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ムーンライト✕グレイテストショーマン=サターデーナイトチャーチ

サタデーナイトチャーチは嘘のない映画です。

LGBTQの若者たちが抱えている感情が大きすぎて言葉にならないときに歌に、言葉で足りないからダンスになる。

そんな想いが描かれたミュージカル映画です。

サタデーナイトチャーチでの「ダンス」とは、LGBTQの若者たちの自我であり、そして性に対する表現なのではないだろうかという考察?っぽいことを書き綴ります。

先日「サタデーナイトチャーチ」の映画コラムを書いたのですが、そこにおさまりきらなかった分です。

ネタバレはありません。

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映画「サタデーナイトチャーチ」って?

2019.2.22に新宿ピカデリー他で順次公開されています。上映シアター数は少なめ。

TOHOシネマズはやってません。興味ある人はぜひ早めに劇場に足を運ばれることをお勧めします。

まあ、今の時期は春興業(ゴールデンウィークシーズン)に向けて徐々に増えてくる時期なので、仕方ないっちゃ仕方ないのかな。

ただ、この物語、2016年に「ラ・ラ・ランド」間違え事件の年にアカデミー賞を受賞した「ムーンライト」と同じテーマです。

サタデーナイトチャーチは、有色人種(黒人)でLGBTQの話です。

ダブルマイノリティ。

と聞くと、ムーンライトのような難解な(私にとってはムーンライトを初見で理解することは難しかったです……。)

社会性が高い映画作品であるかといったら、実はまったくそんなことないです。

王道な一人の少年の青年期をLGBTQを通じて表現した成長物語です。

LGBTQってなーに?セクシャルマイノリティって「?なん黒人だと話題になるの?などに関しては詳しくは先日書いた記事をご覧ください。

ミュージカル調にしている(賛否両論あるが)ため、見やすく味付けされており、たぶん老若男女楽しめる作品です。

この作品の肝である、ダンスとサタデーチャーチ(Saturday church)の二点について書こうと思います。

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1.あらすじ
2.ユリシーズの苦悩を分解してみる
:LGBTQとは?
:彼の置かれていた環境は?
①家族想いな優しい性格
②自身がキリスト教徒
③黒人であること
3.物語の展開を分解してみる
:全世代の人が共感する普遍的な物語
4.映画の舞台は実在するSaturday Church
5.ミュージカルという名のダンスに込められた3つの想い

1〜3に関しては、街角のクリエイティブのコラムを参照ください。

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映画の舞台は実在するSaturday Church

この映画は、ざっくばらんに言うと〈青春期の主人公がLGBTQに悩み、自分自身を認め、他者に自分を認めてもらうための一歩を踏み出していく〉というストーリーです。

LGBTQの少年が同じような境遇の人たちと出会い、「サタデーチャーチ」に誘われ、そこで初めて本当の自分を表現することを見つけ出します。

それが「サタデーチャーチ」で行われていたダンスでした。

ニューヨークには、LGBTQの人たちを支援するコミュニティや団体がいくつか存在しています。

「サタデーチャーチ」はそのうちの一つです。

このような団体がある背景には、LGBTQの若者たちが家族や周囲の理解をえられれず家を出る、もしくは追い出されることが後を絶たないアメリカの現状があります。

そのような状況に対し、ニューヨーク市が宿泊施設を解放するも、粗悪な環境が原因で若者は寄り付かなくなり、若者のホームレス化が進んでいるだとか。

そのため有志のコミュニティが「サタデーチャーチ」のような取り組みをしているのだそう。

本作に出てくる「サタデーチャーチ」は実在するコミュニティで、監督が実際にボランティアをしていたことがきっかけでこの映画を制作することを決意したのだと、公式のパンフレットに書いてありました。


