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みんな等身大

2018年のニコニコ超会議に参加したときのこと。様々なブースを回っていると、インタビューを受けている加藤一二三先生がいるブースを発見。多くのメディアでのユニークな言動や、生き様のカッコ良さが魅力的で当時ひふみんのにわかファンだった僕は足を止める。その時やっていた催しは、囲碁将棋レジェンド共演。その囲碁側のレジェンドとしてひふみんの隣に座っていた人こそ、現在僕の最も尊敬する人の一人、囲碁棋士、趙治勲先生だった。

司会者である年配のアナウンサーらしき人が、視聴者から届いた質問を読み上げる。ひふみんは以前雑誌か何かで、「一つだけ、無人島に持っていくとしたら」という質問に対し、「羽生先生」と答えたことがあるそうだ。将棋への愛とまだまだ勉強したいという熱意が伝わってくる。

それを踏まえた治勲先生への質問。「無人島に、井山先生(当時の名人)を持っていきたいと思いますか?」に対し、先生はこう答えた。

「いや、全然持っていきたくないですよ(笑)。むしろ、無人島に行ってそこへ、突き落として俺は帰りたい(笑)。」

嘘偽りのない、かつブラックな笑いに溢れたこの解答で、僕は治勲先生に引かれてしまった。どんな人間なんだろうという興味で動画サイト、ウィキなどの情報を片っ端から読んでいった。韓国はソウルで生まれた治勲先生は、わずか6歳で来日し、木谷實門下へ入門。めきめきと実力をつけていき、80年代初頭から90年代末にかけての長い間囲碁界のトップに君臨。現在は全盛期を過ぎたものの、60歳になっても賞金ランキングに入るなどまだまだ現役バリバリで対局を行っている、まさにレジェンドである。


実績以上に僕の目を引いたのが、先生のメディアでの発言や行動。この方、めちゃめちゃに面白い。

以前『怒り新党』という番組で紹介されたこともあるのだが、「殺し屋」と異名を持つ加藤正夫先生の追悼番組での棋譜解説。最初は対局の解説をしていたのだが、途中から加藤先生とゴルフをやった話になって、突然解説をすっぽかしてゴルフのスイングの真似事を始める治勲先生。一体何を見せられているか分からない視聴者・・・非常にシュールな光景である。つい笑ってしまうのはもちろんだが、取り繕わず、やりたいことをやっている、飾らず生きている・・・そこに治勲先生のカッコ良さも感じる。

囲碁をほとんど知らないのにすっかり治勲ファンになってしまった僕は、市ヶ谷にある日本棋院にて治勲扇子を購入。

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そして、書籍も購入させていただいた。

本の内容は、ひたすらにお悩み相談。相談内容は非常にくだらないものからシリアスなものまであり、それぞれの解答に斬新な返しやユーモア、そして人情が溢れている。

この本の中で、今でも記憶に残っている言葉がある。どういった相談についての解答かは忘れてしまったが、結論として、どんな人格の優れた人間であっても、どうしたって黒い部分、ネガティブな部分がある。だから自分は性格が悪いなんて思い悩むことはないんだよ、みたいな内容だったと思われる。そこで、治勲先生はこのように述べていた。


「悪口、楽しいですよね」


あるジャンルでトップに君臨した人が述べるこの言葉で、人格をより良く変えよう変えようとストイックになっていた僕は少し救われた。完璧な人間なんていない。どんな地位であろうと、みんなどこかしら不器用なのだ。

悪口しか言わない人は嫌いだし、言うのがダメだと分かっていてつい言ってる自分も嫌いだ。ただ今後の人生で悪口を全く言わずに生きるというのは、非常に難しいだろう。悪口を言葉の選び方や度合いにもよるけど、少々のガス抜き程度のたまにの悪口は、いいのかなと。

とはいいつつも最近執筆しているnote記事、自分では批判だったり問題提起のつもりで書いているが、正直悪口と捉えられないこともないんじゃないか、と考えるとなんだかなぁ(笑)。悪口と批判の境界線もまた難しいところではありますな。

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