スリービルボード映画批評│3枚の広告と3人の役割考える


スリービルボードを見て、もやもやしてここにたどり着いたあなたへ。

それは、あなたがミルドレッドやディクソンと同じ、生きている人間の証であることの証明である。

そして、その3枚の広告塔は、3人の運命を暗示していることに気づいただろうか?


▼『スリー・ビルボード』概要

『スリー・ビルボード』(原題: Three Billboards Outside Ebbing, Missouri)は、2017年にアメリカ合衆国で公開されたドラマ映画である。監督はマーティン・マクドナー、主演はフランシス・マクドーマンドが務める。

 本作は、2017年に第74回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門にノミネート。

マクドナーが脚本賞を受賞し、高い評価を得ている。監督マグドナーの長編映画は「セブン・サイコパス」「ヒットマンズ・レクイエム」の2作のみで実は本作品が3本目だという。

もともとアイルランド人であり、劇作家である経歴をもつ。

 またアカデミー賞では作品賞、脚本賞、作曲賞、編集賞など6部門で計7つのノミネートを受けた。

娘のために孤独に奮闘する母親・ミルドレッドをフランシス・マクドーマンドが熱演し、自身2度目のアカデミー主演女優賞を受賞。

警察署長・ウィロビー役のウッディ・ハレルソンと差別主義者の警察官・ディクソン役のサム・ロックウェルがともにアカデミー助演男優賞候補となり、ロックウェルが受賞を果たした。



華々しい受賞歴と裏腹に、

物語は狭く、そして人間臭い。


この作品は、表面だけ見ればブラックコメディ、もしくはヒューマンドラマだ。


物語は、アメリカミズーリ州の田舎町エビングが舞台。

この片田舎の町で、何者かに娘を殺された主婦のミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)が、犯人を逮捕できない警察に業を煮やし、解決しない事件への抗議のために町はずれに巨大な3枚の広告看板を設置する。

”RAPED WHILE DYING”
(レイプされて死亡)

”AND STILL NO ARRESTS?”
(犯人逮捕はまだ?)

”HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY?”
(なぜ?ウィロビー署長)


このセンセーショナルな看板で静かな街エビングはざわめきはじめる。

ミルドレッドを取り巻く人々が、看板をきっかけに怒りと赦しの間に揺れてい。

怒りと悲しみの向けるべき矛先が見つからないミルドレッドと、この問いかけを快く思わない差別主義者である警官ディクソン、市民に慕われ万人に善意を尽くそうとするウィロビー署長を中心に物語が進む。

米国版のポスターもミズリー州の形をした枠とそして3人の写真が並べてある。この3人がこの物語の中心人物である。


3つの看板と3人の登場人物。

ここにこの物語の鍵はある。

映画批評を書くにあたり片っ端から読み漁ったが、この2つはストーリーと気になる点が網羅されており、非常に面白かった。

●スリー・ビルボード (ネタバレあり) 
TIFFjpトークショーまとめ&考察:ミルドレッドは本当に「格好いい女」か
http://fu-no.hatenablog.com/entry/2018/02/01/000000
●映画『スリービルボード』感想&考察 なぜ『3枚』の看板なのか? ここに隠された意味とは? 後半ネタバレありhttps://blog.monogatarukame.net/entry/Three_Billboards_Outside_Ebbing%2C_Missouri


▼登場人物から見える物語のテーマは「怒り」と「許し」

この物語のテーマは「怒り」と「許し」である。

怒りとは、差別や事件による憎悪や恐怖のことだ。

ミルドレッドの元夫の彼女がいう「”Anger begets greater anger.”(怒りは怒りを来たす)」。物語を単純に追っていけば、怒りが生むものは憎悪のみである。

それはウィロビーもディクソンに向けて遺書で伝えている。怒りを制御しきれない人々によって絡まり合う物語。

ミルドレッドの元夫の彼女が言う

「”Anger begets greater anger.”(怒りは怒りを来たす)」

物語を単純に追っていけば、怒りが生むものは憎悪のみである。それはウィロビーもディクソンに向けて遺書で伝えている。

怒りを制御しきれない人々によって絡まり合う物語。 


一方、許しは愛であり、事実を受け入れる勇気を指す。

このあたりの登場人物の気持ちの変遷や各キャラクターの設定については他のブログに詳しく書いてあるので、簡単に書く。

●ミルドレッドの怒りと許し

怒り:娘を無慈悲な事件を起こした犯人に対して/直前に喧嘩をし、選択を誤ってしまった自分に対して/犯人を未だに捕まえられない警察に対して/自分の娘と年の変わらない若い女の子と付き合う元夫
許し:人の優しさ(遺書)に触れ一度自身の怒りから距離を置く/暴走後、「死」を事実を事実として受け入れる

