見出し画像

幻想小説 幻視世界の天使たち 第4話

「それなら話は早い、モンゴル帝国軍は海を渡っての戦いでは、二回目には十万を超える兵力を持って日本に攻め入ったと言われています。既に火器も持っていたモンゴル軍に比べ、日本は武者が戦いのつど名乗りを上げて、騎馬で戦うという前時代的な戦い方をしていたようです。それなのに二度ともモンゴル軍は博多湾より突如姿を消してしまいました。壮大な戦いのあっけない幕切れについてその理由は良くわかっていないのが不思議でしょう」
「そうですね、ボイドさん。その理由として良く言われているのは突然神風なる暴風が襲って来て高麗の船を沈めてしまったという説で、日本人のお気に入りのようです。また、歴史学者の間では、当時高麗の船隊は停泊の際、複数の船を鎖で繋いでいたので嵐が来て簡単に沈没した、またより現実的な説としては、実際の戦いをしていた高麗の兵士はいやいや戦わされていたので士気も低く、悪天候で早々に引き返してしまったとか、軍船のなかで疫病が発生して兵士が大量に死亡したとか言われているようです。ただし確たることはわかっていないのです。……それで、私にこのモンゴル軍撤退の真の理由を当てろということですか」
ユースフの話をじっと聞いていたボイドはにやりと笑って言った。
「さすがに、研究されていらっしゃいますな。その通り、我々はあなたにはそのモンゴル帝国軍撤退の真の原因を探り当てていただきたいのです。但し今回これは歴史学者ユースフ教授にお願いしているのではなく魔境伝説の二代目チャンピオンであるファルコンにお願いしているのです。今回のゲームは通常とは違い、オフラインで実施します。そしてこれには賞金百万ドルが与えられます。但しモンゴル帝国軍撤退を引き起こした決定的要因について仮説だけではなく、実証して頂くことが必須条件になるのです。良いですか」
ボイドがファルコンという言葉を口にしたとき、ユースフは思わずまた秘書のローラの方を見た。ローラは相変わらずタイプを打っているようであった。
「実証?過去の出来事の実証とはどういうことですか。タイムマシンにでも乗って過去に遡れとでも?」
「いやもちろん、そういうことではなく西暦1274年と1281年に博多湾で、モンゴル帝国軍に起きたと考えられることを再現できれば良いです。実際にそれが事実であったかは問いません。机上の空論でないことが証明できれば良いのです。もし、再現による実証に資金が必要ということであれば、我々が準備しましょう」
ユースフはしばし考えて言った。
「わかりました興味深い提案ですが二つ質問があります」
「なんなりと」とボイドが言った。
「一つ目は時間的問題ですが、それはいつまでにやれば良いのでしょうか。二つ目はこの研究成果を私のものとして公表することは可能でしょうか」
「一つ目の質問への回答ですが、本日から九十日以内です。これはゲームのルールとして厳守してください。そして二つ目の質問への回答ですが、もちろんあなたの研究成果として論文やその他で発表していただいて結構です。但し我々の組織のことは一切伏せてください。そして我々への成果報告がなされてから三年以上あけてから発表されることをお願いします」
ユースフはしばし沈黙していたが、やがて腹を決めたように言った。
「わかりました。ファルコンとしてこの謎解きゲーム、受けて立ちましょう。アルバトロス」
今度はボイドの方が慌てながら言った。
「そのコードネームで呼ぶのはやめてください」
ユースフはにやりとして言った。
「ところで先ほどから我々とおっしゃっていますが何という組織でしたっけ」
「Eゲームの運営会社、コンピューターバード、通称コンバイです。あまり企業名は知られていないですね。それでは後程、今回のゲームのルールの詳細をお知らせします。上首尾をあげられんことを」
ボイドはそう言うと立ち上がり、一礼して研究室から立去った。

その夜、ボイドはウリグシク国際空港のロビーで、細身、金髪の長髪で薄く色の入った眼鏡をかけた男と話をしていた。この男はゲーム会社コンバイで、ボイドと行動を共にするロジャー・マカラムという男だ。今回もファルコンを魔境伝説のオフラインゲームに引き込むためボイドとともにウリグシクに来たのだった。実際にファルコンに会ったのはボイドだが、ロジャーはその間にコンバイが隠している裏の目的に必要な情報の収集を行い、またファルコンの謎解きが不首尾になった時に実行すべき次の計画を準備していた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?