小説 心筋梗塞(1)

Day 1 /2022年5月24日(火曜日)

寝すぎた。

午前の診療を終えて昼飯を食べたら、午後の診療まで昼寝するのが日課になってる。
それにしても1時間は寝過ぎた。
ちょっと寝惚け眼で診療室に出たが、患者さんはまだ来ていなかったので、干していた洗濯物のタオルを畳んでおくことにした。

パンパーン!

パンパーン!

タオルのシワを伸ばしながら7枚くらい畳んだところで、なんとも言えぬ胸苦しさを感じた。

なんやろ、これ。

とりあえず最後まで畳んでしまおうと思ったが、とても立ってられないほどに胸が苦しくなり、その場にうずくまらずにはいられなかった。
なんとか這いつくばったまま診療室まで移動し、スタッフに消え入りそうな声で言った。

「きゅ、救急車、呼んで」

突然のことにスタッフは目を丸くして聞き返した。

「救急車……呼ぶんですか……?」

僕にはパニック発作の既往があったので、その発作が起こったと思ったようだ。

聞き返され、どうしようか迷った。
今のコロナウィルス感染拡大してる世の中的に、受け入れ先病院も少ないかもしれないので、どこかの遠い病院まで連れていかれる可能性もある。
そうなると、家族が来るのが大変だ。
そして、まだこの時は自分の体に起こっている重大な変化に気づいていなかったので、救急車は呼ばずに、とりあえず午後の患者さんは全てキャンセルしてもらって、診療用のチェアを倒して、そこへ横になっておくことにした。

30分ほど横になっていただろうか。
とりあえず症状はおさまった。

少し早めに医院を閉め、同級生が院長の内科へ行って診てもらうことにした。
その頃には、胸苦しさの症状は緩解して落ち着いていた。
心電図をとってもらったのだが、特に異常はないとのことだった。
念のため、友人はニトロペンを処方してくれ、発作が起こったときに舌下へ置くように指示してくれた。

家に帰り、食事をしたあと風呂に入った。

両手を上げて髪を洗っていると、またもや昼間のように胸苦しさを感じた。
胸の中央を鷲掴みにされたような痛みと呼吸困難である。
なんとかシャンプーの泡だけをシャワーで流し、裸のままバスルームから這い出し、キッチンにいる妻を呼んで、バッグのポケットに入ってるニトロペンを出してもらうように頼んだ。

ニトロペンを舌下へ置き、5〜10分くらいすると、なんとか苦しさから解放された。

心臓に何かあると、僕は確信した。



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