【各論】IBD で気を付けたい感染症対策

 皆さんこんばんは。そふぁーです。
 お元気ですか?

 さて、今回は冬になり空気も乾燥し始めています。
 報道でも色々な話が出てきていますが、IBD 患者さんの場合は免疫抑制剤の使用が行われているケースもあり、一概に単一の感染症だけ気を付ければ良いというわけではありません。
 そこで、基本的な感染症対策について、おさらいしていければと思います。

1.感染症とは?

 まず第一に、感染症の定義から学びましょう。

感染:病原体となる微生物(細菌、真菌、ウイルスなど)が宿主となる生物に侵入・定着し増殖する
感染症:感染のために宿主が何らかの症状を呈する

 これが定義です。ここから見てわかるのは
・病原体(感染源、汚染源)
・感染経路
・宿主

 という3つの要素が揃わなければ、感染症というのは発症しないという事が分かります。ただし、ヒトに対する感染症対策で宿主を取り除くことは出来ません(人類が滅びます)。
 そこで、基本的な対策は病原体そのものをやっつけるか、感染経路を遮断することになります。

2.感染症に関連する様々な用語

・キャリア分類
 まず、感染症というのは目に見えて症状が出ている状態なので、ついそこばかりに目が行きます。しかし、感染というのは
<①これから発症する人>⇒<②感染進んでも症状出なかった>

<③症状が出た人>⇒<④回復してきた(けど病原体は持っている)人>
という色々な段階を経ていきます。特にヒトB型肝炎ウイルスのように、症状が出るまでに非常に長い時間を必要とするウイルスがある点にも注意が必要です。
 ①潜伏期キャリア ②発症者 ③不顕性キャリア ④回復期キャリア
 のように分類し、きちんとリスク管理をすることが必要です。

・感受性指数
 次に宿主に成立した感染が、症状を呈する確率を示す指標である感受性指数についてお話します。例えば狂犬病は、感染成立後必ず発症する(感受性指数100)非常に怖い病気です。一方で、我々 IBD 患者のうち免疫抑制剤を使用した患者などで時折みられる「日和見感染症」のような健常者であれば発症しない感染症もあります。
 つまり、IBD 患者の感染症対策というのは
病気による感染症罹患率の増加
使用する薬剤による感染症罹患率の増加
 の2点に気を付けなければなりません。

3.感染経路

 感染経路は大きく分けて2つあります。1つは水平感染といわれ、感染源と物理的に離れているもの。もう1つは、垂直感染(母子感染とも)で経胎盤、経産道、経母乳という非常に特殊な場面になります。
 当然ながら、我々 IBD 患者が気を付けるべきは水平感染です。具体的には
・接触感染
・飛沫感染
・空気感染
・媒介物感染
・媒介動物感染

 の5つです。これらの感染に対する防御意識を高めるためには、ある程度汚染というものを理解しなければなりません。
 例えば接触感染や飛沫感染の場合、極端なことを言えば常に1-2mほど感染者から距離を取ればよいのです。つまり、ソーシャルディスタンスの確保で十分という事になります。
 しかし、感染というのは汚染された場所を触ることによっても(媒介物感染)起こり得ますし、空気感染する結核やレジオネラなども問題です。
 特に抗TNFα抗体製剤(レミケードやヒュミラなど)を使用した場合は、結核に罹患するリスクが上がることが分かっています【1】。では、こうした問題にどのように対策すべきなのでしょうか。

4.対策

 まず、感染症対策の基本は、感染経路を封じ込めることにあります。私は職業柄経路を封じ込めることは出来ませんし、日常生活においても完封することは不可能です。
 しかし、先ほど申し上げた「汚染」という概念をしっかり理解しておけば、かなり良い対策が可能です。実際、医療従事者に感染症罹患者が必ずしも多くないのは、知らず知らずのうちに感染症対策が身に染みているからでもあります。

 少し、ゆっくりお話ししていきますね。一つ目は

①人混みを避ける

 私は、現在も通勤を自家用車で行っています。これは、ずっと行っていることで、通勤時間の混み具合は避けられるなら避けるに越したことはありません。ただ、避けられないことも多いかと思いますので、手洗いなどのタイミングを適宜後述します。

②睡眠時間の確保

 意外とご存じない方が多いですが、睡眠不足は感染症リスクを上げる可能性が高いです【2】。適切な睡眠時間は年齢により幅がありますし、生活環境にもよりますが、最低限として6時間程度は確保してよいと考えています。また、夜間は炎症を抑制する時間でもありますので、日付が変わる前にお休み頂くのが宜しいでしょう。

③正しく知って、正しく実践するストレスの少ないうがい手洗いマスクの徹底

 まず、几帳面なまでに何かに触れたら手を洗ったり、人とすれ違うたびに 2m 厳密に離れていたか…といった事をやると疲れます。当然、こうしたストレスは免疫機能の異常を招き、感染症だけではなく色々な疾患のリスクになります。
 大切なのは、有効性と実効性を兼ね備えた対策です。
 どうせ、何をやっても100%なんてことはありません。気楽に考えて、日常生活に溶け込む対策を Q&A 方式で考えていきましょう。

Q1. 手洗いのタイミングは?

