【各論】IBDと検査~汎用される検査項目~ 1(血清酵素)

 こんばんは、そふぁーです。最近はそふぁーたんでもあります。
 さて、今回は疑問をお持ちの方がいましたので、簡易ではありますが検査に関する項目を書いていきます。
 ただし、検査の大前提として
・正常値というのは一般人の集団で導き出された”だいたいの数値”で、個々人の判断は主治医が最も信頼できる
 という事をご理解の上で読んでください。

1.血清酵素

 1-1.AST, ALT

 この2種類の酵素は、一般的に肝臓に関する検査です、と説明されやすいものです。しかし、基本的には色々な細胞内に存在する酵素であり、細胞が破壊されたときに血液中に出てきます。
 一般論として、AST、ALT はペアで検査します。
<ポイント>
・AST、ALT の比に注意する
・ALT は肝臓に比較的特異的なので、AST/ALT が1以下の場合は、おおよそ肝臓の異常であると考えます。
<数値>
10 以下:透析ないしは長期臥床
基準値:施設ごとに違います
35-100:(肝臓)脂肪肝、慢性肝炎、肝硬変 (肝以外)溶血、心筋or骨格筋の破壊
100-500:急性肝炎、慢性肝炎、自己免疫性肝炎、NASH、肝がん
500以上:急性肝炎ないしは劇症肝炎
<IBDとの関連>
 薬剤性肝障害や合併症の早期発見のため、定期的に測定する

 1-2.LDH(乳酸脱水素酵素)

 LDH は細胞内で糖をエネルギーに変えてくれる酵素です。従って、ほぼすべての細胞が持っています。しかし、特に動く細胞(心臓、肝臓、骨格筋、膵臓、肺、赤血球、腎臓など)は多く抱えています。
 従って LDH の上昇により、どの臓器が障害されたかを判断する事は難しく、他の血液検査との組み合わせで見ていきます。わずかな上昇の場合は、採血後の取り扱いで溶血している可能性も考慮します。
 例えば、肝疾患であれば ALT, AST が共に上昇する等、補助的な判断に利用します。注意すべきは LDH が単独で上昇(350以上)している場合で、専門医による精査が必要になります。
<ポイント>
・わずかな上昇では AST, K, など赤血球由来の検査値が軽度上昇
・肝なら AST, ALT を、心筋や骨格筋なら CK, AST を併せて判断
<IBDとの関連>
 薬剤性肝障害や合併症の早期発見のため、定期的に測定する

 1-3.ALP(アルカリホスファターゼ)

 ALP はアルカリ性の環境でリン酸塩(ホスフェート)を加水分解(-ase)する酵素です。なので、単純に読むと”ほすふぇーとあーぜ”ですが、phosphate + ase だと e が邪魔なので phosphatase になります。
 基本的には肝臓、胆道系の酵素として知られていますが、小腸や骨にも含まれています。ただ、臨床的には胆汁うっ滞といって胆汁の分泌が邪魔されているかどうかを判断するのに有効です。
<ポイント>
・ALP 高値だけでは原因となる疾患の判断は難しい
・小児では骨形成が盛んなため高値になりやすい
・妊娠後期には高値になりやすい
・高脂肪食により小腸が障害されると上がりやすい
<IBDとの関連>
 ALPは6種類のアイソザイム(似ているが、存在する部位で少しだけ違う)が存在します。このうち免疫グロブリン結合型である ALP6 は潰瘍性大腸炎(UC)で上昇しやすいと言われています。従って私は、比較的自身の ALP は細かく見ます。ただし、毎回アイソザイムなど測る意味は無いので、通常の ALP が上昇している場合は休養を多めに取ります。

 1-4.γ-GTP

 最近はγ-GT という方が正しいそうですが、まだまだ GTP 標記も多いと思いますので、旧来で参ります。これは、グルタチオンなどを加水分解し、他の場所へ γ-グルタミル基 を転移させる酵素です。血中の γ-GTP は殆どが肝細胞の毛細胆管膜や胆管上皮で作られたものですので、肝胆道系疾患のスクリーニングとして汎用されます。
<ポイント>
・慢性肝炎、脂肪肝ではγ-GTP は軽度上昇
・ALP, AST, ALT が正常である場合は、アルコールあるいは医薬品などによる異常が考えられます。ただし、アルコールを常飲している場合は AST 優位
・AST, ALT の上昇に比較して γ-GTP の上昇が軽度の場合は、肝細胞の障害がメイン
<数値>
基準値未満:妊娠経口避妊薬の可能性
40-100:持続性の肝炎、肝硬変、脂肪肝、糖尿病
100-400:慢性活動性肝炎、胆汁うっ滞、ASH、肝細胞がん
500以上:転移性肝がん、肝内胆管がん、膵がん、総胆管結石、ASH、胆汁うっ滞
<IBDとの関連>
 薬剤性肝障害や合併症の早期発見のため、定期的に測定する

 1-5.ChE(コリンエステラーゼ)

 肝細胞で作られる酵素で、肝臓がどの程度働いているのかが分かります。恐らく、この説明だと薬剤師さんや薬理、生化学関連に怒られると思いますが、ざっくりした理解はこれで良いです。
 実際には、コリンエステラーゼと言ってもアセチルコリンとブチルコリンのエステラーゼに分かれますが、臨床的に用いるのは非特異的なブチルコリンエステラーゼです。
<ポイント>
・ChE は栄養状態も反映する
・ChE 単独の低下で、肝予備能は少ないと判断する事は不可
・Alb, PT など肝の合成能の複合的に判断
・急激な上昇は専門医へ(ネフローゼ症候群の可能性)
・ChE が低下している場合、状態も鑑み有機リン酸系の中毒も考慮
<IBDとの関連>
 薬剤性肝障害や合併症の早期発見のため、検査する場合がある。また、栄養状態の判定にも用いられる場合がある。

 1-6.CK(クレアチニンキナーゼ)

 CK は ATP という体のエネルギー源として最も重要なものを作る酵素です。そのため、筋肉や脳に多く含まれています。一般的にはざっくりと検査しますが、3種類のサブユニットからなるアイソザイムがあり、骨格筋はMMが10割、脳はBBが10割、心臓は MM:MB = 4:1 です。
<ポイント>
・通常みているのはほぼMM
・男性>女性
・入院中、活動量が低下するため注意
小児の場合、拒絶時に暴れるだけでも上昇する
<IBDとの関連>
 合併症や治療薬の副作用に横紋筋融解症などが疑われる場合には検査が必要となります。

 その他にアミラーゼという膵臓に関わる酵素があるのですが、これは腸管外合併症として比率の多い膵炎に非常に強く関わるので、そちらの項で説明します。

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