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“公平”な税金を。“不公平”な経営を。

 最近、世の中をにぎわせている「10万円の給付金」。このやり方が、公平か不公平かの是非が議論されているようです。
 一方、「採用や評価は公平であるべきだ」と、不公平なことが認められにくくなっているのが、企業経営です。
 公平であるべきか、不公平でもよいのか。考えてみようと思います。

コロナ関連の助成金が引き起こす、モラルハザード

 私が経営する会社は5月決算です。多くの会社と同じく、コロナ禍で受注に影響が出たため、2021年5月期は減益となりました。
 具体的には、営業利益はマイナスで、家賃給付などをふくむ助成金の数百万円があったため、経常利益はぎりぎりでプラス。どうにか赤字決算だけは免れることができました。
 国内では感染が収まりつつあり、後ろ倒しになっていたプロジェクトが動き出したことで、今期はだいぶ取り戻せそうな気配ではありますが、リーマンショックよりもインパクトが大きかったと感じています。

 大きな打撃を被った飲食店、ホテルなど宿泊業、旅行業だけでなく、あらゆる業界に影響を及ぼした今回の騒ぎ。私が気になっているのは、モラルハザードです。

 あるテレビ番組を観ていると、夫婦で喫茶店を営んでいるご主人のインタビューが印象的でした。

「コロナの給付金が結構多くて、お店を営業するより収入がいいんだ。
 だから先日、乗用車を買い替えたんだよ。
 いっそ、コロナがずっと続いてくれるといいんだけど」

 なるほど。給付金が思った以上にもらえるということで、この方は働く意欲がなくなったということか。

 また、これは、ある集まりで知り合った、とある金融機関の法人担当者の話です。企業が無担保・無保証でお金を借りられるようになり、今後のことを懸念しておられました。

「うちの支店では、貸し出し量が、以前の10倍以上になっているんです。
 他の金融機関は、ここぞとばかり、ずいぶん貸し出しを増やしてて。
 貸出先企業の倒産が増えたら、どうなってしまうんでしょうね。
 景気は回復しそうにないし、とんでもない額になると思うんですけど。
 ただ、貸出先が倒産したとしても、ぜんぶ税金で補填してくれるので、
 金融機関の負担はないんですよ(苦笑)」

 世界的な出来事とはいえ、本当に大丈夫なんでしょうか。
 1990年代のバブル崩壊のとき、「大きすぎてつぶせない」と、大企業だけを税金で救おうとしたことがありましたが、当時も「モラルハザード」だと言われて問題になったことがありました。
 今回の騒動も、そんな気がしてなりません。
 税金を投入するときは、やはり「公平」であるべきだと思うのです。

10万円の給付金は公平なのか?

 「クーポンが前提」と言っていた岸田首相も「5万円は現金で残りはクーポン」だとか「全額を現金支給でも構わない」とか、日に日に意見が変わり、混乱を招いているようです。課題は山積していて、

  1. 現金かクーポンか、一括か分割か?

  2. 給付の対象者は、子どもがいる家庭だけでいいのか。困っている家庭は他にもあるのではないか?

  3. 960万円以上の年収を基準にすると、夫婦共働きでそれぞれ年収900万円の世帯はどうなのか?

 すべての意見に、もっともな「理屈」があって、国民全員が納得するような解決策が生まれるとは、とうてい思えません。

 そもそも、母子家庭すべてが貧しいとも限りません。
 貧困で苦しい生活を強いられている家庭がある一方、親が資産家で、手厚い生活支援をしてもらえる方もいるはずです。
 また、年収1000万円でも、子どもはいないが、夫婦両方の親が認知症になって、生活費がかかって困窮する家庭だってあります。
 あるいは、年収400万円の世帯だけど、親が死んで数億円の遺産が入ってくる人もいれば、たまたま宝くじで1億円当選したため、株式投資をして生活費を捻出できる人もいます。
 つまり、政府が本気で「公平」な給付金を出そうとするなら、とてつもない調査コストがかかるということです。

