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【イベントレポート】note酒場の、外酒場。(週報_2018_12_09)

私が会場の最寄り駅に到着したのは18:06のことだった。
note酒場の午後の部に参加するため、私は外苑前駅にいた。
午前の部に参加されたフォロワーさんが行き方を文字に起こしてくれていたので、駅から2分程で会場である伊藤忠ガーデンらしき場所には辿り着いた。

おそらく、ここの、敷地内。
日が落ちて木々がライトアップされ、表情は変わっているものの、案内図で見た通りの小洒落た空間が目の前に広がっていた。

一旦、落ち着こう。
今思えばこれが大きな間違いだった。
私はずっと落ち着いていた。
何も気忙しくなどなかったのに一息入れてしまったのだ。
Itochu Gardenの、看板の前で。


腰を下ろすととりあえず家から持ってきたみかんを1つ剥いた。
ここ数日の中では最も12月らしい、澄んだ空気が刺すような夜だ。
午前中はそわそわと浮足立っていたタイムラインの住人たちが、午後には一斉に無口になった。
それは会場内で皆それぞれに楽しんでいることを示していた。
タイムラインの静けさと反比例して、時折会場から漏れる歓声。

あ、なんだこれ。
しまった、完全に世界が閉じた。
今までどんな婚活パーティーであっても、入場くらいは当たり前のこととして出来ていた。
まさかこんな早くに私の時空がねじ曲がるとは。
大股でぴょんぴょん歩けばあと30歩、あるかないか。
それなのに完全に私の周りは見えない鉄格子で囲われてしまったのだ。

御影石で出来たベンチは身体に優しくなかった。
そりゃそうだ、真冬にこんなところで長居する人間を想定して作られてはいないのだから。
接した尻からじわじわと冷えが上がってくる。
さ、さむい。
だが冷えれば冷えるほどみかんは美味い(どうでもいい)
テナントに食事に来たのであろう富裕層の白人の子供が、一心不乱にみかんを食べる私を見つめる。
「ハ、ハロゥ…」
ガン無視だ。
私の国際交流は失敗した。

時折懐中電灯を持った警備員が見回りに来て、一瞬だけライトと目が合い(まぶしい…!!)すぐにそらされる。
逆に叱ってくれよ、この場を立ち去るきっかけをくれよ。
恨めしそうな顔の私を素通りしながらも不審者としてチェックがなされたことは間違いなかった。

その間も酒場に参加者らしき人間が出たり入ったりしているのを見つめていた。
初心者マークをつけたまま帰ってしまう革ジャンの眼鏡男子(大好物です)
2度ほど外に喫煙に来て『お前まだおるんかい!』とばかりに私を二度見し、腕時計を確認する男性(まだおります)

泣いて懇願したにも関わらず同伴してくれなかった、私のあしながおじさんと話していた言葉を思い出す。

「言うてもnoteはインターネット文化だから」
「きもいやつもいる?」
「きもいやつもいる。」

嘘つけみんなキラッキラしとるやんけ!!
ノーカラーのロングコートとか着とるやんけ!!
きもいやつもおるかもしれんけど、そういうやつは家でお留守番の旗振っとんじゃ!!
そして私も旗振っとる方の人間じゃ!!

Twitterを見ると『来場でぼっちの方にはスタッフがお声かけしています』
コミュ障にも優しい世界。
ただ、優しい世界は、この檻の先にある。
そりゃ優しくしようと思っても対象者には家から出てきて貰わないことには優しくしようもない。
自分の足で歩いて、受付を済ませ、会場に入る。
当たり前すぎてあえて書かれることはない、暗黙のルール以前の問題なのだ。
『家を出るときに服を着てから出てください』なんて言われたことないもん、そのレベル。
あの受付を通らない限り、私は家から出ないも同然。
あれ?もしや、ここは、家?

