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シャッチョ

義兄にもあたるシャッチョは独身だ。

私は初めて義父に会った時に挨拶そこそこに聞かれた。
「うちに独身が2人おるが、どっちかもらっちゃくれんか」
会って10秒そこそこに息子2人を勧めてきたじーさんにドン引きした私は、即答で

「結構です」

と、答えた。
シングルマザーの私は息子との2人生活が気楽だったし、安芸太田町に来て間も無い。件の息子2人の事だって何ひとつ知らない。
そもそも、目の前のじーさんなんて会って1分も経っていない。

結果的に私はそのうちの1人を頂いたのだけど。

恐羅漢に勤め始めてから今まで。
私はシャッチョが嫌いだ。
嫌いだし苦手だ。

どんなにボロくても確認もせず橋を渡っちゃうタイプだし。
かと思えば、絶対この橋は大丈夫だろうという場面で確認をし出す。
逆だろ、逆っ!と、いつも思う。
お酒を飲めば普段から大きい声が更に大きくなる。
ガサツだし。

独身なのも正直納得する。

「そもそも結婚したいん?」
と、聞いた事がある。
「そりゃぁ、相手がおりゃねぇ…」

1度だけ、私の友人を紹介した事がある。
185cm位の長身に対して168cmのスラリとして、控えめで気立ての良い。シャッチョには勿体無い位の女性だ。
2人とも自分の事を私みたいにペラペラ喋らないから分からないが、何度かデートはしたようだ。
私から見て、2人はお似合いだった。
夜の広島駅構内を歩く2人の後ろ姿を見て感じた。

が、2人がうまくいかなかった原因は大きかった。

うまくいくと思ってた。
もし、彼女がシャッチョと結婚したら私と彼女は気を使う間柄でないので更に最高の関係になると思ったし、物静かだけど仕事への完璧さを考えると恐羅漢にとっても強い味方にもなると感じた。
なにより、大好きな彼女が近くで幸せになるのを見れるというのは私の自己満足だと分かってても嬉しいと感じていた。

が、その冬は最悪な暖冬だった。

スキー場はオープンできず。
オープンしても3日でクローズ。

スキー場の収入は無く、人件費だけが出ていく状態となり。
シャッチョは金策に明け暮れた。

シャッチョの目の下は大きく窪みができ、黒くなり、大きな体からいつもあった必要以上の威厳とか自信が減って肩が落ちていった。
見るのも可哀想な程に。

うっとおしい位にデカい声で元気なシャッチョでは無くなり、さすがに心配になった私は

「彼女とみんなでご飯しない?」

と、ダブルデートを提案したが、

「うーん、今はちょっとそれどころじゃないけぇねぇ…落ち着いたら…かな」

と、断られた。
「落ち着いたら」は長かった。
シャッチョは彼女に連絡しなかったし、彼女もまたどう声をかけたらいいか分からず、連絡をしなかった。

そうして「落ち着いたら」は続き、やっと「落ち着いた」になった時には遅かった。
彼女は病気を患い、誰かと付き合うとか結婚とか言っていられない状況となってしまった。

「時すでに遅し」

2人の気持ちがどこまで進んでいたかなんて私は知らない。
暖冬を乗り越えた今も、シャッチョは綺麗な独身だ。
相変わらず義父のじーさんも「誰かおらんか」と聞いてくる。

甥っ子の誕生日には酒とコンビニのケーキやプリンを大量に抱えて表れ、夏には買い占めたのかと思う程の花火を持ってきて、冬には自ら現場に出て、たくさんの知識を持ち合わせ、自分の食べた茶碗は自分で洗い、背中が大きく破れた肌着でも気にせず着て、流行に敏感で、自信家で…

私はシャッチョが嫌いだ。

でも、好きだ。

悔しいけど。
力になりたいと思う。
幸せになって欲しいと思う。

確か今年で51歳。

もし、私のnoteを見てシャッチョに興味がありますと名乗る奇特な人が現れたら喜んで私はシャッチョの腹立つ所を教える。
良い所は自分で見つけて欲しい。

もし、私のnoteがキッカケで結婚できたとしたら。

シャッチョは永遠に私の手下としてこき使いたい。

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