【論文紹介】最近の炎症性腸疾患研究

皆様こんばんは。お元気ですか
私は元気です。相変わらず色々と忙しいですが、何とかやっています。

さて、今回は前回の記事でお伝えした最近の炎症性腸疾患(IBD)研究の動向をご紹介していきたいと思います。

1.IBD 患者に対しタバコは長期的な健康を鑑みて推奨できない

論文:Cigarette smoke increases risk for colorectal neoplasia in inflammatory bowel disease
van der Sloot KWJ, Tiems JL, Visschedijk MC, Festen EAM, van Dullemen HM, Weersma RK, Kats-Ugurlu G, Dijkstra G.
Clin Gastroenterol Hepatol. 2021

内容:PALGA(Dutch nationwide pathology registry:オランダ全国病理学データベース)に登録されている IBD 患者 1386 例で、大腸がんと喫煙の関連性を調査しています。
結果:153例(11.5%)で大腸がんが観察された。クローン病(CD)では一親等の大腸がん家族歴有(P=0.001)、潰瘍性大腸炎(UC)では炎症性ポリープの既往(P=0.005)など、現在まで危険因子とされているもので影響が見られています。UCでは、喫煙歴があると大腸がんリスクが上昇し(ハザード比1.73、95%CI 1.05-2.85)、受動喫煙による影響はありませんでした。クローン病では、能動喫煙(同2.20、1.02-4.76)および受動喫煙(同1.87、1.09-3.20)で大腸がんリスクが有意に上昇しています。

 この論文では、IBD 患者さんの喫煙と大腸がん罹患のリスクについて調べています。その結果、UCでは自分自身の喫煙歴が、CDでは能動・受動両方の喫煙で大腸がんリスクが上がることが報告されました。
 今までの私の記事でも触れているように、UC における禁煙は現在まで必ずしも徹底されていません。理由としては、禁煙が再燃リスクである可能性が弱く指摘されているからですが疫学研究の限界として、禁煙のストレスや禁煙推奨に伴う就労環境の変化など別の原因である可能性が排除できないため、一般論としては喫煙の推奨は出来ないという事を記載しています。
 この研究が出たことから、やはり IBD 患者さんの長期予後を考えた場合、喫煙は推奨できない。可能であれば禁煙を、特に CD 患者さんの場合は同居者の禁煙も重要となることが分かります。

2.IBD と小腸がんの関連性

論文:Inflammatory bowel disease and risk of small bowel cancer: a binational population-based cohort study from Denmark and Sweden
Axelrad JE, Olén O, Sachs MC, Erichsen R, Pedersen L, Halfvarson J, Askling J, Ekbom A, Sørensen HT, Ludvigsson JF.
Gut. 2021

内容:スウェーデンとデンマークにおいて、1969年から2017年までに IBD を発症した 161,896 名の患者さんを対象に、小腸がんの発症と IBD の関係性を調べた論文です
結果:IBD患者は161,896名(CD:47,370人、UC:97,515人、未分類:17,011人)。追跡期間中、237例のSBCが診断され(CD:24.4/10万人年、UC:5.88/10万人年)、対象群患者では640例(それぞれ2.81/10万人年、3.32/10万人年)であった。IBD患者、特にCD患者の場合、小腸がんの罹患及び死亡の可能性が高いことが示されました。

 この論文では、小腸がんの発症と IBD の関連を調べています。重要なのは、小腸がんの発症というのは比較的稀であるものの、健常者に比べ UC では500名に1名程度、CD では390名に1名程度の頻度で罹患数が増える事が示されています。
 これを多いと判断するのは、統計的には正しいものの例えば CD の場合、日本では100名程小腸がんの発症が健常者に比べて多いという計算になりますが、そもそも小腸がんは年間3000名程しか新規患者さんは出ない比較的希少ながんです。従って大きなリスクではないといえますが、定期的な内視鏡検査を受けることで早期発見に繋がることも確かです。

 今回は、疫学研究を2つお示ししました。
 こうした研究は、患者さんの治療を劇的に変えるものでは無いものの、根気強く調べることでリスクを減らし、重症化や発症を防ぐことに繋がることや新規治療法のシーズになる事も複数あります。
 もしかすると、この N 数の中にはご覧になっている皆さんも入っているのかもしれません。皆さんが日々闘病する事が、将来発症する IBD 患者さんの苦しみを少しずつ減らすことに繋がりますし、我々の苦しみは必ず次の世代に活用されます。
 と同時に、我々の先達は治療法の乏しい中、文字通り身を挺して適正治療の確立を進めてくださったという事も併せて申し上げたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?