 私の考えでは、税金に「不公平」があってはならないと思います。
 だから、給付金について言えば、

  1. 国民全員に給付する

  2. 一切、給付せず、別の福祉的な政策を打つ

の二択ではないかと思うのです。

ただし、企業経営は「不公平」であるべき

 ところで、会社を経営する立場から言うと、すべて「公平」に扱おうとすると、他社との熾烈な競争に打ち勝つことなどできません。ここでは3つのステークホルダーを取り上げ、お話ししたいと思います。

 まず、お客様を公平に扱ってはいけません。
 極論すると、お客様には「良いお客様」と「悪いお客様」があります。前者は、たくさんの仕事をくれるし、決して値切らない。しかも、支払い条件もよく、今後の売上増も期待できます。後者は、この逆で、年に1度か2度しか仕事をくれない割には、価格にきびしく、今後の売上増も期待できないお客様です。
 企業活動はボランティアではないので、前者には優秀な従業員を担当させ、手厚いサービスで、お客様の期待以上の成果を生み出そうとするのは当然です。つまり、不公平な対応をすべき、ということです。

 次に、従業員を公平に扱ってはいけません。
 これは「自分が社長だったら」と想像すれば、簡単にわかることです。
 同じ時期に採用したA君とBさん。A君は、よく遅刻するし、残業も嫌がるタイプ。もちろん、そのせいで仕事の覚えが悪く、お客様からもクレームが多い。叱ると不貞腐れるので、上司も仕事を依頼したくならない。一方、Bさんは「私で良ければ、お手伝いします」と常に積極的で、残業もいとわない。仕事をどんどん依頼されるので、同期のなかで最も上達が早いし、お客様からの受けもよいので、受注も増えている。
 もし、あなたが、A君とBさんの評価や報酬を公平に扱うような人間なら、決して社長になってはいけません。明確にBさんを抜擢しなければ、Bさんの信用どころか、仕事ができる従業員全員を敵に回すことになるからです。

 最後に、パートナー(協業のための外注)を公平に扱ってはいけません。
 自分の会社にとって、以下のような場合は公平に扱わず、高く評価して大切にすべきです。

  1. このパートナーがいるから、品質が向上する

  2. このパートナーがいるから、受注率が高まる

  3. このパートナーがいるから、クライアントに高い見積りが提示できる

 従業員にとっては、パートナーとの相性やノリなど、人間関係を重視したくなる傾向があります。しかし、大事にすべき基準は、あくまでも、自社の商品力が高まるかどうか。特に、今後も社内で獲得しにくいスキルやノウハウを持つパートナーは、「社会・関係資本」といって重要な財産です。

 言い方は悪いですが、これが結論です。
 「替え」の効くパートナーに対しては、厳しく金額交渉をすべきですが、自社の商品力向上において唯一無二の存在となるパートナーには、できるだけ相手の要求を満たしてあげましょう。

公平な採用って、本当にできるのか?

 ここ数年、こんなメッセージをよく耳にします。

「人材を採用するときは、差別をしてはいけない」

 意訳すると、「採用では公平であるべきだ」という意味でしょうか。
 たしかに、表面上の募集要項には、「年齢制限なし」「男女不問」「学歴不問」と記載している企業がほとんどです。ところが、ふたを開けてみると「エントリーシートを通過したのは、MARCH以上だった」とか「説明会では男女同数だったのに、実際の採用では男子ばかり」「35歳以上では採用されにくい」というのが現実です。つまり、記載内容と現実には、大きなギャップがあります。

 こんなことが起きてしまう理由は、たった一つ。

本来、公平に活動するわけのない企業が、
社会の要請からやむなく、
公平な組織だとアピールしなければならない。
そうしないと、炎上してしまうから(笑)。

 これに尽きます。
 どうせ不公平な結果になるのなら、最初から本音で採用広告を掲載した方が、お互いに面倒が少なくて済むと思うんです。今ではあり得ないですが、「募集条件:容姿端麗な女子、24歳まで」とか明言してた昔のほうが、よほど明確だしムダがないと思うんです。

企業活動は“不公平”であっていい。
だけど、税金は“公平”であるべき。

 これが私の結論でございます。

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