パンフレット曰く、

2001年にセントルークインザフィールズ教会が、LGBTQの若者支援のプログラムに乗り出しました。

そこでは24歳までの若者たちに、
・食事や衣服の提供
・安全なセックスの指導
・HIV検査
・ダンスやバスケ等のスポーツをする場

を提供しており、その他にも個人の相談にのるなどの機会を設けている

んだそう。

最も盛んな時期には本プログラムを100以上の教会が実施しており、現在でも30ほどもの教会が続けていて、参加している若者の約9割が有色人種(黒人)なのだとか。

ミュージカルという名のダンスに込められた想い

この映画は予告編を見てもらうと分かるのだが、ところどころで、ミュージカルが入ってきます。

主人公が悩み葛藤する様、初めての気持ちに気づき気分が高揚する様子、相手を思う気持ちがこみ上げてきて歌い出さずにはいられないような姿が、

素朴な歌詞で、そしてまっすぐに美しい気持ちが表現されています。

一方で、「ミュージカル映画としては物足りない。最近のミュージカル映画の再ブームに便乗しているだけでは??」という意見もfilmarksなどで見かけました。

たしかにサタデーナイトチャーチをグレイテストショーマンのような、ミュージカルをするために作られた映画と同じだと思ってしまうと、物足りなく感じると思います。

グレイテストショーマンは観た人はわかると思うが、一言でそして乱暴にまとめてしまえば「ありのままの自分を愛して」なんだと思うんです。

それは、それがどんなに背伸びをしても、どんなに才能があって自分が満足行かなくっても、そのままの自分を愛してくれる人がいれば幸せなんだ、というテーマが

「Never Enough」「This is me!」という曲とミュージカルシーンに出ています。

しかし、サタデーナイトチャーチには、ミュージカル映画らしい、豪華絢爛な演出もなく、派手派手しいスポットライトもないです。

ミュージカル映画を作ろうとして作られた映画と、映画を作ろうとしてその過程で生み出されたミュージカルでは、そもそも伝える方法が違うんじゃないかと思うのです。

そんなサタデーナイトチャーチがミュージカルタッチに制作されたのには3つの理由があるんじゃないかと思っています。

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1つは、もともとサタデーチャーチでダンスのプログラムがあったということ。

実在するサタデーチャーチにはダンスのプログラムがあり「ヴォーグ」というジャンルを確立しているんだとか。

実際に映画でも映画作品の中で、主人公の少年は「ヴォーグ」というダンスに出会い、ダンサーに憧れ、それをきっかけに女性性を表現したい自分を認めていくストーリーです。

多分、これが一番ミュージカルタッチに演出した。という理由として明確で、わかりやすいと思います。

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もう1つは、主人公の性表現としてダンスというアートへの昇華です。

私がこの映画のダンスシーンがここまで美しく、そして幻想的だと感じるのはそういった理由だと思っています。

これは完全に主観なのですが、ダンスや歌といったアーティスティックな表現は、性別の関係ないところに存在しているものではないでしょうか。

身体から発せられる音、身体が魅せる軌跡、それらに人は感動を覚えている。

身体論やそういうアートには詳しくはないのですが、ダンスや歌、演劇に鳥肌がたってしまう理由は、機械ではなく細胞が生み出す軌跡に感動しているのだと、最近思うようになったのですが、

今回の映画を見てより一段にそれを感じることになりました。

ダンスはこれらは、肉体での表現美であるから「男性ならでは表現」「女性だからこその表現」はあります。

でも、逆に言えば、ダンスであれば性を超えた美しさを表現することもできる。

歌やダンスは人を魅了する、ある種の実力主義な、そして愚直なほどの表現による自己開示の一種なのだと思うのです。

だからこそ、実際のプログラムの一貫だとしても、この映画での主張をセリフではなく演出として、そして観るものをの心を震わせる表現として必要だったのではないかと思うのです。

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そして最後の1つは、LGBTQの若者たちのヒューマンドラマであることです。

監督は公式のパンフレットでこのように述べている。

「この作品のテーマ"空想”こそが私の映画にとって大切な要素であると。主人公のストーリーを語るつえで必要不可欠だと。
なぜなら空想によって主人公が、彼の人生で一番大切なものー希望を持ち続けることができるからだ」
「主人公の人生の中に光が見える瞬間をミュージカルタッチで描きたかった」

希望を見える瞬間を監督は歌とダンスに託したのです。

「ありのままの自分を愛して」という、世間に認めてもらえない若者たちの想いがここに託されているのではないでしょうか。

実際にプログラムのボランティアに参加していて、そしてLGBTQの若者たちと同じ目線での想いを知っているからこそ、

サタデーナイトチャーチはミュージカルシーンが必要で、そして美しい映画になったのでしょう。だから私は、この作品には嘘がないと、思ってしまったのでしょう。

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82分の映画作品としての簡潔な表現で、そして伝えたい思いを丁寧に表現し、人物・背景の描写、素直な家族愛の表現力に圧倒される作品です。

今おすすめの映画あると聞かれたら、一番にあげたい作品です。


ちなみに、エンドロールに流れてるダンスシーンは監督本人が実際の「ヴォーグ」の大会をiPhoneで撮影したもので、

劇中のダンスシーンも、実際にヴォーグダンスをしているLGBTQの若者が出演している、嘘のない映画なんだとか。


▼過去作はこちら

▼さかかなってこんな人


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