-54? B. C.)。ラテン語を学修するときに必ず教わる詩人だ。

カトゥルスはシルミオーネに暮らしていたので、ゆかりの地としてまず思いつくのはシルミオーネだ。イタリア北部のガルダ湖という、ヨーロッパで最も青い湖の南端にある。ここは文学的に豊かな連想があるところで、私も数回訪れたことがある。湖面は本当に青く美しい。

さて、そのカトゥルスの詩だが、有名なのは次の詩だ。ラテン語で書かれている。

Odi et amo, quare id faciam, fortasse requiris?
nescio, sed fieri, sentio et excrucior.
私は憎み、愛する。なぜかとあなたは問うだろう。
私には分らない。が、私は感じ、苦しむのだ。

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