【論文紹介】最近の炎症性腸疾患研究2

お久しぶりです。
年齢のせいか、色々な不調が出てきてしまい本業のみに専念しておりました。申し訳ないです。

さて、本日はカナダにおける大規模な疫学研究をご紹介します。

1.論文

タイトル:Residential Greenspace in Childhood Reduces Risk of Pediatric Inflammatory Bowel Disease: A Population-Based Cohort Study.
著者・雑誌名:Elten M, Benchimol EI, Fell DB, Kuenzig ME, Smith G, Kaplan GG, Chen H, Crouse D, Lavigne E.
Am J Gastroenterol. 2021 Feb 1;116(2):347-353.

2.概要

 本研究は、1991年4月-2014年3月までにカナダで出産した母親とお子さん271万5318組を対象に、居住環境での緑地量が小児炎症性腸疾患(IBD)リスクに及ぼす影響を後ろ向きコホート研究を行った論文です。
 この論文の特徴は、緑地帯について衛星データに基づく指標を使用して緑地量を評価した点であり、近年の科学技術の進歩に併せて新しい形の疫学研究が盛んになっている点も重要です。

 結果は、小児期における緑地帯の量が多い場合は18歳までにIBDを発症するリスクが低下し(調整後ハザード比0.77、95%CI 0.74-0.81)、この関連は潰瘍性大腸炎(同0.72、0.67-0.78)およびクローン病(同0.81、0.76-0.87)でも有意な差であることが分かります。一方で、妊娠中の緑地曝露と小児IBDに関連は見られなかった事が本研究では有用であろうと思います。

3.本論文を読んだ感想

 本研究の面白い点は、衛生データを利用して緑地帯を非常に細かく評価している点です。これは私自身読んでいて、驚かされました。というのも、疫学研究の問題点として、対象者の住所が仮に分かっていたとしても周辺住環境のデータまでは集める事が困難だったことが挙げられます。
 昨今、ロハスなど緑の多い環境に住むことが流行しているようですが、IBD 的には良い流れであると言えるでしょう。さらに、妊娠期における緑地曝露は関係ないことから産院を無理やり郊外に持ってくる必要も無く、周産期医療に負荷をかけることなく IBD 発症リスクを下げる事が可能になるかもしれません。
 ただし、こうした研究はあくまでも原因を探れたり、リスクを0にするものではありません。

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