【番外編】IBD 最近のトレンド-3-

遅くなりました。先日の講演会を聞き、所感も含めて記載していきます。

1.COVID-19 に関連する話題

 SECURE-IBD registry の結果がある程度でたため【1】、その解析結果をご紹介します。基本的には、IBD により COVID-19 による死亡率が上昇するという傾向は、現在のところ見られていません。
 これについては、以下のような事が考えられると論文内で指摘されています。
・IBD 罹患者は比較的若年者であるため、COVID-19 の増悪因子である疾患(糖尿病、心血管イベント、肺疾患など)に罹患していない【2】
・抗TNFα抗体製剤の使用により、サイトカインストームが起きにくい(仮説かつ、現在抗TNFα抗体製剤が COVID-19 に有効であるという報告はない。基本は感染症を悪化させる可能性が高い。あくまで、仮説であるということに注意
 ほかにも、いくつかのワクチンが有効であったのではという考察もされているようですが、現状では有力な根拠がありません。いずれにせよ、現状では IBD により COVID-19 死亡率が上昇するということは少ないと考えてよいと思われます(ただし、ステロイド使用中はハイリスクであることが他文献で報告済み)

2.T2T の推奨

 Treat to Target (T2T) は、他の疾患では既に使用されている概念です。
 要は『わかりやすい治療目標を患者と共有すると、治療効果が上がりやすい』という考え方です。概念化される前から、ある程度実践している方は多いと思うのですが、やはりポイントは”分かりやすい目標”という点だと思われます。
 IBD でも T2T を利用することが推奨されつつあります【3】。実際、数年前から Selecting Therapeutic Targets in Inflammatory Bowel Disease(STRIDE)プログラムという国際的な試みが始まり、治療-指標を関連付ける事で、だれが見ても分かりやすい経過を追おうとしています。CRPや便カルプロテクチンなど様々な指標が候補として挙がっています【4】。

3.CD に対する抗 TNFa 抗体製剤の使用、増量タイミング

 クローン病(CD)は潰瘍性大腸炎(UC)に比べて、抗 TNFa 抗体製剤が奏功しやすいことは、以前にもお話したかと思います。ポイントは”いつ使うか”なのですが、今までいくつか議論がありました。
 有名なのは、REACT試験だと思いますが、CDの早期に抗 TNFa 抗体製剤+チオプリン製剤を使用してもメリットは少ないことが示されました【5】。この試験で問題となったのは、病型や重症度を考えずに早期から免疫を抑制することが良いとは思えなかった点です。
 そこで、条件を厳密(ステロイド依存、バイオ歴無のCD患者など)に設定した場合、抗 TNFa 抗体製剤をどのように使うと良いか検討が行われました【6】。結果は”臨床症状+バイオマーカーを利用して増量すべき”でした。さらに最近の知見では、中程度-重症の CD 患者は、早期にアダリムマブを使うべき【7】という報告もあります(が、利益相反が絡む報告なので、基本的には抗 TNFa 抗体製剤であれば、アダリムマブでなくとも良いのではないかと思います)。

4.なぜ T2T とバイオマーカーがセットで語られるのか

 これは、患者さんにとってバイオマーカーが非常にわかりやすい指標であるという事が挙げられます。医療従事者にとって指標とは、画像や圧痛の有無、バイオマーカーなど様々で、複合的に判断すべきと考えると思います。
 しかし、患者さんがそれを出来るようになるかと言えば否です。やはり、HbA1c のように前日頑張った程度では変化せず、尚且つ病勢を的確に示すマーカーの存在は、患者さんの治療に向かう気持ちを向上させるのだと思います。
 現在、様々なマーカーが登場していますが、決定的な指標となるにはもう少し時間が必要だろうと思います。当面行われるべきは、寛解時のベースラインをきちんと伝え、どの程度の範囲に収まるような生活を送るかという面なのではないでしょうか。
 腹痛や排便回数を指標にするのもよいかも知れませんが、食事による一過性の腹痛なども恐怖の対象になりかねないため、客観的な指標が良い選択肢だろうと考えます。


参考文献

【1】Allocca M. et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2020.
【2】Yang J. Int J Infect Dis. 2020.
【3】Panaccione R. et al. Inflamm Bowel Dis. 2013.
【4】Peyrin-Biroulet L. et al. Am J Gastroenterol. 2015. 
【5】Kahanna R et al. Lancet. 2015
【6】Colombel J,F. et al. Lancet. 2018.
【7】Panoccione R. et al J Crohns Colitis 2019

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?