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タノタイガ「サクラサカズ」(5日目)

今日は河津桜を見に行く日です。

息子の支度が終わるのを赤燈の縁側で煙草をふかしながら待っていると、向かいのお宅でご主人がなにやら作業をしています。玄関先でモクモクと湯気が上がっているのが見えます。ここに来てから会釈程度はしていたのですが、これまで言葉を交わしたことはありませんでした。

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近づいて見てみると、七輪の上にヤカンが乗っていて、ヤカンの口には竹がガムテープで取り付けられています。「なにされてるんですか?」と尋ねると、「吊るし雛の輪っか」を作っているとのこと。

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齢82歳のシゲルさんは歳不相応に足腰もしっかりとしたご老人。昔はサシモノの職人、今は培ったその技術を生かして吊るし雛の輪っかを頼まれて作る、稲取ではたぶん唯一の職人だそうです。そのほかにも山歩きで拾ってきた倒木などから彫刻をつくっているそうで、家の前に立てられている三畳ほどの作業小屋を見せてくれました。作業小屋の中には所せましと自作の木彫や職人道具が仕舞われています。

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僕もシゲルさんと同じ西日暮里界隈に住んでいたことや、僕も木彫家の端くれとして、道具の話や木の扱いなど話が盛り上がってしまい、30分以上も立ち話。その昔、地元の新聞に載った記事や、自分が東京で丁稚奉公をしながら取った認定証を「これを見せればどこでも仕事ができた」と、たいそう自慢げに見せてくれました。

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かなり時間をとられてしまいましたが、急いで子どもを連れ出すと、庭先でシゲルさんは自作の桜の耳掻きをプレゼントしてくれました。側面には「茂 60歳」と筆書きされていることから、制作したのはおよそ20年前。作品に作った年代よりも、自分の年齢を書き記すのは粋だなぁと感じました。
コロナ禍で積極的な人との交流を避けて過ごしてきましたが、もっと早く、滞在当初から関わることができてたなら色々面白いできごとがあったかもな、と悔やまれます。

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車を飛ばしていざ河津桜へ、と走っていたのですが、道中いくつも気になるビーチや海岸があると立ち寄ってしまい、息子もその度に海遊びが始まってしまい、なかなか先に進みません。

けれども、全くひとけのない貸し切り状態だったり、岩場で岩のりを収穫してるお嬢さんがいたり、サーフィンを楽しむ人たちがいたり、それぞれのビーチの風景を楽しむことができました。どこの海岸で見る海も透明度が高く、ブルーの色も違います。

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ようやくお昼過ぎに河津についたものの、ものの見事に1分咲き。稲取に着いた当日の前情報では2〜3分咲きとのことだったので、あえて今日まで待ったのですが河津桜風情を楽しむことができませんでした。

息子も口では残念そうなことを言っていましたが、花より団子。桜色のソフトクリームを頬張れて満足している様子でした。

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それはそうと、桜の咲いていない川沿いをたくさんの観光客がただただ歩いている風景が逆に面白くなってきました。自分も含め、何が楽しくて歩いているんだろう?どれだけの人が、この不毛な時間を、どう自分を納得させ歩いているんだろう?何かで見たはずの満開の桜の美しい景色がこの先には絶対にないとわかっていても、ただ延々と歩いてしまっている。

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ようやく一本見つけた七分咲きの桜の木を撮ろうにも、看板が邪魔をします。

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この旅での河津桜はあきらめて、近くの「噴湯」を見ていくことにしました。30分間隔で吹き上げる100℃のお湯は上空で一気に冷やされ、冷水の雨となって下で見物している僕らに降り注ぎます。地下から汲み上げた温泉は公園内のタンクに貯められて、町の温泉へと流されているのですが、観光客のために意図的に噴き上げる姿を見せるようにしているそうです。小さな公園ですが、足湯に浸かったり、温泉卵を作って食べたりのんびりと過ごしました。

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今夜は稲取のホストとMAWアーティストで会食をする予定だったのですが、まだかなり時間があったので当てもなく下田まで南下してみることに。途中(また)ビーチに寄ったり、小腹が空いたのでお寿司を食べたりしながら車で流していたのですが、僕のGoogleマップ上に気になる場所として保存してあった金谷旅館の「千人風呂」へ行ってみることにしました。

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下田の街を北上した先にある河内温泉にある金谷旅館は150年の歴史を持つ旅館。入湯してみて気がついた(思い出した)のですが、うれしはずかし混浴温泉です。さすがに千人は無理な湯船ですが、女湯からは扉を開けて男湯の湯船へと入ることができ、子連れの奥さん、妙齢のカップル、怪しい男3女1のグループ、ギラギラした目つきの男性たちなどがすでに入浴していました。湯船の半分は深さ1mほどの立ち湯。僕も息子もそれぞれスリルを楽しみながら入っていました。古風な館内のちょっとした絵画や彫刻は結構いいセンスのものが飾られていたのでいつか宿泊してみたいです。

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風呂を上がって旅館の休憩室で一服するとそろそろいい時間。稲取までは約2時間弱の道のりです。車のチャイルドシートに座った息子はあっけなく瞼を閉じました。

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