●ディクソンの怒りと許し

怒り=怖れ:ゲイであることがバレる社会に対する怖れ/強く正しくありたいのにできずにいる自分に対して
許し=自分と向き合い(遺書)、会心

●ウィロビーの怒りと許し

怒り=膵臓がんを患う無情さ
許し=ミルドレッドとディクソンへの遺書


このようにまとめると、ミルドレッドとディクソンの「怒り」を「許し」へと変えたきっかけが、あるウィロビー署長であることがわかる。

署長の遺書はこの物語では大きな転換となるアイテムだ。


ゆえに多くの考察記事では、

ウィロビー署長の許し=遺書

にフォーカスし、

署長=いい人

と書いている。


まあ、たしかにそううなんだが、私はどうしても違和感を感じた。

本当にそうなのか?


確かにに署長は死を持って二人に許しを与え公正するチャンスを与えた結果となった。

しかし、ウィロビーの怒りだけが許されていない。

彼の怒りは、馬小屋で自殺をする、という自己完結によって葬られる事となる。自分の意思で、彼は彼の怒りから逃れることを選ぶ。


では、彼が残した家族はどうなのだろう。妻と二人の娘を残して、この世を去ることは、少し勝手な印象を受ける。

この映画尺にウィロビー夫妻の相愛の物語までを織り込むことができなかったにせよ、ウィロビー署長の死は家族にとってはいいものではないはずだ。

読み取り方によっては、

署長は「自分の死=事実を向き合うことができなかった」弱い人

とも捉えることができる。


willには遺書という意味があるという考察もある。しかし個人的には「望む,欲する」といった単語を指していたのではないかと思う。


▼タイトルにある「スリービルボード」が意味するものは「許しを与える神」

なぜそのように考えたのか。

本来、広告は何かを主張したり問いかけたりするために使われる。

この物語でも、ミルドレッドがウィロビー署長にまだ犯人は捕まらないのかと問いかけ、警察署へのメッセージとして使っている。

しかし、この広告は実はこの物語自体を示唆する役割を果たしている。

なぜか。

この広告は映画の冒頭でディクソンが霧夜のなか3枚目から読むシーンからはじまる。

冒頭に表記した順とは逆になる。

”HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY?”
(なぜ?ウィロビー署長)

”AND STILL NO ARRESTS?”
(犯人逮捕はまだ?)

”RAPED WHILE DYING”
(レイプされて死亡)

1枚目はウィロビー署長への問いかけ。
2枚目はディクソンへの問いかけ。
そして3枚めは事実のみを提示している。

映画内でのメッセージはウィロビー署長への「犯人逮捕をできていないことに対する問いかけ」であるが、

この場合、『スリービルボード』映画そのものの物語の展開「なぜ死んでしまったのか?」と捉えることはできないだろうか。

HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY?”
(なぜ?(死んでしまったの?)ウィロビー署長)

”AND STILL NO ARRESTS?”
(犯人逮捕はまだ? → ディクソンの会心の示唆)”

”RAPED WHILE DYING”
(レイプされて死亡 → ミルドレッドの事実の受け入れを示唆)


広告は問いかけであり、そして主張である。

許しを与えることを示唆する神と同等の役割を示している。

そしてそれがキリスト教で神聖であるとされる3と掛け合わていたら面白い。

「許しを与える存在で、しかし一番弱い人間であるウィロビー」と捉えると、

ウィロビー署長は神に近いようでいて、その反面自分の困難に向き合い切れずに「欲」をそのまま手に入れてしまった人間性が最も強く現れている半面性の強い人物であると読み取れないだろうか。

・・・

しかし逆から読む広告新たに捉え直すと、

監督から観客へのメッセージある。

この物語の神である監督から観客へ、映画の示唆を与えるシーンなのではないかと考えられないだろうか。


~ここからは余談~

▼ウィロビーの他に名前と役割が一致しない人物

ウィロビーは名前に「Will」未来を予測する単語を含み、許しを与える役割である一方で、「弱さ」を示す名前だった。


同様に、名前が「怒り」を示すが善良な許しを与える存在の人物がいる。それが警察署の向かいにある広告屋の男、レッドだ。

それは、入院したディクソンにオレンジジュースを向けるシーン。
象徴的に現れあているが、その男の名が怒りを象徴する「レッド」であるのも意図があるとしか思えない。

赤色は、聖書上で、火のような色は悪魔サタンである大いなる龍の外観を象徴的に描写するのに用いられている。(そのような記事はいくつかあるので割愛する)

