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ザ・ディフェンス・ゲーム・ウィズ・ノーネーム -お前はまだロバーソンを知らない②-

 今回もまた読んだことない小説の題名をモジっちゃったわけですけど,だれかこの小説読みました?すっごいおもしろそうでもう既に買ってはいるんだけど,まだ読めてないなあ…。

 ということで,アンドレ・ロバーソン(OKC)のディフェンスでの貢献をスタッツで追った前回に続き,今回もロバーソン効果について見ていきたいと思います。(…という体ではありますが,今回の本当の目的は「マッチアップ・データでどんなことができるか探ってみよう」です。)

 今回は,最近導入された「マッチアップ」のデータを使って,ロバーソンのディフェンスのインパクトを考えていきます。その前に,マッチアップ・データについて簡単に紹介を。

  以下,日本時間 3/6 時点の  のデータを使用しています。

 マッチアップ・データとは,その名の通りオフェンスとディフェンスの「マッチアップ」に注目したデータです。例として,現地 2/26 の PHX @ NOP のアンソニー・デイビス(NOP)のデータを見てみましょう。この試合でデイビスは 53得点(16/29 FG%, 21/26 FT%)を記録しました。このモンスター・ゲームにおけるデイビスのマッチアップ・データはこんな感じです。

 デイビスとのマッチアップが最も多かったのはドラガン・ベンダー(PHX)で34ポゼッション。その間にデイビスは13本のシュートを放ち,シューティング・ファールを 2 度獲得し,合計 19得点 を記録。アシストも 2本決めています。デイビスはベンダー相手に優位に立ち振る舞っていたことがうかがえます。また,デビン・ブッカー(PHX)とマッチアップしたのは 3ポゼッションしかありませんが,その間に 2本のシュートを両方決めて,シューティングファールも 1 度獲得し,6得点をあげています。つまり,ブッカーとミスマッチになったら,必ず毎回得点していた,ということが分かります。「53得点」の中には,こんなにいろいろな情報が含まれているのです。マッチアップデータを使うと,選手の活躍をより深く理解することができる,ような気がしてきませんか?

 ということで,ロバーソンのディフェンスでの貢献度を理解するために,ロバーソンがディフェンスをしたときのマッチアップデータを使っていろいろ見ていきます。

1 ロバーソンにマッチアップされた選手の得点数

 まずはロバーソン相手に最も多く得点をあげた選手が誰なのか,ランキングで確認してみましょう。

 ロバーソン相手の最多得点は,ビクター・オラディポ(IND)の22得点のようです。その他,ロバーソン相手に10得点以上挙げた選手は全部で9選手いました。彼らは「ロバーソンが抑えきれなかった選手」と言えるのでしょうか。そうとは限りません。
ここで言う「最多得点」とは,マッチアップしたポゼッション数やシュート試投数などを加味していません。たくさんマッチアップすれば最終的にはある程度点が取れるので,たくさん点取った = ロバーソンを攻略した,と判断することはできません。そこで,マッチアップしたポゼッション数を横軸にとり,その間に挙げた得点数を縦軸にとった散布図[※1]を作ってみます。

 全体として,ロバーソンと 20回マッチアップしたら 5得点くらい,30回マッチアップしたら10得点くらい,40回マッチアップしたら15得点くらいあげられる傾向が見て取れます。数式で表すと

OFF PLAYER PTS = 0.5×POSS - 5

となります[※2]。この傾向を基にすると,ロバーソンが抑えた相手/抑えられなかった相手が見えてきます。
 ドリュー・ホリデー(NOP)に注目してみましょう。彼は ロバーソンと30回マッチアップして,その間に 4得点 を記録しました。全体の傾向としては,30POSSで 10得点 くらいとられているので,それと比較すると「ロバーソンはホリデーをよく抑えていた」と考えることができます。

 このように,全体の傾向と比較することで,ロバーソン効果を考えてみます。ここで高校数学の登場[※3]です。全体の傾向を示した直線からデータ点までの距離 d を計算し,その値の大小で「どれだけ抑えていたら/抑えられなかった」を判定します。d が大きいほど傾向から外れていた,すなわち「ロバーソンがよく抑えていた/ロバーソンが抑えきれなかった」ということになります。

 マッチアップしたポゼッション数のわりに点が取れなかった選手,つまり「ロバーソンがキッチリ守った(と考えられる)選手」をリストアップするとこうなります。

 ロバーソン相手に最も苦戦した(と思われる)のは JJ・レディック(PHI)です。彼は 49 POSS マッチアップしながら 8得点(3/7 FG%)しか挙げられませんでした。また,TOR のエースである デマ—・デローザン(TOR)とのマッチアップでも,45POSS で7得点(2/8)に抑えています。デローザンやクレイ・トンプソン(GSW),ジェームス・ハーデン(HOU)などスコアリング能力のある選手の得点を抑える,ロバーソン効果がうかがえます

 逆に,ロバーソンを攻略した(と推測される)選手もリストアップしてみましょう。

 やはり,ロバーソン相手に最も効果的にスコアをあげた選手はオラディポのようです。ブラッドリー・ビール(WAS)も 32 POSS で17得点(6/9 FG%)をあげ,ロバーソン相手にしっかり点を取っていたようです。

