【論文紹介】最近の炎症性腸疾患研究3

皆様、色々な問題が山積していますね。
本当に沢山言いたいことがありますが、目の前の仕事を着実に

1.論文

タイトル:Identification of an Anti-Integrin αvβ6 Autoantibody in Patients With Ulcerative Colitis.
著者・雑誌名:Kuwada T, Shiokawa M, Kodama Y, Ota S, Kakiuchi N, Nannya Y, Yamazaki H, Yoshida H, Nakamura T, Matsumoto S, Muramoto Y, Yamamoto S, Honzawa Y, Kuriyama K, Okamoto K, Hirano T, Okada H, Marui S, Sogabe Y, Morita T, Matsumori T, Mima A, Nishikawa Y, Ueda T, Matsumura K, Uza N, Chiba T, Seno H.
Gastroenterology. 2021 Feb 12. S0016-5085(21)00406-6

2.概要

背景:潰瘍性大腸炎は、IBD の中で最も頻度が高い疾患です。その特徴は大腸上皮細胞の障害であり、現在まで自己免疫疾患の可能性が模索されています。しかし、現在まで特異的な自己抗原・抗体は発見されていません。
方法:23種類のリコンビナントタンパク質を用いて、潰瘍性大腸炎患者と対象者の血清に免疫沈降及び蛍光染色を行った。
結果:潰瘍性大腸炎患者ではインテグリンαVβ6 に対する自己抗体を有する傾向が見られた(潰瘍性大腸炎患者 103/112名, 対象群 8/115名)。更に抗体価は疾患活動性と相関性を示した

3.本論文を読んだ感想

 本論文は京大の妹尾先生、神戸大の児玉先生らがご研究されたものです。元々潰瘍性大腸炎は自己免疫疾患の可能性と、腸管上皮の脆弱性が疑われていました。しかし、現在に至るまで自己抗体が発見されていないことが問題でした。
 この結果でも、全例に抗体が認められたわけではありません。しかし、9割もの患者さんに自己抗体が見られた以上、相当原因に近づいたのではないかと考えています。現在まで、G-cap を初めとする顆粒球に狙いを定めた治療が相当な効果を挙げてきました。本来、顆粒球は攻撃のシグナルが無いと自己組織を攻撃することはありません。つまり、今までは眼に見えないシグナルを相手に戦ってきたのです。
 少し長くなりますが、今までの治療は 5-ASA のように攻撃を受けた場所で働くものや、抗TNFα抗体のように攻撃指令に伴って兵隊が出撃するのを邪魔する形のものが多かったのです。ステロイドは邪魔に加えて、腸管の上皮を薄弱化させてしまいますし、免疫抑制剤は兵力が無くなりますから外来の異物に対する抵抗力は弱くなってしまいます。
 仮に、今後原因となる抗原や抗体が判明すれば、いくつかの治療方策が考えられます。
・自己抗体の測定による病状予測の迅速化(2次予防)
・自己抗体をトラップする治療法の開発
・他の自己免疫疾患治療法の流用加速化
 などです。
 さらに申し上げると、腸内細菌叢の変化やTregの関与など、鶏か卵かの議論も加速化する事が予想されます。本研究は、ブレイクスルーポイントとして後世から評価されるのではないかと強く感じます。

4.最後に

 今日は IBD デーですね。
 皆さん、今日まで本当に沢山の苦しみの中、頑張ってこられたと思います。痛みや羞恥、将来への不安など様々なことに耐えながら生きてきた自分をしっかりと褒めてあげてください。

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