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THA BLUE HERBが刺さるのは

僕が持つ多くの趣味の一つに、音楽鑑賞がある。よく聴くジャンルはロックだが比較的雑食で、何でも薦められたり気になったりすればとりあえず聴いてみるのだが、未だに少し敬遠しているのが日本のヒップホップである。以前も今日本で最もキテると言われるラッパーの曲を聴いたのだが、イマイチピンとこなかった。

ジャパニーズヒップホップへの抵抗感が拭えない理由は様々だが、一番はどうしても付きまとう「チャラい」というイメージだろうか。顔にグラサン、腕にタトゥーのセックス何回もやってそうなカッチョいい髭の兄ちゃんが両手でフレミングの左手の法則みたいなものを形作って何かをdisったりガンジャ肯定したりといったところが、僕の住んでる世界とは異なるように感じてどうしても入っていけないのである。(そこまでラップに精通していないため偏見も多く含んでいるとは思うが)
アウトドアや自然を好み、あらゆる細かいことは気にせず生活している、いわゆる「陽」に属する人たちにはこれがたまらんのだろうが、僕は残念ながらそういった人たちの輪に入っていけない。『新すばせか』のナギセンの言う「陰と陽とは相容れぬ」といったところか。

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そんな僕でも、特に最近になって好んで聴いているヒップホップミュージシャンがいる。


THA BLUE HERBだ。


ここサッポロと言えば、私が大変昔から尊敬しております、bloodthirsty butchers そして eastern Youth  fOUL  THA BLUE HERB  そして惜しくも、これまたあの、解散してしまったんですけどもカウパーズ。その他色んな私が影響を受けたバンドがここサッポロには多くいらっしゃいますね。


幾度となく聞いたNUMBER GIRLサッポロでの最後のライブ、フロントマン向井秀徳のmc。現地が生んだ数々の名バンドを引き合いに出し、自分たちも、少なからず、こういった人たちに近づけたのではないか、と述べている。
この向井の言葉からTHA BLUE HERBという名前だけ知っていたのだが、長い間曲を聴いたことはなかった。


昨年の2月だったか3月だったか、ソーシャルディスタンスやらアベノマスクやらそんな言葉が流行り始め、「集客」という行為が禁じられたエンタメ業界は痛手を受けていた。そんな中公演を行えず経営が厳しくなったライブハウスを守るために、多くのアーティストが音源を提供。それらの音源が収録されたデータをネット上で販売し、寄付されたお金を全てライブハウスに援助するというプロジェクトが行われたのである。その音源の中には、僕が敬愛している向井秀徳の楽曲も含まれていた。

向井の音源を手に入れたいという欲求と、少ないお金ながら誰かの役に立てますようにといった感情と共に購入した、数十組のアーティストの曲が収録された音源集。その中に、THA BLUE HERBの音源も含まれていた。「そういや向井のMCで言ってたバンドだな」と思い試しに聴いてみる。


バンドではなかった。


曲を聴くまでは、彼らが織りなす音楽がヒップホップということすら知らなかった。

データ音源を聴いていきなりガツンと刺さったわけではなかったものの、何か感じ取ったような、気がした僕は続いて彼らの伝説的名盤、『STILLING, STILL DREAMING』を鑑賞。


こいつが、凄まじかったのである。


冒頭『THIS ’98』の明らかにこちらに向かって語りかけている「針は変えたんだろうな」という台詞、ビートなのかよく分からん音楽がバックで流れる中で胸打たれる言葉をひたすらに飛ばしてくる『孤墳』を筆頭に感受性を強く刺激された。僕の中でのBLUE HERB熱は時間を経て徐々にヒートアップしていき、今では前述したNUMBER GIRLと共に僕の心の支柱となりうるアーティストとなっている。


僕がヒップホップであるBLUE HERBの音楽をすんなり聴けるのは、格好の良さより人間臭さが勝っているからだと勝手に解釈している。
彼らがリリックで投げかけているテーマは「明るく、楽しく」といったものではない。どこか重々しく、陰鬱、そしてリアルだ。
世の中には、どんな辛いことや困難な状況になってもヘラッとしている人たちがいる。彼らは最終的には幸福になるということを心から知っているのだろう。ある種羨ましいが、勿論そうではない種類の人間だっている。社会のしがらみなどによって生きづらい人間、頑張ろうと思っているけど頑張れない人間、要は先程述べた「陰」寄りの人たちだろう。
地方である北海道を拠点に活動し、東京中心のシーンに革命を起こしたりするなどヒップホップシーンに残した影響が大きいが故にそのジャンルのファンの多くから愛されているBLUE HERBだが、彼らの音楽は、ジャンルといった垣根を越えてそういった「陰」の世界に生きる人間にこそぶっ刺さるのだ。


BLUE HERBを聴くようになったのはコロナ禍に入ってから、つまり僕がオーストラリアで暮らすようになってからなので未だライブへは行ったことがないのだが、先日ネット配信にてライブを視聴する機会があった。
2021年フジロック、現地時間17時10分。ホワイトステージに彼らはやってきた。4年ぶり6度目。大胆な演出どころか登場曲もなく、淡々と現れたMC ILL-BOSSTINO 通称BOSS。ステージセットは、DJ機材とマイク一本のみ。これ以上ないほど質素なBOSSの佇まいは、近代兵器を駆使するロックミュージシャンに対して日本刀一本で戦に向かう侍のようだった。

ライブ開始から怒涛のように言葉を投げつけてくるBOSS。何度も聴いたファーストアルバムのナンバーや、現在フジロックのステージに立っていることを絡めたフリースタイルなどで、心を殴られ続けた。

そして、中盤に差し掛かるかというところでの『THE BEST IS YET TO COME』で彼はこう言った。

オレ、マジで言ってるぜ。1番良いのはまだ来てない!

49歳のラッパー、キャリア20年以上。もう音楽はある程度やり尽くすとこまで来てしまったのでは...なんて人間が、心の底から魂を込めて繰り出す「1番良いのはまだ来てない」、少し語調が強めの「マジで言ってるぜ」でこの人は本当にマジなんだと思った。多くのラッパーやミュージシャンに尊敬され名声も得てきたにも関わらず、現状に満足してない、サイコーは遠いと叫ぶ姿に感極まってしまった。
何を頑張るかは分からないが、俺も、頑張ろうと思えた。

画面越しだったにも関わらず、こんなに音楽、そして言葉が突き刺さったのはおそらく初めてだった。


僕はこれからもBLUE HERBを聴き続けるだろうし、日本へ帰国したらライブにも参戦しようと思っている。
BOSSの肉声を、生で浴びずに死ぬことはできない。

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