見出し画像

[英詩]Bob Dylan 大幅増補の最新詩集

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

※「英詩のマガジン」の副配信です。

2016年版のボブ・ディラン最新詩集 'The Lyrics 1961-2012' について、前半は、一般的な面についての書評、後半はディランの詩について掘下げます。

Bob Dylan, 'The Lyrics 1961-2012' (Simon and Schuster, 2016)

書評

ボブ・ディランの最新詩集 'The Lyrics 1961-2012' (米Simon and Schuster, 2016) は、それまでの 'Lyrics' 名を冠した数冊のディラン詩集と比べて、大幅に増補された。

ただし、'The Lyrics : Since 1962' (edited by Christopher Ricks, Lisa Nemrow and Julie Nemrow; New York: Simon & Schuster, 2014) は除く。これは、いわゆる集注版(variorum)で、一般読者むけではない。

ボブ・ディランに2016年のノーベル文学賞を授与した委員会が、授賞にあたって検討した詩集は、この2014年刊の集注版までだ。同委員会が検討の対象とした 'Lyrics' は、これ以外に、2008年の独Reclam刊、2004年の米Simon & Schuster刊、1999年の米Knopf刊、1997年の米Villard刊、1985年の米Knopf刊の五冊だ。

増補された諸点のなかでまず注目すべきは、ディラン自身による数十篇(dozens)の詩テクストの編集が初めて掲載されたことだ。とはいうものの、具体的にどの歌のどこを直したのか、現時点では不明だ。全部に目を通したけれども、まだつきとめられていない。ディラン編集の具体例を報告したものも寡聞にして知らない。

増補のもうひとつの注目点は、収録された歌が、従来の詩集に比べて大幅に増えたことだ。これは、だれにでもわかる。従来の詩集に掲載されていなかった、その後のアルバム所収の歌に加え、「追加詩篇」(Additional Lyrics) がアルバムごとに収録されている。これはたいへん大きなことで、これらを読むことで、ディランに対する理解がふかまる。

2004年の米Simon & Schuster刊の 'Lyrics' はアルバム "Love and Theft" まで収録されていた。ただし、追加詩篇が入っていなかった。本詩集では、追加詩篇2篇が収録されている。さらに、その後のアルバム 'Modern Times', 'Together through Life', および 'Tempest' まで収録されている。このうち、'Modern Times' には追加詩篇2篇が収録されている。

一読して、すぐに気づくのは、ボブ・ディランの創作熱がまったく衰えていないことだ。それどころか、ますます問題意識が鮮明になっていると感じさせられる瞬間も多い。

ノーベル賞は存命の人にしか与えられない賞だから、ディランが元気なうちに文学賞をもらったことは良かったけれども、それで彼の活動が終わったわけでないことは忘れてはいけない。

とはいえ、1941年生まれの彼が、あとどれくらいわれわれと共にあるか、それは神のみぞ知る。彼を同時代の詩人として読めること、聴けることは至福という他ない。

_/_/_/

Whatcha Gonna Do

ボブ・ディランの2枚めのアルバム 'The Freewheelin' Bob Dylan' (1963) の追加詩篇のひとつ。音源は 'The Bootleg Series, Vol 9: The Witmark Demos: 1962-1964' (2010) に収録されている。咳が録音されていることを除けば、どこに問題があるのかと思われる完成された歌だが、なぜかアルバム未収録で、ライヴでもいちども唄われていない。

1985年の米Knopf刊詩集 'Lyrics, 1962-1985' に、この歌は収められている。

ただ、同詩集には、その前に 'My Life in a Stolen Moment' という詩が収められている。さらに、本詩集 (2016) の追加詩篇の4番めの 'Seven Curses' と5番めの 'Dusty Old Fairgrounds' との間に、'Joan Baez in Concert, Part 2' (jacket notes) という長い詩が収められている。これらの2つの詩は2016年版詩集には収められていないが、2014年刊の集注版にも収められていない。つまり、この2つの詩を読もうとすれば、1985年版の詩集にあたる必要がある。

'Whatcha Gonna Do' について、ヘイリンは、'Me and the Devil Blues' をつくった Robert Johnson との対話だと考える。

続きをみるには

残り 3,786字 / 1画像
この記事のみ ¥ 200

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?