【論文紹介】最近の炎症性腸疾患研究5

1.論文

タイトル:Gut-microbiota-targeted diets modulate human immune status.

著者・雑誌名:Wastyk HC, Fragiadakis GK, Perelman D, Dahan D, Merrill BD, Yu FB, Topf M, Gonzalez CG, Van Treuren W, Han S, Robinson JL, Elias JE, Sonnenburg ED, Gardner CD, Sonnenburg JL.
Cell. 2021 Aug 5;184(16):4137-4153.e14. doi: 10.1016/j.cell.2021.06.019. Epub 2021 Jul 12. PMID: 34256014

2.概要

 腸内細菌叢に良い影響を与えるとされる
・食物繊維
・発酵食品
 について、各群 18 名を対象に17週間の前向き調査を行っています。食物繊維は腸内細菌叢の多様性に大きな変化は無いものの、微生物がコードするCAZymes を増加させました。一方、発酵食品は細菌叢の多様性が増加し炎症マーカーが減少した。

3.この論文から思う事

 細かい指標はおいておくとして、食物繊維や発酵食品が腸内細菌叢に与える影響を前向きに検討したことは非常に面白い検討です。さらに、食物繊維は多様性ではなく、腸内細菌叢の機能に影響を与えることが本検討では示唆されました。
 日本人は、世界的にも類を見ないほど1回の食事で複数の発酵食品を摂っています。例えば、和食で考えた場合には、お味噌汁(味噌+鰹節)だけで2種類摂取しています。醤油をかければ+1、麹に漬けたお肉やお魚を頂けばさらに増えていきます。
 日本人の腸内細菌叢はやや特殊であることが分かっていますが、その理由の1つとしてこの論文は非常に面白い傍証を与えています。
 炎症性腸疾患では、腸内細菌叢の多様性が低下している事も指摘されており、寛解していても暴飲暴食を控え、安定した食事を続ける事が重要です。油の多い食事や不規則な食生活は腸内細菌叢の多様性を低下させ、全身の炎症シグナルを活性化させてしまう事も分かっていますので、コロナ禍の今だからこそ、自炊に凝ってみるのも良いのではないでしょうか。

4.別件で

 先日、ワクチンのお話を致しました。色々なご反応を頂き、本当にありがとうございます。
 私自身は、別に真新しいことを伝えているわけではありません。実は、鎌倉時代の名僧である親鸞は下記のようなことを伝えています。

煩悩具足の身なればとて、こころにまかせて、身にもすまじきことをもゆるし、口にもいふまじきことをもゆるし、こころにもおもふまじきことをもゆるして、いかにもこころのままにてあるべしと申しあうて候ふらんこそ、かへすがへす不便におぼえ候へ。酔ひもさめぬさきに、なほ酒をすすめ、毒も消えやらぬに、いよいよ毒をすすめんがごとし。薬あり毒を好めと候ふらんことは、あるべくも候はずとぞおぼえ候ふ。(「親鸞聖人御消息」第二通、註釈版739頁)

 私自身、この言葉は十数年前に患者さんから教えて頂きました。
 要は『薬があるのだから毒を飲めというのは道理に合わない』という話です。何事でもそうですが、治療できるのだから危険なことを敢えて行う必要はありません。
 現代医学は、絶対という術を持ちません。何事もリスクを減らすことは出来ますが、絶対に大丈夫という世界ではないのです。リスクを過剰に評価すべきではありませんが、雰囲気や世間、政治のせいにして好き勝手動いても辛い思いをするのはご自身であることを周囲とご共有頂ければと思います。

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