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タノタイガ「 」(7日目)

昨晩の雨は朝まで続いています。寝室の壁の向こうのトタンに叩きつける雨音で眠れないかと思いましたが、いつしか眠っていました。外はまだシトシトと降っていますがお昼頃には晴れ上がる予報です。

ダブルベッドの僕の横で捻れた身体で眠っている息子をそのままに、今のうちに朝食や着替えの準備をしておきながら帰り支度を始めます。この1週間全くグズることもなく良く付き合ってくれました。もともと旅慣れてはいますが久しぶりの二人旅ということもあって、僕が仕事をしていて構ってあげることができないあいだや、日常と違った環境に寂しがったりするのではないかと少し不安もありましたが、日常のルーティーンをこなしながら、拾ってきた流木や貝殻を見立てて遊んだり、縁側やリビングを走り回ったり、絵日記やペインティングなど新しいことに集中したりするなど、自分の時間を過ごしてくれていました。また、滞在がホテルと違い、リノベーションした古い一軒家だったで、自炊や広々としたリビングでの過ごしかたなど日常を持ち込めたことも良かったのかもしれません。

ところで昨晩、入浴のときに気がついたことがありました。建て付けがいまいち悪く開閉しにくい浴室の扉が、ちょうど僕が息子と同じ年頃に父親が設計し建てた実家の浴室の扉と全く同じものだということ。入居初日にすりガラスの不思議な模様に、なんか見覚えあるなとは感じてはいたのですが、子供の頃毎日お湯につかりながらぼうっと眺めていた扉の内鍵の形状が、逆さまにした人の横顔に見えていた記憶が蘇りました。数年前に実家は取り壊してしまいましたが、数十年のあいだに三回取り替えた風呂場の扉の一代目だったのです。兄弟がいるので父親と二人で入ることは滅多になかったけれど、息子と深いステンレス製の浴槽に浸かりながら、父親がそうしてくれたように湯船のお湯を片手で掬って、息子の顔を洗ってあげました。

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赤燈の片付けを終えて荷物をすべて車に積み込んだあと、宿から十数メートルの山長水産にキンメの煮付けを買いに行きました。小さな商店ですが、ホストの荒武さんお墨付きの金目鯛の味噌漬はふるさと納税の返礼品にもなっていて、店前を通るときにはいつもお客さんが出入りしていました。稲取滞在中、キンメを甘く炊いた煮付けや塩焼き、刺身などはいただきましたが、味噌焼きは帰ってからお楽しみです。

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キンメを物色しているうちにお腹がすいてしまったので、近くの「なぶらとと」で最後の金目御前を頂きました。「なぶら」とは稲取地方の方言で「群れ」や「集まる」という意味で、水揚げがないと開店しないお店らしく、朝一で入った僕らは待たずに最後のテーブルにつけましたが、外には行列ができていました。吊し雛の資料館が併設されていますが、コロナの影響で現在は閉館しているようです。

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お腹を満たし、港にある稲取漁港直売所「こらっしぇ」で息子が大好物になってしまった稲取うどんを買いに立ち寄ると、朝市帰りのお客さんで賑わっていました。ここではその日水揚げされたキンメ、イカ、などの鮮魚のほか、海苔や地元野菜なども販売しています。鮮魚は下処理までしてくれるそうですが、今回の滞在では何かと慌ただしく思いのほか自炊できず、利用する機会がなかったのは心残りです。

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すっかり雨も上がり青空が広がってきたので、一縷の望みをかけて素戔嗚神社へ雛壇飾りを見に行ってみましたが、先ほどまで降り続いた雨の影響で本日は中止。神社へ向かう急勾配の石段118に雛飾りと吊し雛が並ぶ日本一の雛壇飾りだそうですが、今回は天気に恵まれませんでした。

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叶わなかったいくつかのことに後ろ髪を引かれながら稲取を発ち、帰りのルートは山側を通って東京を目指します。再び河津を通過するので車窓から桜並木を眺めると、数日前より多少開花していて3〜4分咲きといったところでしょうか。今週末から来週末にかけては見頃になることでしょう。

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段々畑のわさび畑を見ながら天城越えをし、浄蓮の滝に立ち寄ったりサービスエリアで休憩をしながら、渋滞もなく4時間ほどで無事東京の自宅にもどりました。

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珍しく4時間の車移動のあいだ一睡もしなかった息子は、草臥れた椿の花をたいそう大事に持ちながら、足早に車を降りていきました。

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