見出し画像

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』は、人間らしくあるための希望を持たせてくれた。

 舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』を観てきました。
2024年4月24日の18:15公演。

 私はハリー・ポッター世代ど真ん中で、小学校時代はハリーポッターの新刊を一番に買ってもらえた子が学校に本を持ってきては、それを周りが羨ましがる、そういうクラスで育った子どもでした。
 スマホもないので娯楽は本ぐらい。必然的に私とハリーポッターシリーズの距離はどんどん縮まり、暇つぶしに読み返し、おやつ片手にまた読み直し、気づけばホグワーツ魔法魔術学校は私のすぐ隣にある世界となり、ハリーたち登場人物は、幼馴染の友達のように親しく付き合う存在となっていました。
 ひそかに呪文を暗記しては誰に説明するでもない知識を頭にしまい込み、周りに合わせようと思って読み始めたこのシリーズを、ある時から誰よりも詳しくなっていることに気づいた高校生の頃、この知識と思い入れを発揮するチャンスは特にないだろうなと寂しく思ったことを覚えています。

 …が!
そのチャンスが約15年越しに訪れました。この作品の舞台化、そして日本版の上演です!!
 呪いの子の原作本自体は、舞台化が話題となった2022年6月に読みました。とても面白く、息をするのも勿体無いほどファン心を揺さぶられる怒涛の展開が続き、一晩かけて読み切ってしまいました。ですが反面、登場人物たちが命懸けで闘い抜いた本編のさまざまなエピソードを、このようにあけすけに語ってしまっても良いものなのだろうか、ハリーたちが成長した姿や登場人物同士のやり取りを、こんな形で見てしまって良いのだろうか、という葛藤はある程度残り、おっかなびっくり柱の影から物語を見守るような気持ちで読んでいました。

 なかなか東京まで行けなかったこともあり、開幕から長い年月が経ってしまっての初観劇となりましたが、満を持して迎えたこの日は、それはそれは素晴らしく、しあわせな時間でした…!!
 一番感動した点は、この舞台が、何より演劇としてすばらしかったことです。魔法として登場するイリュージョンの数々にはもちろん!驚嘆が止まりませんが、それ以外には、近年舞台にも見られるような映像CGを使った手法などが全く無く、ほぼ完全に、人の持つ力に委ね切った演出がなされていると感じました。ドラゴンなど非現実の存在は、人々の視線の先を追うことで表現され、ケンタウルスは馬の人形を作ることなく照明と演出のマジックで見事再現。鮮やかな舞台転換を行うのは、華麗にローブを翻してスタイリッシュに場面を彩る魔法使いキャストの方々。
 
 そして、日本人キャストによる日本語でのハリーポッター世界。これもまた、私の想像したこともない新たな表現でした。今まで、洋装文化一つをとってみても、どこか西洋に比べて未完成であるかのような引け目を感じていたアジア人の自分に対し、演劇の想像力がその壁を取り払ってくれるような気持ちになれました。最近は、顔写真の加工やVtuberなどの台頭で、あるがままの人間の姿がまるで美しくないもののように扱われ、あらゆる点で人が生き物であることを否定されているような時代の空気を感じていて、それにずいぶんと自分は追い詰められていたんだということにも気付かされました。この作品の演劇らしい人の手触りと温もりに溢れた舞台表現を見て、私は人間らしくあることの希望を再び持たせてもらった気がします。

 ストーリーも、ほんものの役者さんの物凄い熱量の演技によって立ち上がった様を一緒に追っていくと、本で読んだ時とはまるで違う共感と感動がもたらされました。何かが少しでも変わってしまったら、今ある愛する人たちには会えない、今ここにある人生のありがたみを、あれだけの時間を通しての熱演で、観客も実感をともなって経験できたような気がします。
 大貫勇輔さんのハリーは、かなりきつい台詞が多い役どころを温かみのある優しげなたたずまいで表現しているのが、アルバスに対しても観客に対しても、愛と優しさがあると感じて本当に素敵でした。そう演じようと思ってくれる気持ちがうれしい。アルバスとスコーピウスのお二人(福山康平さん・門田宗大さん)は、流石としか言いようのない、初見の私がびっくりしすぎてぶっ飛んでいきそうな程の熱演がとにかく凄かったです。…親子の関係の複雑さ、自信の無さや存在の不安に囚われ人生に追い詰められてしまっている感じ…、これはハリーポッターの枠組みで描く現代問題なのだなと、胸に訴えかける切なさが込み上げます。彼らはいつも一生懸命で、だからこそ辛くて、他人事ではなくめいっぱい共感してしまい、私も彼らと一緒に物語を旅することができました。素晴らしい俳優さんたちです。

 3時間40分という長い間、この舞台ハリーポッターの世界に浸っていられたあの日は、こうした色々な意味で幸福でした。特殊効果を用いた映画版が世界で大ヒットしたハリーポッターを、人の手で演劇の舞台に上げたこんなにも熱い作品を劇場で観られる日が来るなんて…!ハリーポッターという作品と積み上げてきた年月が、こんな驚きのプレゼントをくれるなんて…!万感の思いでいっぱいです。
 最後になりましたが、作品を通して生命の輝きを見せてくれたすばらしい舞台を作った皆さまに、心からの感謝と尊敬の気持ちを表させてください。素敵な公演を、ほんとうにありがとうございます。また機会があったら、いつか二度目も観られますように。ロングラン応援しています!!


noteをお読みいただき、ありがとうございました。

みちる。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?