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[英詩]詩形の基礎知識(2)——sonnet

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

「英詩のマガジン」を始めてから、いつかは取上げねばと思っていたのが、ソネット詩型です。14行詩です。

ソネットで書かれた詩を取上げたことはあります。たとえば

また

などです。

もともと、イタリアからイングランドに入ってきた外来の詩型ですが、シェークスピアを始めとして多くの詩人に愛用され、イングランドならではの型の改変も行われました。

今回はこの型の基本を押さえてみます。

目次
定義
 1. イタリア型(ペトラルカ型)
 2. イギリス型(シェークスピア型)
実例
 1. イタリア型(ペトラルカ型)
 2. イギリス型(シェークスピア型)
種々のソネット
Robert Hass のこぼれ話

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(201712)」へどうぞ。

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【取上げる詩】2016年11月から主にボブ・ディランとシェーマス・ヒーニでやっています。英語で書く詩人として最新のノーベル文学賞詩人たちです。
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

これまでに扱った基礎知識のトピックについては「英詩の基礎知識 バックナンバー」(「英詩の基礎知識(6)」に収録)をご覧ください。

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定義

ソネットの定義を 'Oxford Dictionary of Literary Terms' で見てみると、まず

A lyric poem comprising fourteen rhyming lines of equal length: iambic pentameters in English, alexandrines in French, hendecasyllables in Italian.

14行の同じ長さの韻を踏む行からなる叙情詩。英語では弱強五歩格(10音節)、フランス語ではアレクサンドラン(12音節)、イタリア語では11音節。

とあり、各行の音節の長さが英仏伊で違いがあることがわかる。英語では各行が弱強五歩格となるのが基本。弱強のユニットが5回繰返される。

押韻形式(rhyme scheme)は基本的に二種類ある。

1. イタリア型
2. イギリス型

少し詳しく見てみよう。

1. イタリア型(ペトラルカ型)

Italian form (Petrarchan sonnet).

8行と6行とから構成される。

8行の方を octave といい、4行連(quatrain)2つから成る。

6行の方を sestet という。

8行の韻律形式は abbaabba である。

6行の韻律形式は通常 cdecde または cdcdcd である。

8行から6行への移行ポイントを turn(伊:volta)と呼ぶ。転回点である。

turn はイタリア型では、8行と6行の間にあるが、イギリス型では、その後の位置にあることもある。イギリスの詩人ジョン・ミルトンが考案したソネットの型では、turn は10行のあたりに来る。後の詩人ウィリアム・ワーズワースはミルトン型を用いつつ、octave の押韻形式を abbaacca と緩めた。

turn は議論または気分が転じるところであり、その位置を見極めることは重要だ。詩が流れを変えるところだからだ。

以上をまとめると、次のようになる。

octave (abba abba)
(turn)
sestet (cdecde or cdcdcd)

イタリア型は英語および他の言語で最も広く用いられている型である。


2. イギリス型(シェークスピア型)

English form (Shakespearean sonnet).

4行連3つと最後の2行連句(couplet)とから構成される。

韻律形式は ababcdcdefefgg である。

この型を少し変えたものにエドマンド・スペンサーが考案したスペンサー型がある。

ababbabccdcdee

という韻律形式で、3つの4行連が韻により結ばれている。

どちらの型でも、turn は最後のカプレットの前にあることが多い(イタリア型と同じような位置にあることもある)。このカプレットはしばしば警句(epigram)のようなすっきりした効果を出す。

以上をまとめると、次のようになる。

quatrain x 3 (abab cdcd efef or abab babc cdcd)
(turn)
couplet (gg or ee)

イギリス型は最後の2行がカプレットになっていることを見つければ容易に見分けられる。


実例

1. イタリア型(ペトラルカ型)

abba abba cdc dcd の押韻のキーツの詩を例として挙げよう(強勢母音は太字で示す)。

On First Looking into Chapman's Homer
John Keats

Much have I travelled in the realms of gold
And many goodly states and kingdoms seen;
Round many western islands have I been
Which bards in fealty to Apollo hold. 

Oft of one wide expanse had I been told        5
That deep-browed Homer ruled as his demesne:
Yet did I never breathe its pure serene
Till I heard Chapman speak out loud and bold: 

Then felt I like some watcher of the skies
When a new planet swims into his ken;       10
Or like stout Cortes—when with eagle eye

He stared at the Pacific—and all his men
Looked at each other with a wild surmise—
Silent, upon a peak in Darien.

(1, 5, 13, 14行の最初の詩脚[foot, 英詩リズムの最小単位、強音節1個に弱音節1個または2個が加わったもの]は強勢が倒置され、弱強でなく強弱となる。8, 10, 11行の最初の2つの詩脚は弱弱に強強が続く特殊な行。12行の Pacific の後に叙事休止[弱音節の次に休止があり、その弱音節が余剰音節になるもの])

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