Ans. 不特定多数の人が触ったものを触れた後、目や口、鼻を直接触る前には手洗いをしましょう。難しければ消毒のみでも構いません。日常生活では厳密に行う必要も無く、受診時や買い物の際に少し心掛ける程度で良いです。
 ついでに言えば、あまり目や口、鼻を人前で直接触ったりするのは、紳士淑女にあるまじき行為です。きれいなハンカチやティッシュを使用してリスクを減らしましょう。
<まとめ>外で口、鼻、目を直接触らない。ポケットティッシュ必携

Q2. うがいのタイミングは?

Ans. 自分を守るだけなら、帰宅後で良いです。ただ、私は口腔内衛生を保つためにも三食後の歯磨きの際にうがいもします。水で結構です
<まとめ>うがいは帰宅時でOK。エチケットとして、食後の歯磨き後にも

Q3. マスクは必要なの?

Ans. 原則として、マスクは感染を広げないためのものです。飛沫は防ぎますが、空気感染を防ぐことは出来ないとされています。
 ただ、マスクをすることで口元を触らなくなるという効果もあるようで、統一された見解にやや欠けると感じています。IBD 患者さんの場合は、受診時や買い物などの外出時にはマスクを着用する事が推奨できるとは思います。
<まとめ>外出時には着用が推奨

Q4. 汚染されている場所って?

Ans. 病原微生物による汚染が起こりやすいのは、手や口が触れる場所です。例えば手すりエレベーターのボタン電気のスイッチトイレの蛇口水道の蛇口ドアノブなど様々です。これらは不特定多数の方が触れるので注意が必要です。
 一方、感染が確定した方が触った部分については、いずれも除菌の対象です。今私がタイピングしているキーボードやマウス、コップもそうです。
 ここで述べておきたいのは、汚染源に触っても問題はないのです。傷口などに擦り付けなければ、感染は成立しません。しかし、触った部位を粘膜に持ってきてはいけません
 実際問題、我々医療従事者があまり感染症にかからないのは、自分の手指が汚染部位であることを理解していますので、患者さんの腹部といえども触る前後には手指消毒します。
 そして、我々は患者さんへ移さないことを第一に考えていますので、自分も汚染源としてカウントしています。そのため、口や鼻には触れないのです。それもあって、自分にも患者さんにも感染を成立させにくいのだろうと考えています。

5.感染リスクは薬剤であがるのか

 まず、以前述べたようにチオプリン製剤は大きなリスクとはなりません【3】。ただし、新興感染症についてはデータが揃っていません。様々な報告はあるものの、チオプリンが感染症に影響しないという認識は誤っています【4】。単剤の使用が、重症化しやすい既存の感染症リスクにはならないというのは、ある程度コンセンサスが得られていると思います。一方で、日和見感染については議論があるのが実際です。
 チオプリンを飲んでいるから怖いということではなく、きちんと可能な範囲で防御はすべきというのが私の意見です。
 なお、抗 TNFα 抗体製剤は、結核リスクは上がりますが日和見感染については微妙なデータが多いですので、何の薬剤にも特徴があります。

6.最後に

 大前提は、自分で出来る範囲の対策を、少ないストレスでやりましょう。という事です。
 感染症が怖いから、家から一歩も出ないというのは違います。
 私なんか毎日感染リスクがある職場に行っていますが、自分自身の対策にある程度の自信がありますので、恐怖は少ないです。週に2回程度は買い物に出ますし、月1回程度は量販店にも足を運びます。最近では、冷え込みが厳しいので掻巻を新調しました。
 何事も、適度が大切です。
 もちろん、慢心は良くありません。マスクを外して、大人数で密集しながら、お顔を近づけてどんちゃん騒ぎというのは避けて頂きたい。うがい手洗いの徹底もお忘れなく。

参考文献

【1】Abitbol Y. et al. J Crohns Colitis. 2016
【2】Ibarra-Coronado EG. et al. J Immunol Res. 2015
【3】Singh S. et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2020
【4】Kirchgesner J. et al. Gastroenterology. 2018

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