【各論】情操教育上問題のある話題

 この note を読むときは以下のことに注意してください。

・内容には、未成年者の情操教育上不適切な内容が含まれます
・IBD の罹患により、パートナーとの営みが不可能になるわけではありません
・性的な欲求を持つことは健全な心の発露ですが、適切なコントロールと人権意識の下で、適法に合意形成を行うことが必要です

 今回は、今までとは異なり、全年齢対象となる話題ではありません。IBD に関わる夫婦関係の問題や、痔瘻と性機能に関する問題、受診時の配慮や思春期の問題にも触れます。
 ここで読んだ内容を鵜呑みにするのではなく、ご家族であれば主治医や執刀医と十分に話し合う事が重要です。患者さん本人であれば、様々な合意形成に至る過程で今までも苦痛を味わう事があったかもしれません。それらを想起させる文章も含まれるため、精神的に疲れがある場合は読むことを推奨しません
 以上を踏まえ、あくまでも参考程度に留めることに十分な理解を頂いた上で読み進めてください。

1.IBD と性的幸福度に関する話題

 炎症性腸疾患は、活動期には日常生活を送ることにも支障がでる場合がある一方、寛解期には健常者と大きく変わらない生活を送ることも可能であるという点で、いわゆる難病の中でも振り幅が大きい疾患の1つです。
 本邦における調査では、IBD 患者のうち男女ともに”性的欲求の満足”を求める割合が 30-50% 程度ある一方で、体調不良時には性的欲求が減退していることも示されています【1】。この調査でも明らかですが、男性では性的欲求の満足に比較的回答が多く、女性では性的幸福に精神的な充足や相手との絆に重点を置く回答が見られます。IBD 患者であっても性的幸福に対する性差があることを、よく認識すべきではないでしょうか。
 また、諸外国の報告のうち、デンマークで行われた大規模な調査(9万人対象、そのうちIBDは600名程度)では、UC の女性で性機能の低下は観察されなかったものの、CD の女性では性行痛の悪化やオーガズムの達成困難が健常者に比べて有意に多いことが確認されています【2】。
 特に CD では、後述するような痔瘻など器質的(体の機械的な機能のこと)な問題を含む点で注意が必要となるでしょう。パートナーやご自身が置かれる立場について適切に理解し、医療-患者-性的パートナーとの互助が重要です。

2.IBD による性機能低下と苦痛

 IBD に関する性機能低下で患者さんへの説明があるのは、ストーマに関する部分が多いのではないかと考えます【3】。しかし、実際には IBD の罹患だけでも性機能低下が可能性が指摘されています【4】。特に IBD では精神疾患の併発が伴うことも有り、それらが性機能低下や性的幸福度を低下させることも指摘されています【4】。
 さらに、IBD 患者さんのうち、男性の場合は性機能低下が、精神疾患のリスクを上昇させることも報告されています【5】。女性の場合は、妊娠を忌避する傾向もあり、男女ともに十分なケアが必要であることは疑いの余地がありません【6】。

3.痔瘻に伴う問題

 IBD のうち、CD は高頻度に痔瘻を形成することが知られています。男性であれば尿道瘻、女性であれば膣瘻孔の形成を伴う事があり、十分な配慮が必要です。
 CD に伴う肛門病変は、通常の診察のみではなく、必要に応じて麻酔下で行う examination under anesthesia (EUA) を併用し、cavitating ulcer や edematous pile などの典型病変を確認することがあります【7】。当然、患者さんにとって大きな負担であり、受診忌避が決して甘えではないことを明記したいと思います。
 また、続発性難治性痔瘻では、広がりや病変部位の評価を行うために注腸造影や内視鏡、MRIやCTなど様々な手法を活用します【8】。痔瘻は seton 法⇒バイオの流れ【9】(メトロニダゾールやチオプリン、免疫抑制剤の併用もある)が一般的ですが、そこに伴う話は比較的少ないように思います。
 例えば膣瘻孔の場合、瘻孔からガスや便が流れるなど衛生的にも精神的にも非常に大きな苦痛を味わう事があります。肛門機能を温存するためにも、外科術は seton 法を採用する施設が多いと思いますが、それにも滲出液に伴う臭いや異物感、処置に伴う疼痛など患者さんの負担が大きいことを話す機会が少ないのは問題かもしれません。
 しかし、IBD では一貫して申し上げてきた通り、定期的な受診と処置は非常に重要です。seton 法も、処置が遅れることで苦痛が増したり、別の瘻孔が発生する事もあります。
 苦痛が多い部分もありますが、現状残念ながら、痔瘻に対して排便機能と性機能を温存するためには外科術が唯一に近い選択肢であることも知っていてください【10】

4.性の問題と向き合う(私見)

 この項は私見です。参考ではなく、あくまで一意見として読んでください。
 まず、健常者に比べ IBD では性機能が低下しやすいことは上記によってご理解頂けたかと思います。性の問題はデリケートであることに加え、昨今のハラスメントに関する問題から医療従事者から患者さんに話題を振ることは困難です。従って、患者側から話を伝えねばなりませんが、羞恥心などによって難しいという方も多いと思います。
 ただ、1点だけ申し上げると、性行為も所詮は生物学の中の一分野に過ぎないのです。好きという感情も、性的欲求も、所詮は各種生理的機能の1つにすぎません。
 例えば、男性の勃起は泌尿器科専門医のほうが詳しいでしょうが、グアニル酸サイクラーゼの活性化による一酸化窒素の増加が血管拡張を招き、海綿体が膨張するという血管イベントに過ぎません。女性の性分泌腺も同様です。妊娠、出産、性行為その他諸々を神聖視させる旧来からの風潮を否定しようとは思いませんが、余りに非科学的であり、IBD の QOL 低下の要因になっているのではないかとすら思います。
 性に関する知識を得ることは重要で、特に IBD では各個人にあった工夫を医療側とすり合わせることも必要でしょう。ただ、現状、IBD専門医は男性のほうが多いため、女性は女性看護師の同席を求める事も良い選択肢です。
 ここからは親御さん向けですが、男児・女児共に性的な羞恥心は非常に幼若な頃から持ち合わせていることが様々な研究で分かっています。従って IBD に伴う臀部や腹部の診察の際は、十分な配慮が必要です。また、性器付近を露出せざるを得ない場合には、退出するのが適正ではないでしょうか。本人の意向を確認するかは難しい判断なので、今回は言及しません。
 ただし、女児の場合は医療に対する不安もあると思いますので、処置の前に親御さんの退出と代わって看護師の同席を求めるなど自衛が必要になるかもしれません。
 性教育についてはいろいろ申し上げたいことが多いのですが、時間の都合上割愛します。ただし、抑圧が良い結果を招かないことだけは予め申し上げておきたいと思います。

参考文献

【1】Miki Y. et al. J. Jpn. Acad. Nurs. Sci. 2018
【2】Nohr EA. et al. J Crohns Colitis. 2020
【3】高波真佐治,三木佳子. ストーマリハビリテーション講習会実行委員会(編), ストーマリハビリテーション基礎と実際(第 3 版), 金原出版. 2016
【4】Roseira J. et al. Inflamm Bowel Dis. 2020
【5】Hammami MB, Mahadevan U. Am J Gastroenterol. 2020
【6】Leenhardt R. et al. World J Gastroenterol. 2019
【7】H23年度渡辺班. 厚労省
【8】小金井ら. 内科医にもわかる直腸肛門病変. 日本メディカルセンター. 2009
【9】Uchino M. et al. W J Gastroenterol. 2011
【10】Hull TC. et al. Dis Colon Rectum. 2011

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