雷神神話論と自然科学

雷神神話論をやっているのですが、その背景です。

雷神神話には環境神話、自然環境神話としての側面と生命神話(身体的)としての側面がある。私は、雷神神話はもとより神話であるが、このような雷神の捉え方には神秘的な直感として本質をついた部分があることを承認すべきであると思う。神話時代の人々は我々とは異なる形で、雷電に現れる気象と生命の自然的な関係の神秘を深く精神に刻んでいたのではないか。
 その理由に関わって、ここで一応、雷電の自然的な性質を確認しておくと、そもそも雷は帯電した雷雲が起こす放電現象、天空の大気現象であるが、それはさまざまな形で地上の事物に影響をあたえる。まずは落雷の放電現象は大地を揺らす。これによって人々は大地が揺れるものであることを経験し、地震を起こす神として雷神を認識することになる。さらに火山噴火に際しては噴火雲による放電が火山雷を響かせるが、人々はその原因と結果を逆転させて、雷神が火山を噴火させたと認識する。また落雷・雷雲は雨と風をともない、あたかも天空の大気現象の原因であるかのように現れる。さらに地上への雷撃・放電が大地と環境にさまざまな影響をあたえることはいうまでもない。その代表は樹木への雷撃が森林の更新を促進し、また落雷が空気中の窒素を土壌に固定することであろう。さらに重要なのはよく知られているように落雷による草木などの発火が火の起源に関係することである。落雷による山林火災は現在でもしばしば起こることであり、人類社会における火の起源がおもに落雷に由来する火の利用に由来することは疑いないだろう。人間にとって火の意味については次章であらためて論ずるが、現在の電気がそうであるように火は人類史において一つの社会的自然である。それによって人類が人類になったことは疑いない。
 これらは常識的な事実であるが、さらに最近の雷電についての自然科学の研究はきわめて示唆的である。つまり落雷は気体をプラズマ化し、そのプラズマ照射が植物種子の発芽抑制遺伝子の機能をおさえ、発芽を促すことが明らかになっている15。「蕾(つぼみ)」の字に「雷」がふくまれるのは十分な理由があったことになる。さらには雷・雷雲が天然の加速器として大気中で原子核反応を起こしガンマ線のバーストを発生させて遺伝子の突然変異の原因となるともいう16。これは生命の繁殖と再生産、それ故に生命の進化に雷電が深く関わっていることを示している。「雷」が地球環境において果たしている役割は、最大の神秘現象の一つといえるような根本的なものであるらしい。雷神神話が環境神話、自然環境神話としての側面のみでなく、生命神話(身体的)の側面をもっていることは、神話的認識が地球の環境と生命の神秘のある部分を正確に認識していたことを示すのである。

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