▼なぜ「現実を見ること=許し」と定義したか

今回の考察で、上述の3人の怒りと許しを定義したときに私は「現実をみて事実を受け入れること=許し」とした。

これの根拠は、この物語の中でも何度も対となる「現実を見ることができない=怒り」として出てきている。

例えば、ミルドレッドとウィロビーが警察署での会話。
「歯医者の証言」「ミルドレッドの証言」が誰も見ていないが故に答えを出せなず、誰もさばけなかった。

そして、その会話の中でウィロビーは皮肉で「元夫が暴力夫だった」→「本人はそう言ってない」と重ねてくる。

同様に、最後に出てくる「軍の証言」→「レイプ犯でない」も事実の根拠の提示もなく認められない。

怒りが怒りを生む。

また、ミルドレッドと神父の会話で「一人の仲間が犯した罪は見ていなくても仲間内のものであれば、同罪」

そして、「レイプ犯がミルドレッドの娘を殺したかどうかではなく、だれか別を犯していたとしても同罪」であるという言動をし、この物語は終える。

この『スリービルボード』の話の筋だけで言えば、神父が勝手に家に入って息子と話しているシーンも、歯医者で北野武のアウトレイジの映画っぽいシーンも必要はない。

わざわざ監督が入れている。

人がつくったものにすべて文脈はある。

としたら、これは、見えていない事実に対する怒りの現れだ。暗示であると考察すべきではないだろうか。


では、

怒りの対となる許しとはなんだろうか。

事実を受け入れることができる寛容さ

と考えることができる。

自分のためであり、そして隣人のためである。

それはあるがままをの事実を受け入れられて初めて生まれるものを表している。


『スリービルボード』は物語内での会話だけでなく、いくつもの史実(※)にある事件も含めながら、その怒りと許しを表現している作品だ。具体的に調べたサイトがあったので引用する。

①マイケル・ブラウン事件
2014年ミズーリ州。白人警官が18歳の黒人青年を射殺した。この事件が発端となり、全米で人種差別への抗議が起こったのだ。

②マフムーディーヤ虐殺事件②マフムーディーヤ虐殺事件
2006年3月12日。イラク戦争時、アメリカ兵がレイプして遺体を焼き殺した事件アメリカ陸軍の兵士達による14歳のイラク人の少女への集団強姦および虐殺。および彼女の家族への虐殺が行われた。今回のミルドレッドの娘のレイプ事件の元。

③カトリック教会の性的虐待事件:カトリック司祭がレイプした事件。
映画『スポットライト世紀のスクープ』でも描かれた。『リダクテッド 真実の価値』でドキュメンタリー映画になっている。

④ワイオミングでゲイが殺された事件
1976年ワイオミング州ララミーでマシュー・シェパードが殺された事件
『ララミー・プロジェクト』としてテレビ映画になり。1998年10月7日ワイオミング州で大学生マシュー・シェパードさんがゲイであることを理由に2人組の男から激しい暴行を受けた事件。こちらは『ブロークバック・マウンテン』の元ネタの一つとも言われている。

⑤1999年ネブラスカ州でブランドン・ティーナが殺された事件『ボーイズ・ドント・クライ』ヘイトクライムによる殺害事件として有名


『スリービルボード』は胸をざわつかせる物語だ。

『スリービルボード』は、登場人物たちの人間的な弱さと事実を受け入れ進むことのできる希望。

そして結末のないエンディングは「おもしろかった」の一言で終わらせてくれない。

そんな重たく静かな、そして苦い後味を残す映画だが、また見なくてはいけないと思さる力がある。

誰しもが心の底にあるのに、見ないようにしている泥を救い上げ、拡散し、細やかな土の粒子を渦まかせて、にごらせる映画だ。


不安になる。


しかし、少し経てばその泥は水底に静かに沈殿することを私達は知っている。

そんな重たく静かな、そして苦い後味を残す映画だが、また見なくてはいけないと思わせる力がある。



もやもやを残す映画であることは、想像に任すエンディングであること、史実を多く含むこと、の他に

実は最後のシーンに二人並ぶ「現実と向き合うミルドレッドやディクソン」そのものを示唆しているとしたら、

見終えたあとのこの心苦しさは、私達が生きている証なのかもしれない。

ウィロビー署長は逃げてしまったが、私達は生きているのだ。

とこの映画の神である監督からのメッセージが込められていたら素敵だと思う。

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