 ここまでは,ロバーソン相手にどれだけ点を取ったか,という観点で見てきました。しかし,それだけでは,ロバーソン効果を測ることはできません。マッチアップの勝敗は,一概に得点数だけで決められるものではないからです[※4]。そこで次は,ロバーソンにマッチアップされることでシュート成功率:FG% がどのように変化するか,を見ていきましょう。

2 ロバーソンにマッチアップされた選手のFG%

 ロバーソンがマッチアップするかどうかで選手の FG% がどう変わるのか見てみましょう。ロバーソンとマッチアップして1本以上のシュートを放った選手は全部で162選手です。彼らがロバーソンとマッチアップすることでシュート成功率がどう変化したのか,表にしてみました。

 『X2PA』は 2Pシュートの総試投数,『Pct.2PA』は総シュートに占める 2Pシュートの頻度[%],『X2P.Pct』は 2Pシュート成功率[%],『X3PA』は 3Pシュートの総試投数,『Pct.3PA』は総シュートに占める 3Pシュートの頻度[%],『X3P.Pct』は 3Pシュート成功率[%] です。

 表を見てみると,ロバーソンがディフェンスする / しないによる 2P%(2Pシュート成功率)の変化はほとんどないことが分かります。3P%(3Pシュート成功率)は,ロバーソンがディフェンスすることで 3% ほど減少していますが,その 3%が「ロバーソンのおかげ」なのか「たまたま」なのかは断定できません。
 一方,変化がより顕著なのは %3PA(3Pシュート頻度)ではないでしょうか。ロバーソンがディフェンスすることで,通常と比べて 3Pを撃つ頻度が 4%ほど上昇しています。考えられる仮説として次のことが挙げられます。

・ロバーソンがディフェンスをするとペイント内を攻められないので,やむなく 3P シュートを撃っている

 FG% に注目する,と銘打った章ですが,FG% ではなく %FGA の変化に着眼点を移してみましょう。ロバーソン相手に1本以上シュートを放った選手のうち,平均3Pシュート試投数が3本未満である 58選手 について,上と同様の表を作ってみます。

 %3PA が 22.9%(シュートの5本に1本が 3P シュートくらい)であることから分かるように,この選手たちは通常 3Pシュートを多投しません。しかし,ロバーソンにマッチアップされると,%3PA が31.9%(3本に1本が 3P シュートくらい)まで上昇します。ロバーソンのディフェンスによって,普段あまり撃たない 3P シュートを撃たされていることが推測されます。また,その成功率も,ロバーソンがディフェンスすることで 34.2%(3本に1本スリーが入るくらい)から 20.7%(5本に1本スリーが入るくらい)まで低下しています。ロバーソンのディフェンス効果で,得意ではないシュートを無理やり撃っているのかもしれません。

・ロバーソンがディフェンスすることで,3Pシュートが得意ではない選手に 3Pシュートを強いている。

 逆に今度は,ロバーソン相手に1本以上シュートを放った選手のうち,平均3Pシュート試投数が6本以上である 27選手について,3Pシュート頻度の変化を見てみましょう。

 わずか4%だけではありますが,ロバーソンがマッチアップすることで,3Pシュート頻度の高い選手が撃つ 3Pシュートを抑制されたことが分かります。先ほど見た例とは逆に,3P が得意な選手の 3P 頻度は下がっているのです。成功率も3%だけですが低下していることが分かります。わずか4%なので何とも言えませんが,ロバーソンのディフェンスによって,3Pシュートを撃たせない対応ができていた可能性があります。

**・ロバーソンがディフェンスすることで,3Pシュートが得意な選手に 2Pシュートを強いていたのかもしれない。 **

 まとめます。最初に「ロバーソンは相手に3Pシュートを撃たせるディフェンスをしているのかも」との仮定を立てましたが,どうやらそうではないようです。ロバーソンのディフェンスは,3Pが得意ではない選手に3Pシュートを撃たせ,3Pが得意な選手に3Pを撃たせない効果があったのかもしれません。つまりどういうことか。

ロバーソンのディフェンスは相手の長所を消すことができる(のかもしれない)

 もしそうだとすると,ロバーソンは素晴らしいディフェンダーであると言えるでしょう。

 ということで,今回も結論は「ロバーソンありがとう」ということになります。が,これまでの記事ではロバーソン「だけ」に注目しています。ロバーソンが優秀なディフェンダーかどうかは,他のディフェンダーと比較して初めて決まることです。なので「ロバーソンは良いディフェンダーだ」と断定するのはまた今度にしておきます。まあどう考えても良いディフェンダーなんですけどね。

おわり。

[※1] 15ポゼッション以上マッチアップした選手が対象
[※2] 統計学的処理で求めた回帰直線ではなく,なんとなく目で見て決めた数式なので注意

[※3] 高校…だったっけ…?
[※4] 例えば「10回マッチアップして10点取られたけど5回ターンオーバーを誘発した」って場合だと,オフェンスとディフェンスどちらが「勝った」ことになるのかな?

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