小説 心筋梗塞(2)

Day2/2022年5月25日(水曜日)

昨夜はちゃんと風呂に入れなかったので、この日の朝に入り直すことにした。

シャワーで体を流し、しばらく風呂につかって、髪を洗おうとシャンプーを手に取ってワシャワシャと両手で数回あたまを揉んだところで、やはり胸痛が起こり、昨夜と同じようにニトロペンを舌下に留置することによって5分くらいでおさまった。

明らかに心不全である。

この日は友人の内科は休診日だったので、明日の朝一番で受診するので、近くの大学附属病院に紹介状を書いてくれないかとメッセージを送ったところ、快く承諾してくれた。

Day3/2022年5月26日(木曜日)

この日は仕事が休みだったので、朝一番で友人の内科を訪れて紹介状をもらい、そのまま大学附属病院へ向かった。

幸い、それほど混んでおらず、受付などを済ませて、30分後くらいには循環器内科の中待合に入れてもらうことができた。
長椅子で待っていると、また胸が痛くなってきて前屈みで待っているところに初診担当の先生が出てこられた。
 

「これからレントゲンと心電図をとりに行ってもらうんですが・・・どうされました? 胸が痛い?」

「はい、ちょっと胸苦しくて呼吸しづらい・・・ですかね」
 

先生は診療室へ戻り、何やら相談している声が聞こえた後に再び出てきて、看護師さんに、僕を処置室へ運ぶように指示した。

検査室まで移動することも、時間がかかることも危ないと判断されたのか、処置室へ移動式の放射線照射機を運んで撮影していただき、そのまま心電図、心臓超音波検査も行われた。

結果、即、カテーテル検査となった。

着てる服はパンツまで看護師さんに脱がされて術衣に着替えさせられたが、恥ずかしいなんて言ってられない。
気になるとすれば、昨夜、今朝と、体をちゃんと洗えなかったことか。

ストレッチャーに乗せられたままPCR検査を受けるため移動し、再び処置室に戻り、そこからあれよあれよという間に手術室のようなところへ運ばれていた。

「いちにっさん!」

掛け声とともに、ドクターと看護師さんたちによってストレッチャーから手術台へ移され、執刀医の先生から話しかけられた。

「これからカテーテル検査をしますので、手首に少し麻酔をします」

(・・・え、局所麻酔なん!?カテーテルって、血管通すアレでしょ!?)
(・・・検査!?これ手術じゃなくて検査なんや!?)

瞬時に様々なことが頭をよぎったが、最終的には、苦しさから解放されるだけでありがたいという気持ちだけだった。

「よろしくお願いします」

カテーテル検査は、手首の細い橈骨動脈から1.5mmほどの細い管を心臓の入り口付近まで通し、そこへ造影剤を流して様々な角度からレントゲンで撮影して、冠動脈の狭窄・閉塞の部位を診断・・・するところまでが、一応「検査」のようだ。

「閉塞してる部位がわかりましたので、このまま処置に移ります」

カテーテル検査によって詰まった部分を把握したら、そこをバルーンで拡げてステントを留置する「処置」が、どうやら手術のようである。
つまり、カテーテル検査と血管拡張術は一連の処置となっているのだ。

1時間ほどだっただろうか。
術後の説明によると、心臓の左の冠動脈が99%閉塞した状態だったらしく危なかったが、処置するのがはやかったので(経過次第だが)心筋の壊疽などはまだ起こっていないであろうとのことだった。

そのまま僕はCCU(集中治療室)へと運ばれ、ここで自由に動くことはできずに一晩を明かさないといけないのだが、これが暇で暇で結構辛かった。
iPhoneを持ち込むこともできず、体勢を変えるのも看護師さんにしてもらわなければならず、食事も次の日の昼までナッシング。

大学附属病院は研修機関なので、若いドクターや看護師さんが術後のケアをしてくれる。
それが嫌なら断ることもできるが、自分自身もそうやって歯科医師として育てていただいたので、若い人たちの未来のために身を捧げる気持ちはある。

あるのだが・・・

なぜかこのCCUで担当してくれた柴田さん(仮名)が僕に対してタメなのだ。
 

「へ〜、そうなんやぁ」
「痛い?」
「ここスマホ持ち込まれへんからねぇ」
 

柴田さん(仮名)は、おそらく20歳すぎくらいだと思われる。

いや、不愉快かと言われると、そうでもないが、これがZ世代なのかと、ある意味感心した。
デビュー当時の宇多田ヒカルにタメ口で話されてるタモさんは、きっとこの時の僕と同じ気持ちだったんじゃなかろうかと思うと、こういうことに腹を立てたりせず、面白がることが広い世代と付き合っていく秘訣だと悟った。

そんな宇多田ヒカルも、最近のインタビューなどを聴くと、見事に大人の女性になっている。
経験が人を育てるのだとわかると、己の器も大きくなるってものだ。
 

そういう僕は、最近TikTokで女子高生が踊ってる動画を毎日見てる。

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