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File.01 ハートのウロコの構造色

微細構造についての妄想をnoteにまとめていく活動を始めました。今回は、その第1回目です。


ポケモン週末レポート

今回は、リモポケ学会さんの企画「ポケモン週末レポート」の2023年12月30日のお題『No.370 ラブカス』で投稿したツイートについて触れます。

ラブカスとハートのウロコの関係

ハートのウロコは、主に野生のラブカスから手に入れることができる「どうぐ」です。その入手方法や落ちている場所、形状などから、ラブカスのウロコなのではないかと言われています。

最近のSwitchのソフト「Newポケモンスナップ」や「スカーレット・バイオレット」では、ポケモンの体表のテクスチャが精細になり、ついにポケモンのウロコまで表現されるようになりました。これらの作品にはラブカスも登場するため、ラブカスのウロコも観察できるようになったのですが、期待通りハート型のウロコを持っていることが確認されました。

スカーレット・バイオレットで撮影したラブカス

※なお、新作では「ラブカスのウロコ」という落とし物が追加され、ハートのウロコは登場しません。あくまで見た目が似ていることがわかったというだけです。

ウロコの色の不思議

さて、ここではハートのウロコはラブカスのウロコであると仮定した場合に生まれる疑問について考えます。それは、ラブカスの体の色はピンク色だけどハートのウロコは虹色である、という点です。
ハートのウロコの説明文は、以下の通り。

きれいなハートの形のとても珍しいウロコ。にじ色にうすく輝く。

ダイヤモンド・パールなど

虹色の細胞

鮮魚コーナーや水族館で魚のウロコが光を反射してキラキラと輝いているのを見たことがあるでしょうか?このようなウロコには、虹色素胞という細胞が含まれています。虹色素胞の中には、グアニンなどの結晶が並んでいます。反射率が高いため、非常に小さな鏡がたくさん並んでいるような状態です。その結晶の大きさが光の波長と同程度の大きさのため、多層膜構造による構造色が発現します。

構造色を発現するような微細な多層構造は、見る角度を変えると色が徐々に変わるので、虹色のように見えます。また、各層の厚さや間隔が変わると反射する色も変わってくるので、同じ虹色素胞であっても魚によって色味が違うのです。

このような魚のウロコが持つ特徴から、おそらくハートのウロコにも虹色素胞が含まれていて、虹色に輝いて見えていると考えられます。では、ラブカスの綺麗なピンク色は、どこに行ってしまったのでしょうか…?

魚の色を決める色素細胞

魚の色は色素胞によって決まります。黒色素胞、赤色素胞、黄色素胞、青色素胞といった色素胞は、それぞれの色素が詰まった色素顆粒という袋を持っています。この色素によって体表の色が決まるわけです。[1]。

これら色素細胞は、主にウロコの表側の皮膚の中にあります。これに対して、虹色素胞は鱗の裏面にあることが多いです(虹色素胞は反射率が高いため、ウロコの裏側にあることで皮膚の色を際立たせる役割もあるようです)。したがって、ウロコが剥がれる時に、色素細胞はウロコから剥がれやすく、虹色素胞はウロコに残りやすいと考えられます。

これより、ハートのウロコは、ラブカスから剥がれた時に虹色素胞だけが残り、虹色に見えているのではないか?
と考えることができそうです。

この記事の内容は、あくまで私の仮説です。今後、更新されたり覆されたりするかもしれません。魚や鱗にお詳しい方のご意見も伺いたいところです。

【追記】(2024/02/10)

虹色素胞の構造色を説明する”わかりやすい図”を追加しました。
その関係で、代表例として紹介していたネオンテトラの話を取り下げました。ネオンテトラの虹色素胞は「ネオンテトラ型」とも称されるくらい特殊な事例なので、かえってわかりにくいなと思ったためです。

本文でもお話したように、キラキラと輝くウロコの中には、構造色を発現するような微細な結晶が含まれています。ネオンテトラは、なんとこの結晶の間隔を変えることで色を調整することができるのです。この特技によって、同じ方向から観察していても赤くなったり青くなったりします。他にも、ルリスズメダイなどの魚が同様の特技を持っています。[1]
この特徴はとてもおもしろいので、色が変わる魚ポケモンが登場したら是非また取り上げたいと思っています。

参考文献

[1] 大島,魚類の体色変化と個体間のコミュニケーション,生物工学会誌,88(4),2010
[2] 田畑他,鱗の博物誌,グラフィック社,2020,pp.9-12
[3] 大森,金魚いろ×かたち謎解き図鑑,化学同人,2022,p.28 等

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