note酒場は内なのか、外なのか。
私の家が内なのか、外なのか。
私の家の中と、この外苑前の空間は同一なのか。
寒さで脳が萎縮して、内と外の概念が捻れてゆく。

「ぼっちだったらぼっちなりのネタが1本書けるじゃない」

あしながおじさんも、まさか会場にも入れないくらい私がコミュ障を極めているとは思わなかったのだろう。
ふ、不甲斐ない、しかしこれが本当の私なのだ。
私は自分が楽しめないことよりも何よりも、あしながおじさんの期待に応えられないことがショックだった。
気付くと1つ目のみかんを剥いてから1時間以上が経過していた。

この世の終わりのような顔をしていたと思う。
私のこの世はもうすぐ終わる。
どうせこの世が終わるなら、せめて最後に酒盛りしようと、近所のコンビニまで歩いて缶チューハイを買いに行った。

ふと、ベンチに呪いのお面が入った紙袋ごと忘れたことに気付く。
写真撮影の機会があったらかぶろうと思っていたシンガポール土産のヤシの実で出来たお面だ(情報量が多すぎる)
買い物が終わってベンチに戻ったとき、あのお面がなくなっていたら。
勤勉な警備員によって忘れ物として回収されていたら。
だとしたら
「呪いのお面、届いていませんか?」
そう言ってnote酒場を訪ねることができるかもしれない。
偶発的なミスによってラストチャンスを得た私は寒さに歯を鳴らしながら、元いたベンチまで小走りで戻った。


「・・・・・。」

呪いのお面はそこにいた。
紙袋の奥底からでも『オカエリ』と私に囁いているようだった。
私のnote酒場は終わったのだ。


note酒場の外酒場…。
そうつぶやきながら、"ほろよい"1本で泥酔した。
はあっと吐いたため息も白くならないほどに、身体中が冷え切っていた。

なんだったんだ、私の参加費750円
なんだったんだ、私の名刺100枚
それでも私は『帰ります』とツイート出来ずにいた。
『帰ります』と言うことは『帰りたくない』と言っているのと同義だ。
そんな台詞、言えるわけがなかった。

最後のみかん3房を1つずつちぎって御影石のベンチに並べた。
これが凍って冷凍みかんになったら(食べてから)帰ろう…。
決心したそのときだった。

「ミチルさん!!!」

鮮やかなグリーンのニットを着た美人が、大きな瞳の可愛い女性を連れて立っていた。

「ミチルさん、yoko.*です!!」

遭難者と山岳救助隊のような出会いだった。
初対面のyoko.*さんは鼻水ズルズルの私に向かって迷わず手を差し出してくれた。
その一切の躊躇のない清廉潔白な右手に、氷のように冷えていることも忘れてつい自分の手をのせてしまう。

「私のおごります券で温かいもの飲もう?」

そう言うといとも簡単に私を見えない檻から連れ出してくれた。
慌てて御影石に並べたみかんを口の中に回収する。

「あ、それ食べるんだ…」

衛生観念がおかしくてすみません…。

「こわいよー!こわいよー!」

泣き叫ぶ私を連れ、yoko.*さんは第二の難関である受付も軽々済ませてくれた。

「おしっこしたい…」

トイレはね、あっち!と指示されバタバタと向かう。
ドアの前でキラキラ女子と入れ違いになりビクッとするが、もう味方がいるもんねとばかりに背すじを伸ばす。

長時間寒空の下で水分を摂り続けたので、出しても出してもおしっこが止まらなかった。
早くしないとうんこだと思われちゃうじゃん!と思いながらも、パンツ、キャミソール、タイツ、ショートパンツ、の順に丁寧に着衣した。

トイレから出て、会場にもう一度足を向けると、ガラスの向こうからモリゾーみたいなニットを着たyoko.*さんが私に気付いてくれる。

こうして私は会場に到着して1時間48分後、note酒場の暖簾をくぐることが出来たのだった。

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