【論文紹介】IBD論文を読もう 9/2

 お久しぶりです。最近ご紹介できていなかったので、少し論文について触れていこうかと思います。

 実は最近良い論文が非常に多く出ており、その中でも気になった

Rate of Reoperation Decreased Significantly After Year 2002 in Patients With Crohn's Disease
Shinagata T et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2020
PMID:31336198

 について、少しご紹介しようと思います。

1.概要

 この論文では、日本におけるクローン病(CD)患者の再手術率が、時代とともにどう変化したのかを解析しています。具体的には 1982年以降に行われた1871例を対象としています。
 結論としては、2002年以降、CD患者の再手術率は低下しているという事が示されました。これまでに、CDの術後に抗TNFa抗体製剤を使用することで、術後の再燃率が低下することが報告される【1】など、この結果を支える研究成果は数多く存在します。

2.方法

 本邦における専門施設10施設を対象に1982年5月以降に腸管切除術を施行されたCD患者 1871 例を対象都市、後方視的に解析を行った。詳細については、論文本文中の Data Management参照

3.結果

 全体での
5年再手術率⇒23.4%
10年再手術率⇒48.0%
 でしたが、2002年5月以降に初回手術を受けた患者は、それ以前に比べて再手術率は有意に低くなっています(HR : 0.72, 95%CI : 0.61-0.86)。
 また、術前のリスク因子として
喫煙歴
・肛門病変有
・小腸大腸型
 が挙がり、リスクを減少させる因子としては
・免疫調節薬の使用
・抗TNFα抗体製剤の使用
 が検出されています。喫煙がリスク因子であることは複数の報告で指摘されており【2】、免疫調節薬がリスク低下させることも知られています【3】。

4.結論

 つまり、本邦におけるCD再手術率は低下していることが明らかとなりました。また、術後に抗TNFα抗体製剤を使用することは、再手術リスクを低下させる可能性も示されています。

5.注意点

 この研究は、ある時点から時間軸を後ろ向きにみた研究になります。従って、現在の再手術率低下を数値化することは出来ません。あくまで、過去よりも2002年以降は良い成績だという事を示すのみです。
 さらに抗TNFα抗体製剤が強くフォーカスを当てられていますが、他のバイオ製剤について十分な情報を得ることが難しい(保険適用が最近のため症例数が集まらない)、内視鏡的拡張術の有無などある程度の侵襲について評価ができない、ステロイド使用のタイミングと累積投与量の解析が無いなど限界点は色々とあります。
 さらに言うと、術後管理が時代とともに良くなっている部分もあるので、一概に抗TNFα抗体製剤とチオプリンを信じてよいわけではありません。ただ、効いている感じが少ないといわれるチオプリン製剤等について、長期的に良いことがあるというのは感じてよいかと思います。

参考文献

【1】De Cruz P et al. Lancet. 2015.
【2】Yamamoto T. Keighley M.R. Br J Surg. 2000.
【3】D'Haens, G et al. Gastroenterology. 1997.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?