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【出家】愉快な瞑想仲間たち(台湾編)~大いに戒律を破るはめに~

台湾出身の彼女は、本業が尼さんであり、修行のためミャンマーにやって来たとのこと。
尼さん歴はかれこれ30年以上の大ベテラン。そのふくよかな体型と、柔らかい微笑みはまるで仏様そのもの。お肌はつやつやで完全に年齢不詳です。

ある日曜日、恒例のお掃除の時間が終わった後、瞑想ホール前で白湯でも飲みながら一服していると、彼女が袋を持ってきました。中身はなんとちまき!その場にいたマピューとマピューのお友達たちとにわけてくれました。

久しぶりに食す、刺激物ではない食べ物は胃袋にしみました。彼女はこれを一体全体どうやって手に入れたのか?聞いてみると、「作った」とのこと。あの何もない部屋で如何にして?と思ったのですが、「最小限しかしゃべってはいけない」というルールがどうも引っ掛かり、詳しくは聞けませんでした。

外国人尼さん、外国人女性ヨギはお寺の外に出ることを許されていません。また、お寺の中でも、基本的に出歩いて良いのは宿舎・食堂・瞑想ホールの限られた区画のみです。しかし、マピューのようにヨギではあるが、お世話係としての役割がある方たちは時々外界に買い出しに出かけておりました。中国人尼さんとマピューが食材の袋とお金を取引している現場を一度目撃したので、もしかしたら、台湾の彼女もマピューにあれこれ買い出しをお願いしたのかもしれません。調理器具は中国の彼女たちに借りたはず、多分。

彼女のエピソードはこれで終わりません。
ちまきを一緒に食べながら少しずつ話していると、彼女は私が日本人だと知らなかった様子。「こんにちは。わたしははなこです。台湾から来ました。元気ですか」と突然日本語を話し始めました。「え、ほんまに花子?」とツッコんでもボケは返っては来なかったので、コミュニケーションは一方通行の様子。そして、突然立ち上がり何やら日本語の演歌を歌い始めたのでした。それも振り付け付きで。そして歌はかなりの上級者です。「お前に会いたくて~お前だけが~云々」という歌詞を瞑想ホール前で熱唱する彼女。

完全に戒律違反であります。同時にそれを見聞きしてしまっている自分も完全に戒律を犯しております。ラブソングはもってのほか、それ以前に歌や踊りなどの娯楽を行ったり、楽しんだりすること自体が禁じられているのです。

彼女を止めるべきか、止めないべきか、この曲知らないけど、久しぶりの日本語に、そしてこの美声にもう少し浸っていたい、でも自分は出家しに来たんだからやはり止めるべき、いやせめて自分はここから去るべき、、、逡巡しながらマピューに目をやると完全に台湾の彼女にのせられておりました。ノリノリで手拍子しております。歌詞の意味も分からずに。それでええんかマピューとは口には出しませんでした。

優柔不断になっている間に、ルーマニアの彼女が瞑想ホールに戻ってきました。見るからにこの状況に不機嫌な顔の彼女、一度は通り過ぎたもののやはり戻ってきて「だめだよそれ!戒律7に反してるよ!」とドアの向こうから指摘されました。ルーマニアの彼女さすがやわ、、、戒律番号まで覚えとる、と思い、しばらくしてまた舞踊を再開した台湾の彼女の美声と日本語に後ろ髪をひかれながら、私もその場を去ることにしたのでした。

その日、せめてちまきのお礼にといつの日か昼食後に部屋に持って帰ってきたバナナを彼女の部屋のドアに袋に入れてかけておきました。

ここでの生活は、毎日同じ時間に、同じ面子と顔を合わせ、同じことをして、時々まるで女子高時代に戻った気分になります。高校時代と違うのは、瞑想仲間が事前に誰かに伝えるわけでもなく、知らぬ間に修行期間を終え、お寺を去ってしまうこと。

実は、台湾の彼女も舞踊を披露した次の日にマハーシーでの修行を終えて、去ってしまったのでした。後にも前にも彼女とちゃんと話したのはその日のみ。なぜ、彼女が紅白でも聞かないような演歌をしかも振り付け付きで知っていたのか?日本の占領時代に直接日本人に教えられたとは彼女の歳からは考えにくいので、もしかしたらご両親から教わったのかもしれない、、、いずれにしろ真相は謎のまま。

その次の日、案の定私はルーマニアの彼女から呼び出しを食らい、あの状況をどう思っていたのか?と小一時間尋問されたのでした。

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